サッカー部員と1
球技大会をおもいがけず初戦で敗退してしまった結果、翔にはけっこうな非難と失望の声が向けられた。
もちろん翔も、期待を裏切ったことは分かっていたので、なにを言われたって仕方ないとはおもっていたのだ。
プロチームの下部組織といっても大したことない、エリートのくせに使えない、そんなことばであれば甘んじて受け入れただろう。
サッカー部員でも何でもない猿渡の前にほとんど手も足も出なかったのは、まぎれもない事実なのだから。
けれど、翔を待っていたのは、校内の球技大会だから手を抜いたんだ、という卑怯者のレッテルだった。
──実際のところ、卑怯者とまでは誰も言わなかったが、そんなことをする人間は卑怯だと翔はおもう。
手抜き、と見られた理由はかんたんだ。
翔たち一年F組を破った一年B組が、準々決勝でころりと二年のクラスに負けてしまい、代わりに優勝してしまうような強さとは見るからに無縁だったこと。
加えて、あれほど翔を苦しめた猿渡がなぜか、F組との試合以降はゴール前からほとんど動こうとせず、単なる素人キーパーにしか見えなかったことも大きかった。
B組との試合を見ていたクラスメートたちから手抜きをしたと責められることはさすがになかったものの、期待外れだったことは彼らにとってもおなじで、翔の味方をしてくれたとは言い難い。
そんな中、的外れな手抜き説に当人以上に怒り、猿渡の存在にこだわる翔に理解と共感を示してくれた人間もいる。
それまで、翔とはほとんど何の接点も持たずにいた、サッカー部員たちだ。
翔にイエローカードを突きつけた審判の二年生以外にも、あのとき翔のプレーをめあてに試合を見ていた部員が何人もいて、みな、猿渡はぜったいに只者ではないという意見で一致していた。
あいつはほんとうにサッカー部じゃないのか、入部してきたものの高い実力に嫉妬して追い出したとかでは、とけっこう失礼な疑惑をぶつけに部室まで押しかけた翔に対して、彼らは嫌な顔もせずに、いっしょになって猿渡がもつ実力の謎を解こうとしてくれた。
別次元にいるとおもっていた翔の敗北やおもいがけない接近が歓迎されたという以上に、サッカー部にとっても、猿渡はその正体を知り、できれば仲間に迎えたいとおもう人材だったからだろう。
しかし、彼らはその日のうちに、勧誘を断わられてしまったのだそうだ。
理由は、すでにバスケットボール部に入っているから、という意外なものだった。
実は、サッカーの一種ではあるが十一人制とは別にリーグが存在し、強化も単独で行われているフットサルにおける、翔のような有望選手──というのが猿渡の正体としてかなり有力だったのだが、それならばわざわざべつの運動部に所属して故障のリスクを負うことなどしないだろう。
翔は単純に、強豪校のサッカー部に馴染めず転校してきたのでは、とおもっていたが、そんな事実もないようだ。
サッカーのようにそれなりに競技者が多く、各年代のチームが県内に百も二百もある中で、ひとりぐらい上手い選手が降って湧いたところで、べつにおどろくことはないと、サッカー経験者でなければおもうのかもしれない。
だからこそ、翔が猿渡のプレーに受けた衝撃を理解できたのは、サッカー部員だけだったと考えられる。