元、美少女5
「ま、あんたに分かるはずないわ。だって、まだあんたはサッカーを無くしてない。協会に恨みもない。それどころか、ちゃんと愛されてる。たまにいんのよ、そういう恵まれたやつが。プロって、そういうやつらのいる世界なの。──だから、競争は甘くないわ」
桃は、両手をジャケットのポケットに突っ込んで立ち上がった。
「でも、ここでも、プロに行ってからも、あんたがそうしたいなら、プレーを楽しんじゃっていいのよ。ただ、楽しみながら勝つには、圧倒的に上手くないとね。背中丸めてる場合じゃねーっての、だんご虫くん!」
翔を見て、もうひとついたずらっぽい笑みを投げた桃が、踵を返そうとする。
翔は、とっさにそのスカートのすそを引っぱった。
「なに?」
「猿渡は、どうしてあそこにいるの? プロをめざそうとすればできるよね、あいつなら」
なんといってもまだ高校一年なのだ。
今さらプロの下部組織に入ったり強豪校に行くのは無理にしても、大学に進学してからプロ入りするという道は残っている。
「そんなに協会に恨みがあるってこと?」
「さあ。望のことなんて訊かれたって知らないわよ。グレてスイカを蹴ってたはなしは知ってるけど、グレてた理由も謎だもん」
「え。桃ちゃ……桃さんて、猿渡のカノジョなんじゃないの?」
す、桃の目が据わった。
「は? 冗談よしてよ、あんなガキんちょと、どうしてわたしがー?」
桃が、翔の両頬をムニ、とつまんで睨めつけてくる。
かがんだせいで襟ぐりから黒い下着がのぞいて、翔はあわてて視線をそらした。
見かけはともかく、大人だったんだこのひと、とおかげで翔は思い出した。
「言っとくけどね。男は、わたしよりサッカーが上手い四十才以上って決まってんの!」
ぽろ、と翔の指は桃のスカートからはがれ落ちた。
自分は完全にアウトだ、とおもう。
あくまでも、年齢の面で、だが。
「童顔と年上好みは甲斐田家の遺伝らしいわ。うちの娘も、今から望にぞっこんだもん」
おもわず、ぽん、と翔は手を打った。
「あの、猿渡の足にしがみついてた幼女?」
「そうそう、それそれ。……ま、たしかにちょっともったいないかもね。望がプロになったら、女性ファンを量産しそうだし。鬼ノ山リーグにおばちゃんが集まってきたみたいに」
桃のことばに、チカ、と頭のすみでなにかがひらめく。
が、それが何なのかは、当の翔にもそのときはさっぱり分からなかった。




