相棒(仮)と美少女(仮)3
少なくとも、指示されたとおりの動きをしてそこにパスが出てくる、そんな型どおりの練習には、よろこびもないし、シュートにきもちだって入らない。
今までは、それがあたりまえで、強くなるための道だと翔は信じていた。
でも、だったらここにいるひとたちは弱くて、見習うところなんてひとつもないのか?
──それはちがう。
ぜったいにちがうと、それだけは翔にも分かった。
たとえささやかでも、全員が自分の武器をきちんと持ち、かつ、それを生かす方法を自分も、仲間も、考えながら動いている。
ボールを動かすとき、かならずそこには意図があり、それをみんなが当然のこととして察していた。
おしえられたわけでもないのに、なぜか、翔さえも。
監督の考えに沿うためでも、パサーが偉いからでもない。
誰かが、自分を生かそうとしてくれる──その意図を、決して見逃したり聞き逃したりはしたくないからだ。
他に、こんなにも真剣にゲームの流れを追う理由なんて、存在するだろうか。
畦道を挟んで、ボールを持った5番と目が合う。
すぐ側には、例の美少女の気配がある。
行けるか、と彼は訊いていた。
翔はうん、と視線だけで返す。
二歩、左に動いてマークを釣った上で、翔はパサーから視線を切ってすばやく右に進路を変更した。
このへんにパスが出てきたらうれしいな、とおもったスペースに、ぽん、とボールが送られてくる。
かるいトラップでドリブルに入った翔は、あわてて寄ってきたおじさんディフェンダーをスパッ、と切り返しで躱してみせた。
と、横から鋭いスライディングタックルが入る。
そこはまだペナルティエリアの外だった。
それでも、ファール覚悟の軸足ねらいなんかじゃないはず──そう信じた翔は、冷静に背後に視線を投げた。
と同時に、ヒールでパスを出す。
畦道を飛び越えて上がってきていた5番にボールが渡ったとき、翔も美少女の体をぴょん、と飛び越していた。
ゴール前に走り込んだ翔は、出てくるパスを止まって待つことになる。
ふと、ボレーシュートだここは、そうひらめいた。
頭に浮かんだイメージを再現すべく、勝手に体がうごく。
ゴールを見たときには、ボールは足に当たっていた。
キーパーの位置を認めたときには、足はすでに振り切っている。
それでも入るという確信が、翔にはあった。
だって、翔のイメージしたとおりの場所に、翔が知るかぎりもっともやさしいパスが来たのだ。
外す、理由がない!
ボールがゴールネットに突き刺さったのを見届けるやいなや、翔は両手を広げて踵を返した。
一拍おいて、5番の体が真っ正面からぶつかってくる。
お互いに、よく分からない声を上げて抱き合った。
その頭や肩が、つぎつぎに叩かれる。
どのくらい抱擁と祝福がつづいたのか。
ようやく翔のまわりから緑のビブスが離れたとおもったら、ずんずんオレンジ色が近づいてくる。
右手を掲げているのは、あの美少女だ。
ブ、ぶたれるの、俺? ゴール決めたから?
あ、上を飛び越えちゃったからかもっ!
ゴメン、と謝ろうとした翔の目前で、手が止まる。
しばし見つめて、翔はアッと叫びそうになった。
あわてて右手を上げてみせると、彼女はにっこりと笑って、ぱん、と手を合わせてくる。
じん、としたのは手のひらだったのか、肺のあたりか。
「ナイスボレー、そばかすくん! ヒールパスもかっちょ良かった、しびれたぞ」
「上、越えてっちゃってごめんね」
「いいのよ、女あつかいされる方がムカツク。……あれ、そのそばかすってニセモノ?」
「しー、しー! 変装してるんだ」
くちびるの前に人差し指を当てた翔を見て、何でまた、という顔をしたものの、美少女は変なの、と笑っただけで理由は訊かなかった。