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山賊リーグへようこそ  作者: 十七夜
4:居場所
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山賊リーグ5

「鬼ノ山リーグでやってるのはサッカーじゃない、意味が分からないなら辞書をひけって、健太さんに言われたんだ」


電子辞書を貸しついでに兄が説明してくれたところに寄ると、アソシエーションとは、協会のことらしい。

フットボールと言えば、サッカーに限らず、アメリカンフットボールも、ラグビーも含まれる。

かつて、ラグビー式のフットボールなどとは袂を分かち、フットボール協会の元で十一人制の統一ルールが定められた。

そのルールに沿って行われるものこそが、アソシエーションフットボール──俗称をサッカーという。


翔は、まん丸いボールを蹴るスポーツは全部サッカー、とおもっていたが、十五年間生きてきて、はじめてその誤りに気づいた。

兄曰く、かのスポーツをサッカーと呼ぶ方がそもそも少数派で、翔とおなじ感覚でもって、単にフットボールなどと呼ぶ国の方が圧倒的に多数派らしい。


サッカーとは、厳密には十一人制であり、かつ協会の枠組みの中で行われるものなのだ。

考えてみれば当たり前だ。

およそ、小学生から、大人まで、チームに所属してサッカーをしているものは、サッカー協会に選手として登録されている。

されていない、いわゆる草サッカーチームもあるのだろうが、登録していなければ、協会が主催する大会やリーグに出場することができないのはたしかだ。


鬼ノ山リーグがやっているのはサッカーか、と問われれば、今なら翔もノーと答える。

あまりにあたりまえの光景で意識したことさえなかったが、公式戦ともなれば、ゴールキーパーを除くチームの全員が同一のユニフォームを身につけてピッチに立つ。

ベンチにはかならず監督がいるし、ゲームを裁くレフェリーも必須だ。

加えて、彼らはカテゴリーに応じた協会発行のライセンスを所持していなければならない。

──それが、サッカーと呼ばれる競技のすがたであり、例外はなかった。


「サッカーは無くした、って言ってた。おまえも言ってたよな、サッカーはとっくの昔にやめた、って。それって、もう協会には登録してないって意味?」

「ちがう。協会とは縁を切ったって意味だ」


翔は、猿渡の皮肉げな表情を見つめる。


「おまえはあそこを楽しいと言ったが、当然だろう。あそこは、ただフットボールを楽しむためだけの場所だからな。あそこに来る人間は、強さも金も夢も求めていない。求めたところで、なにも手に入らない。──そのかわり、誰の指図も受けずに、自由にやれる」


猿渡は、翔の胸をとん、と指さした。


「おまえのように勝者になりたいやつは、表の世界で、サッカーをするしかないんだ」

「おもてのセカイ……?」

「そうだ。強化が勝利を呼び、勝利が人気を呼び、人気が金を呼ぶ──それが、協会支配のサッカー界ってやつだろう? プロになるなら、おまえはそのヒエラルキーをいやが応でも上り詰めて行くんだ」


猿渡は、不意に翔の背後に向かって歩き出す。

振り返れば、翔が捨てたカバンを拾いあげて、差し出してきた。


「行けよ」


どこに、とは言われなかったが、翔は彼がトップチームへの練習参加の件を知ってて言っているのだと直感する。


「俺たちは、そのヒエラルキーを上りも下りもしない。あそこはな、鬼頭きとうのオジジが作った、その名も山賊リーグというんだ。協会という、まっとうな世界からのはみだし者たちがあつまる場所──」


猿渡は、ボフ、と翔に向かってカバンを放って寄越した。

踵を返しつつ、視線だけを翔の顔にとどめている。


「おぼえておけ。山賊リーグは非・協会じゃない。俺たちはみんな、反・協会なんだ」


それだけ言うと、猿渡は自分のバッグを肩に負いなおし、大股で去って行った。



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