追跡第2弾2
ガーガーとやたらエンジン音がうるさい列車に、揺られること三十分弱。
その名も『亀』という謎の駅で猿渡は席を立つ。
あわてて後を追った翔は、駅前にコンビニひとつない、薄暗い無人駅にあぜんとした。
列車の中では例のごとく、手にした雑誌を読むふりで顔を隠していたので、宵闇にぼんやりと浮かんだ農村の景色に、山をふたつみっつ越えて来てしまったのかと、狐につままれたような気になる。
ここは果たして県内なのか、それすら翔には分からない。
とっくに歩き出している猿渡に気づかれないよう離れてつけて行くと、やがて、お祭でもやっているのかとおもえるほど、明るい場所が小高い場所に見えてきた。
道端には車がいくつも停められており、にぎわいの声が風にのってかすかに耳にも届いてくる。
夏祭には遅すぎるから、豊穣祭かなにかだろうか。
盆踊り会場はこちらです、とでも言わんばかりに、明かりとにぎわいの源はなぜか神社ではなく学校だった。
開け放たれた校門のそばに、『亀村中学校』という今にも崩れ落ちそうな表札が掲げられている。
む、村? 猿渡ってもしかして村人……?
地面にしゃがみ込んでひとしきり大笑いした翔は、猿渡の背中を見失ってしまった。
しかし、校門を入って行ったのは明らかだ。
翔は、雑誌をスポーツバッグの中に突っ込むと、手櫛で前髪を横分けにした。
やや肌寒いものの、学ランは脱いで肩に巻きつける。
あとは、変装に効果てきめんだとなにかで見たとおりにあごでもしゃくれさせておけば、翔がこんなところにいるとはおもわない猿渡に気づかれてしまう心配はないはずだ。
村人Cをよそおって学校の敷地に立ち入った翔は、ライトアップされた校庭に息を飲む。
そこは、一面、黄緑色のグラウンド──
「すげえ、天然芝……!」
気づけば、感嘆の声が洩れていた。
一見、人工芝のようだが、そうではない息吹のにおい。
公園あたりのショボくさい枯れ草混じりの芝生ともちがう。
翔がいつもクラブの練習場で見ているような、誰かがきちんと手をかけて育てている、若々しいやわらかな芝だ。
そして、その芝の上で繰り広げられているのは、盆踊りなどではなかった。
七メートル幅のゴールポストが、ふたつ。
その間に挟まれたフィールドでいくつも飛び交うボールは、黒い五角形こそないが、どう見たってサッカーボールにちがいない。
ほらっ、ほらほら、やっぱりサッカーだ!
とっくの昔にやめたなんて、翔のおもったとおり、大嘘だった。
しかし、だったらどうして猿渡はやめたなどと嘘をついたのだろう。
ここでサッカーをしていることを知られたくない、何か理由でもあるのだろうか。