相棒(仮)と美少女(仮)1
翔が入れてもらったのは、司とおなじ緑チームだったが、相手のオレンジチームには翔が目を疑うほどパスの上手い女性が何人も居たのだ。
その中のひとりは、翔のクラスにいたら一日中眺めていたくなる、明るい笑顔の美少女だった。
ただし、相手の股抜きばかりをねらう悪趣味なテクニシャンで、キーパーさえもおびえて足を閉じたり手を下ろしてしまう。
最初、屈辱を味わうのが嫌で男たちはそんな反応をしているのだろうとおもったのだが、翔もやられて分かった。
彼女の股抜きは、グラウンダーのパスではなくやや浮かした球を蹴るときのキックの仕方に見えるのだ。
もちろん、とっさに体を硬直させると、するりと、脇を抜き去られてしまう。
「あはは。ビビってんなよ、そばかすくん!」
「司っ! なにあのひと、なにあのひとー」
くやしさに地団駄を踏んだ翔の肩を、ぽんぽん、と司が叩いた。
「まあ、あれ、まともに行って抜けないときしかやらないから。認められてるとおもって」
ちなみに、そばかすくん、というのは司のアドバイスを受けて変装をしている翔のことを指している。
借りた水性ボールペンで頬にこれでもかと点を散らせた翔に司はあきれていたが、これならばあごをしゃくれさせる変装とちがって、ふつうにしゃべれるし、つい気を抜いて忘れてしまう心配もない。
「へい、へーい! 5番のおにーさん、パスちょうだい、パスー!」
叫びながら手をぶんぶんと振った翔に、5番のビブスをつけた男性の視線が返る。
アイコンタクトと目線の動きだけで、走れ、と言われているのが分かった。
翔が走り出すと、ディフェンダーの裏にポンとボールが出てくる。
「ナァイスパス!」
「決めろ!」
おもわず声を上げた翔の背中に、太い声がかかる。
瞬間、わけのわからない心地よさが胸に湧いた。
うんっ、と心の中で応える。
ひとつ、またぎフェイントを入れタイミングをずらしてから放ったシュートは、膝をついたキーパーの左をすり抜け、ゴールネットを揺らした。
両手を上げて振り返った翔がアシストしてくれた5番のすがたを見つけるより早く、つぎつぎと緑色のビブスが視界にあつまってくる。
「ナーイスだ、若けーの」
六十代くらいの男性がぐしゃぐしゃと翔の前髪を掻き回した。
二十代前半のひょろりと背の高い男性は、無言で翔を抱きしめてくれる。
司もえがおでハイタッチしに来てくれた。
そして、5番の男性は近づくなりぐいっと首を抱き寄せ、逆の手でぐりぐりと翔の頭を撫でてくる。
「いやー、今、俺、うっかり高校時代にもどった気分だったわー」
「おにーさんのパスさ、どんピシャで、超シュートしやすかった!」
「おう、サンキュ。おまえ、前線に張ってろ。俺らでゴール奪いまくって、桃嬢に対抗しようぜ。俺ら、オレンジにいっつも点を取り負けてんだ。けど、今日はぜってー勝てるぞ」
「オーッス」
もういちど視線を合わせてうなずき合うと、初対面で名前も年齢も知らない男性が、翔には頼りになる相棒のようにおもえてきた。