中学生:司6
「卵の殻からも、なにか見えないものが出ててその辺を飛んでるんじゃないの、きっと」
ね、と同意を求めた視線に、司はうなずいてはくれなかった。
ただ、それ以上の否定も返ってはこない。
キッチンでは、コップを拭きながら司の母親がふわふわと笑っている。
「まあ、害がないならいいけど。その卵はね、亀村印の有精卵。昨日、おばさんにもらったんだ。卵かけごはんにするとおいしいよ」
司にならって、翔は湯気が立ちのぼるごはんの上に卵を割り入れた。
箸で黄身も白身も持ちあげられるほどに張りがあって、いかにも新鮮な卵らしい。
「司はさ、いつもあそこでサッカーしてるの? 第3種のチームには入らずに、大人たちといっしょに?」
「学校のサッカー部にも入ってるよ」
「あ、なんだ」
「ただし、今のところは幽霊だけど」
「ユーレイ?」
ぎょっ、と翔は箸を運ぶ司の顔を凝視した。
「幽霊部員、って言うよね、練習に出ない部員のこと。一応、試合があれば行くけど、大会なんて年に二回ていどで、だいたいうちの中学は一回戦負けだから」
「じゃあふつう、もっとサッカー部の強い学校に行ったり、クラブチームに入ったりしない? それよりも、大人たちといっしょにやる方が上手くなるもんなの? 猿渡みたいに」
「望くんは、元々かなりのテクニシャンだったらしいから、ああなれるかは分からないけど。どうしてあそこでやるのかってことなら、かんたんだよ。指導者ってものがいないから」
「えっ? 指導者がいなきゃ強くなれないし、試合にも勝てないじゃん」
翔の顔を見て、司はため息をつく。
「まあ、それはそうかもね。でも、僕は自分で考えない生き方は好きじゃない。こうすれば勝てるとか、強くなれるとか、そんなことばで子どもをコントロールできるとおもっている、幼稚なライセンス取得者たちもね」
幼稚な?
コントロール?
あっけにとられている翔に、司が肩をすくめてみせた。
「生意気な中学生の言うことより、指導者たちの言うことの方が正しいとおもうよね?」
「どっちが正しいかは、分かんない。ただ、司が俺よりずっと賢いことは分かるから、俺が知らないことを知ってたってふしぎじゃない、とおもう。俺、猿渡もそうなんじゃないかなっておもって。だから、それが知りたくてあいつの跡をつけたんだ」
「──僕が知っていることはね。プロになりたいってみんな言うけど、そんなのはただの通過点にすぎない、ってことかな」
翔は目を見開いた。
おなじようなことを猿渡にも言われた、そう気づいたからだ。




