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山賊リーグへようこそ  作者: 十七夜
2:亀村にて
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解説者6

「褒められるのは反射神経くらいだろう。ふつうのキーパーなら横っ跳びでキャッチングして、すぐさま攻撃につなぐところだ」


……それはそうかもしれない。

が、まだ翔の胸はどきどきいっている。

あの飛び蹴りをおもいだすだけで、この先一ヶ月は興奮できそうだ。


「でもさ、でもさ。もしも、プロの試合に行ってあんなプレーを見ちゃったら、ぜったいにまた行こうっておもうよ。横っ跳びでキャッチングなんて、一瞬で忘れるに決まってるけど」

「そうだな。──坊主の言うとおりだ」


それまでとはちがって、やんわりと頭を撫でられる。

翔はきょとんと男性を見た。


「え、おじさんもそうおもうの? だったら、どうしてプロにああいう選手がいないんだろ」

「どうしてかは、坊主も知っているはずだ」

「えっ……?」


いくら見つめても、男性からそれ以上の返事は返ってこなかった。

ただ、頭を撫でてくれた手の重みが、なぜだか心に引っかかる。

まるで、その疑問を忘れるな、と言われているかのようだ。


ピッチでは、スローインからのクロスボールに対して、猿渡が果敢にゴール前に飛び込む。

ヘディングする前にキーパーと空中でぶつかり、結果、吹っ飛ばされて尻餅をつく羽目になったが、起こそうとするタロウの手を取った顔は実に愉快そうだった。

は? あいつ、ちゃんと笑えるんじゃん!

学校ではサッカーが好きなのかどうかも分からなかったが、今は、心から楽しんでいるようにしか見えない。

プレーのたびに、黒チームのメンバーと声をかけ合いイメージをすり合わせているからか、試合開始当初よりも、目に見えて連携もスムーズになっていた。

と、ピピーと笛の音が煌々と照らされたグラウンドにひびきわたる。

どうやら前半が終わったらしい。

次の瞬間、翔は衝撃の事実に気がついた。


「前半、ファールがいっこもなかったよ!」

「ここでは、べつにめずらしくもないぞ」


ぎょ、とした翔の視線に、男性がうなずく。


「軽いものであればぜんぶ流すし、完全なファールでもって相手を止めることなど、べつに誰も求めてはおらんからな」


翔はああ、と納得した。


「どっちのチームも、監督がいないもんね」

「そう。ここは勝ち負けを争うところではないからな。だからファールも必要ないんだ。ファールというのは、勝てない相手を力づくで止めておるのよ。そんなのは、ケガの元だ」


うんうんと翔は同意を返す。

ドリブラーの翔は、よくファールまがいのチャージを受けるが、レガースがなければすねの骨など何度へし折られていたか分からない。


「他人の楽しみを妨げるものはブーイングを浴びるだけ。悪くすれば、出入り禁止だ。留学生の中には、タロウからぶん投げられたやつもけっこうおるがな」

「ぶん投げ……」


あの飛び蹴りではないだけ、まだマシかも、と翔は自分に言い聞かせた。

スーパープレーを称賛しに行きたかったのだが、彼に近づくのはよしておいた方が良さそうだ。



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