表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
山賊リーグへようこそ  作者: 十七夜
3:元サッカー選手
43/79

相棒(仮)と美少女(仮)3

少なくとも、指示されたとおりの動きをしてそこにパスが出てくる、そんな型どおりの練習には、よろこびもないし、シュートにきもちだって入らない。

今までは、それがあたりまえで、強くなるための道だと翔は信じていた。

でも、だったらここにいるひとたちは弱くて、見習うところなんてひとつもないのか? 

──それはちがう。

ぜったいにちがうと、それだけは翔にも分かった。

たとえささやかでも、全員が自分の武器をきちんと持ち、かつ、それを生かす方法を自分も、仲間も、考えながら動いている。

ボールを動かすとき、かならずそこには意図があり、それをみんなが当然のこととして察していた。

おしえられたわけでもないのに、なぜか、翔さえも。

監督の考えに沿うためでも、パサーが偉いからでもない。

誰かが、自分を生かそうとしてくれる──その意図を、決して見逃したり聞き逃したりはしたくないからだ。

他に、こんなにも真剣にゲームの流れを追う理由なんて、存在するだろうか。


畦道を挟んで、ボールを持った5番と目が合う。

すぐ側には、例の美少女の気配がある。

行けるか、と彼は訊いていた。

翔はうん、と視線だけで返す。

二歩、左に動いてマークを釣った上で、翔はパサーから視線を切ってすばやく右に進路を変更した。

このへんにパスが出てきたらうれしいな、とおもったスペースに、ぽん、とボールが送られてくる。

かるいトラップでドリブルに入った翔は、あわてて寄ってきたおじさんディフェンダーをスパッ、と切り返しで躱してみせた。

と、横から鋭いスライディングタックルが入る。

そこはまだペナルティエリアの外だった。

それでも、ファール覚悟の軸足ねらいなんかじゃないはず──そう信じた翔は、冷静に背後に視線を投げた。

と同時に、ヒールでパスを出す。

畦道を飛び越えて上がってきていた5番にボールが渡ったとき、翔も美少女の体をぴょん、と飛び越していた。

ゴール前に走り込んだ翔は、出てくるパスを止まって待つことになる。

ふと、ボレーシュートだここは、そうひらめいた。

頭に浮かんだイメージを再現すべく、勝手に体がうごく。

ゴールを見たときには、ボールは足に当たっていた。

キーパーの位置を認めたときには、足はすでに振り切っている。

それでも入るという確信が、翔にはあった。

だって、翔のイメージしたとおりの場所に、翔が知るかぎりもっともやさしいパスが来たのだ。

外す、理由がない!


ボールがゴールネットに突き刺さったのを見届けるやいなや、翔は両手を広げて踵を返した。

一拍おいて、5番の体が真っ正面からぶつかってくる。

お互いに、よく分からない声を上げて抱き合った。

その頭や肩が、つぎつぎに叩かれる。

どのくらい抱擁と祝福がつづいたのか。

ようやく翔のまわりから緑のビブスが離れたとおもったら、ずんずんオレンジ色が近づいてくる。

右手を掲げているのは、あの美少女だ。


ブ、ぶたれるの、俺? ゴール決めたから? 

あ、上を飛び越えちゃったからかもっ!

ゴメン、と謝ろうとした翔の目前で、手が止まる。

しばし見つめて、翔はアッと叫びそうになった。

あわてて右手を上げてみせると、彼女はにっこりと笑って、ぱん、と手を合わせてくる。

じん、としたのは手のひらだったのか、肺のあたりか。


「ナイスボレー、そばかすくん! ヒールパスもかっちょ良かった、しびれたぞ」

「上、越えてっちゃってごめんね」

「いいのよ、女あつかいされる方がムカツク。……あれ、そのそばかすってニセモノ?」

「しー、しー! 変装してるんだ」


くちびるの前に人差し指を当てた翔を見て、何でまた、という顔をしたものの、美少女は変なの、と笑っただけで理由は訊かなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ