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山賊リーグへようこそ  作者: 十七夜
3:元サッカー選手
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兄2

「なに言ってんの。やくざなんて今時いるわけないじゃん。兄ちゃん、古すぎー」


笑い飛ばした翔の頬に軽い衝撃が走る。

叩かれたのだと、すぐには気づかなかった。


「翔! おまえが急に外泊するなんて言い出して、兄ちゃんがどれだけ心配したか分かってるのか? ツカサ、とかいう友だちのところに泊まるって言ったらしいけど、そんな名前のやつは、ヴェミリオンのU-アンダー18にも15にも居やしない。そのくらい、チームの公式ホームページを見れば調べられるんだからな」


つり上がった兄の目から、翔は顔を背けた。


「友だちだもん。司は、俺の友だち。クラブのやつだなんて、べつに言ってない。ウソついたりしてないもん、俺」

「おまえ、月曜はパパといっしょに帰ってきたよな? 昨日も、クラブに仮病の連絡入れて、練習に行かなかったそうじゃないか」


ぎょっ、と翔は兄の顔を見る。

兄は、胸の前で腕を組んだ。


「クラブから電話があった。なにが、卵アレルギーだ。ママが出てたら、二重に心配させるところだったんだぞ。一応コーチには、今日は行くって言ってたけど、学校でまた症状が出たか、それとも電車に乗り間違えて反対方向に行ったのかも、ってちゃんとごまかしといたけどな!」


翔は、素直に礼を言う気にはなれなかった。

いくらなんでも、電車ののぼりとくだりをまちがえるほどまぬけではない、とおもう。


「携帯にいくら電話しても、電源が入っていないの一点張りだし。電源まで切って、こんな遅くまでおまえはどこで遊んでたんだ」


瞬間的に、翔は手にしているものを投げつけたい衝動に駆られた。

ただ、今、翔の手の中にあるものに放り投げられるようなものは、なにひとつない。

代わりに、翔は兄の脚を蹴りつけた。

健太が怜司を蹴るのより、ずっと強く。


「うるさい。遊んでなんかねーもん! 勝手に決めつけんな。兄ちゃんのくそやろう!」


すねを押さえてしゃがみ込んだ兄が、ぼうぜんと翔の顔を仰いだ。


「……くそ?」

「自分だって、彼女つくってどっか行ったり、外泊したりしてるじゃん。帰って来るのだって、いっつも遅い。自分は遊んでおいて、俺に偉そうなことが言えんの?」


翔はくちびるを噛む。

こんなにぐつぐつと腹が立つのは、「遊んでた」ということばがひどく癇に触ったからだ。

自分はサッカーをしていたんだから責められる謂れはない、そうおもう反面、自分がたしかに楽しんでいたという自覚が、翔に一抹のうしろめたさを抱かせずにはいなかった。


「大学出て、学校の先生になったら遊べないから、ってママは笑ってたけど。それを言うなら、俺だって、高校出てプロになれたら、寮に入ってサッカー漬けだよ。プロになってからも、やめてからも、競争しかないって司が言ってた。それでも俺は、好きなひとたちと、好きなことひとつしちゃいけないの?」


立ち上がった兄の両手が、翔の二の腕を掴んだ。



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