中学生:司4
ほとんど乗客のない列車の中から家に電話をしようと試みていた司は、途中であきらめたように携帯電話を閉じて翔に差し出す。
「そういえば、この辺って、通信会社によってはまるで電波が入らないんだって。あなたはうちの固定電話から家に連絡を入れなよ」
「司は大丈夫? いきなり俺のこと連れて帰って、ママに叱られたりしない?」
「叱られないよ。あのままあなたを駅に置き去りにした方が、両親に顔向けできない。僕、家に友だちを連れて来たことなんてないから、むしろ両親はよろこぶんじゃないかな」
「え、なんで? 学校に友だちいないの?」
「そんなことはないけど……学校から一時間の距離を誘うほどには、親しくもないから」
「学校から一時間? あれ、あの亀村中学ってところの生徒じゃないの?」
「あそこは廃校だよ」
翔は、四人掛けシートの向かいに座る司の顔を、まばたきをしつつ見つめた。
「ハイコーってなに?」
「あなた、高校生なんだよね? 廃校を知らないわけ? もう、学校としては使われてないってことだよ」
「あー、あー、知ってた。うん、知ってた」
「めちゃくちゃ目が泳いでるんだけど」
「だって、だって、ハイコーになんて通ったことないんだもん。知るわけないじゃん」
翔の主張に納得したのか、司は小さく笑って引き下がる。
しばらくして、ぽつりと言った。
「──ごめん。さっきの、ほんとは嘘」
「え?」
「学校にいるのは、ただのクラスメート。友だちなんていないし、いらない。つまらない雑談なんて、するだけ時間の無駄だから」
ぽかん、と口を開けた翔に、司はほほえんだ。
「と、おもっていたんだけど。ふしぎだね、あなたと会話するのは、けっこうたのしい」
「それって、それってさ、俺と友だちになりたい、とか言ってる?」
「いや、言ってないよ、べつに」
そっけない返答に、翔は肩を落とした。
「俺もね、中学ぐらいから、友だちが家に来たりってない。学校では、なんとなく別世界あつかいされてるし。チームメイトはみんな火花散らしてて、サッカー話で盛り上がったりとかしないんだ」
翔はむう、と思い出し笑いならぬ、思い出し怒りをした。
「だからってテレビのはなししても、二ヶ月遅れてるー、とかばかにされるんだよ。隣の県よりもチャンネルが少ないのは俺のせいじゃないのにぃ」
司は、翔の顔をおもしろそうに見ている。
「望くんと友だちになったら? あのひとも基本、同年代の友だちっていなさそうだよ」
「司がいい。司の方が、やさしいもん」
「やさしい? 僕が?」
「うん。だって、線路走ったらあぶないこととかおしえてくれて、さっき会ったばかりなのに、家に泊めてくれるしさ。俺、お行儀の悪い友だちを連れて来てー、っておもわれないように、ちゃんといい子にしとくから。あ、おみやげはこの大根でいいかな、もらいものだけど」
スポーツバッグから引っぱり抜いて見せた大根に、くすっ、と司が笑った。