7話 面白い話ができたなら
「むーん……」
この日もロシェは机に向かい、うんうん唸っていた。
『バーテルにおもしれー女と思われるにはどうすればいいか』から始まった問いは回り回って、今や『面白いとは何か』と哲学的なところまで発展していた。
「そうだ、最近面白いと思ったこと挙げてってみよう」
というわけで、ロシェは目を閉じて記憶をたどっていく。
マリーと遊んだこと。
その時に見たお姉さんのジャグリング。
女神様からもらった漫画。
そして――
「そういえばお母さんに連れてかれた漫談も面白かったな」
ロシェの母は漫談を聞くのが大好きで、しょっちゅう寄席に行っている。
いつもは父が連れていかれるが、その時は父に外せない用事があったため、代わりにロシェが連行された。
あまり興味がなく、できれば行きたくなかったのだが、断ると母が機嫌を損ねるので仕方なく同行したのだ。
そうして嫌々行った寄席だが、いざ聞いてみると普通にめちゃくちゃ面白かった。
「わたしもあんな面白い話ができたら――」
ロシェは広場で大勢の前に立ち、漫談を披露している自分の姿を想像する。
その中でバーテルはクスクスと笑っていた。
「よし!」
ロシェは立ち上がると、ぎゅっと拳を握る。
漫談に挑戦することが決まった瞬間だった。
となれば、まずは勉強だ。
話し方やネタの組み立て方などをこれから覚えなければならない。
そのために一番いいのは、やはり漫談に多く触れることだろう。
ロシェは自室を出るとリビングへ。
ロシェを見て父が「おっ」という顔をするが、残念ながら今日用事があるのは父ではない。
「お母さん、次の寄席っていつ?」
「あら、なぁに? もしかしてロシェも行きたいの?」
「うん!」
笑顔で答えると、母は驚いたように目を瞬く。
冗談のつもりで、まさか「うん」と返ってくるとは思ってなかったのだろう。
これまでのロシェの反応を考えれば、そう思うのも無理はない。
母はひと呼吸おいて、ぱぁっと顔を明るくした。
「次は四日後! 絶対用事入れちゃダメよ!」
「四日後ね、りょーかい!」
嬉しそうな母につられるように、ロシェも笑顔で答える。
そんな二人を見る父もまた笑顔だ。
母娘の仲睦まじさを微笑ましく思ってか、これで自分が寄席に付き合わなくて済むと思ったからなのか。どちらに対する笑みかはわからないが。
そして四日後。
寄席が終わり、会場から出ると母が大きく息を吐く。
「ほんっと、今回も最高だったわ!」
「ねっ! 全部面白かったけど、特に二人目の人の三つ目の話が面白かった!」
「三つ目ね! それもよかったけど、お母さんは最後の人の最初の話が一番面白かったかしら!」
「あー、確かに! 最初のも声出して笑っちゃった!」
と、気分が高揚している母に負けず劣らずのテンションでロシェも答える。
口にした通り、どれも本当に面白かった。
二時間の公演だったが、体感だと三十分くらいしか経っていないと感じるほどにだ。
しかし、ロシェはただ漫談を楽しんでいただけではない。
話を楽しみつつ、漫談というものを分析していた。
「――演じる人を変える時は身体の向きを変える……っと」
帰宅すると、ロシェはすぐに机に向かって、学んだことをノートに書き記す。
「他には――」
話のテンポや声の抑揚、身振り手振りの大きさなど、感じたことも忘れぬうちに。
「うん、こんなものかな。さて、後は肝心のお話を考えなくちゃ」




