追跡第2弾1
翌、火曜日の放課後。
翔は、ざわめきが遠い保健室前の廊下にいた。
手にした携帯電話から返った声に、姫田です、と名乗る。
「あのう。昼休みに食った定食に、卵が入ってたみたいでね。俺、卵にアレルギーがあってぇ。それで、今日の練習にはちょっと行けそうにないっていうか……いやなんか、うわーっと出て来ちゃうんスよ、いつも」
嘘は言ってない、嘘は。
そう念じながら、翔はチームの監督からの返答を待った。
保健室前、という場所柄で醸し出そうとした雰囲気がうまく伝わったのだろうか。
仮病とは知らない監督がかけてくれる労りのことばにぺこぺこと頭を下げているうちに、わりとあっけなく練習を休むことへの了解がおりる。
這ってでも来い、と言われてしまうようなら、いっそ正直に「将来プロになって活躍するために、気になる疑問を解消しに行く」と白状した方が良いのでは、とも考えたが、悩んだだけ無駄だった。
やはり、五時半まで体育館でバスケットの練習をしてから、猿渡はひとりで帰路につく。
前日はまるで気づかなかったが、バスケットでの一対一は、サッカー……とくにゴール前の密集地帯で相手を躱す動きに応用が効きそうだ、と翔はおもった。
ときどき、チームでも手でボール回しをさせられることがあったが、せいぜいパスコースを探したり、仲間と声を掛け合う練習だろう、ぐらいにしか考えていなかった。
しかし、バスケットにはドリブルという要素が入っているぶん、翔にもサッカーにおけるゴール前との共通点がよく分かる。
ドリブルをしながら仲間の位置を把握するのは、頭では分かっていても、翔があまりやっていなかったことだ。
ワンバウンドさせてディフェンダーの手をくぐり抜けるパスも、逆に浮かせて相手の足を越えさせれば、サッカーにそのまま転用できるかもしれない。
バスケットでくり返されるダッシュやジャンプだって、実はサッカーでもボールを競り合うには欠かせないプレーだったりする。
今度から、月曜日はバスケットの練習をしようかな、と翔はけっこう本気で考えた。
と同時に、やはり猿渡は現役のサッカー競技者にちがいない、とのおもいを強くする。
今日は誰も校門の外で待ち伏せてはおらず、猿渡はまっすぐ駅へ向かった。
昨日とはちがって、翔が練習場へ向かうのとおなじくだりの電車に乗り込む。
そして、翔がいつも特急に乗り換える駅で降りると、猿渡は翔がこれまで一度も利用したことがないローカル線へと乗り換えた。
時刻表を見たところ、一本乗り遅れると次は一時間後、という本数の少なさに翔は衝撃を受ける。
いつも利用する駅からこんな路線が出ていたことも知らなければ、二両編成の車両などというものが存在することさえ知らなかった。
しかも、やって来た列車にはパンタグラフというものがない、つまり電車ですらないようだ。
定期券でもあるICカードのチャージ残高が気にかかったのは一瞬で、冒険心がいまだ十五才の少年の胸を支配する。
いったいどこに連れて行かれるのか、猿渡の出身中学さえ知らない翔は、わくわくが止まらない。
どう転ぼうと、昨日よりオソロシイ光景に遭遇することは、そうそうないに決まっている。




