元、美少女1
土曜日、翔は五日ぶりにU-18チームに合流して平穏な空気を味わっていた。
ただし、先週につづいて今週もベンチ入りメンバーからは外れ、試合には出してもらえずにいる。
先週は、練習をサボっていた翔が悪いが、今週はあんなにがんばったのに、とおもわずにはいられない。
ここでさえも、必要とされないのなら…………いっそ、やめてしまおうか。
じわり、と胸にわき上がってくる考えを押しつぶせるものは、今のところ、だからってサッカー以外の何を仕事にできるだろうか、という底のない不安だけだ。
自分がやりたいのは、サッカーなのか、フットボールなのか。
それからして、翔にはまるで分からなかった。
少なくとも、これまで好きだとおもってやってきたのはサッカーにちがいない。
けれど、今、仲間として親近感をおぼえるのは、フットボールをやっているひとたちであって、サッカーをやっている人間ではない……それもまた、たしかなことだ。
ねえ、俺。
サッカーが、好き?
こたえを待つ翔の視線の先にある芝に、フッと影が落ちた。
「しょんぼり丸まって、おまえはだんご虫かってーの!」
膝を抱えて座っていた翔の背中がとん、と蹴られた。
トーキックではなくインフロントキックだな、と当たった感触で分かる。
声は口調に反してかわいらしく、しかもどこかで聞いたもののようにおもえた。
顔を上げた翔は、いつの間にか目の前で行われていたはずの試合が終わっていたことに気がつく。
背後を振り返ってみると、あわやミニスカートの中が見えてしまいそうになって、翔は座ったままあわてて飛び退った。
「桃、ちゃん──!」
「ちゃんって……」
「あ、ごめん。猿渡か誰かが、そうやって呼んでたから」
「たぶん、健さんじゃないの? 望だったら、蹴り飛ばしてやるんだから!」
いや、やっぱり猿渡だ、とか言ってやろうかとおもったが、翔はそんなことは置いておく。
「ねえねえ、どうしてここに居んの?」
「ん? あんたがどうしてるかなー、とおもって試合を見に来たつもりだったんだけど。出てないでやんの。がーっかり」
おもわず、ごめんなさい、と翔は謝りそうになった。
自分が悪いのだろうか、と考える。
「はるさんに聞いた。トップチームの練習に行ってたんだってね。ついていけた?」
「はるさんって誰? そんなひと居たっけ」
ひら、とスカートをひらめかせて、桃が急にしゃがんだ。
今、パンツが見えたかも……とおもった翔のひたいがピン、と弾かれる。
「そんなひとってね。自分が所属してるチームの監督の名前を知らないわけ? 晴山寛、四十八才、乙女座A型、既婚──でしょ?」
「いや、そんなの知らない……」
名字だけはさすがに知っていたが、名前以下は翔にとってはどうでもいい情報だ。




