サッカー部員と2
サッカーの育成世代でおのおのの実力を語るとき、所属するチーム名の他に指標となるのが、トレセン経験の有無だ。
市内など、その地区にあるチームの中から、優れた選手たちを協会側が選抜してトレーニングさせる制度を、地区トレセンという。
さらに、その中から優れた選手を都道府県単位であつめたものを県トレ、関東や関西など地域に対象を広げたものを地域トレセンといい、最終的に全国からあつめられた選りすぐりの実力者、ナショナルトレセンを頂点としたピラミッド型のトレーニングセンターという方式で、協会主導の強化と才能の管理を行う──それこそが、サッカーにおける育成の特筆すべき特徴と言えた。
つまり、どこかに優れた選手が居れば、チームの成績などとは関係なく協会の目に留まり、ランクづけがされるしくみを、サッカーは持っている。
逆の言い方をすれば、どこに隠れていようとも、実力者であればもれなく見つけ出されてしまうはずなのだ。
翔は小学生のころから県や地域のトレセンには欠かさず選ばれており、県内や近県でプロをめざすレベルにある選手はほぼ、どこの誰だか把握できている自信がある。
大会やトレセンで、とつぜん見たこともない才能の持ち主が現われて圧倒された経験など、ただの一度もない。
仮に自分が顔や名前をおぼえていなくても、周囲に訊けば、いつからどこでサッカーをやっている人間かぐらいのことは容易に知ることができた。
サッカー界というのは広いようで、実は上に行けばおどろくほど狭い世界なのだ。
仮に、他地域から転校してきたような場合でも、実力者であればトレセンに選ばれるまでもなく、現所属の周辺で必ず話題になっている。
要するに、翔やクラブのチームメイトのみならず、サッカー部員やその周辺でまで、一切名前を知られていない猿渡のような存在は、ふつうでは考えられない。
もちろん、猿渡が正真正銘のサッカー素人であるのなら話は別だが、彼とおなじことができるかと言われたら、サッカー部員の答えはノーだ。
猿渡の翔封じをその目で見ておきながら、とてもあんな真似はできないというのが彼らの素直な感想だった。
馴れないスニーカーを履いた翔がシュートコントロールに失敗した結果としての無得点ならいざしらず、元々アタッカーで、隙あらばシュートを撃つ意思と技術をもった翔にプレッシャーをかけつづけるなど、全国レベルで通用する守備力と言っても過言ではない。
「やっぱりさー、単に、徹底した姫田対策の勝利なんじゃねーの?」
この数日、昼休みになると翔はグラウンドで数人のサッカー部員とボールまわしをしている。
翔が勝手に、例の審判の二年生──薮になついたため、メンバーは大抵が二年生だった。
その薮が主張するのは、翔に対する私怨説と言うべきものだ。




