最終話 今際の際に人生最大の愛を叫ぶ
◇◆◇
翌朝。
雨上がりの光が、窓から差し込む。
教室はいつも通りの朝のざわめきで満ちていた。
しかし、
そこにいるはずの冬真の姿はなかった。
もちろん、神谷も。
昨日まで、隣にあった彼の笑顔も、
温もりも――すべて消え去っていた。
美月は、
机の上に置かれた紙切れを握りしめる。
それは、彼の手から落ちたメモだった。
「美月。守る……お前を……愛してる……」
文字を読むたびに胸が締めつけられる。
涙が止まらなかった。
「冬真……どうして……」
◇◆◇
学校を出ると、街の景色が微かに揺れた。
景色が波打ち、色彩が変わる。
次の瞬間、美月は立っていたのは、
見覚えのない古い道、いや――3年前、
冬真と初めて出会った頃の街角だった。
「……ここは……?」
風が、当時の匂いを運ぶ。
校舎の裏で小さく笑う少年の姿。
それが――冬真だった。
彼はまだ純粋で、何も知らない。
その目は、
未来の悲劇を知らないまま輝いていた。
美月は立ちすくむ。
心の中で、
これまでの出来事が走馬灯のように蘇る。
彼の死、復讐、涙、愛――
すべてが、胸に刻まれている。
「私だけが……覚えてるの?」
◇◆◇
冬真は、見知らぬ少女に気づく。
「……君、誰?」
美月は微笑む。
その瞳には、
3年間のすべての思いが映っていた。
悲しみも、愛も、決意も、すべてを込めて。
「……私、美月。
これから、よろしくね。」
冬真は首をかしげるが、
その笑顔は自然だった。
何も知らない、無垢な笑顔。
それが美月の心を温かくする。
「これで……やっと、幸せにできる。」
◇◆◇
時はゆっくり流れる。
学校の廊下も、校庭も、教室も、
すべてが普通の日常に戻っていた。
美月は毎日、冬真を見守りながら、
静かに心の中で誓う。
「もう二度と、悲しい思いはさせない。
あなたと私は、きっと、幸せになる。」
◇◆◇
ある日の放課後、
二人は図書室で初めて言葉を交わす。
「冬真くん、今日、勉強教えてくれる?」
「もちろん、美月ちゃん。」
笑い声が廊下に響く。
誰も知らない、二人だけの時間。
そして、未来は再び穏やかに、
柔らかく動き始める。
◇◆◇
美月は小さな手を握りながら、
そっと心の中でつぶやく。
「ありがとう……冬真。あなたに出会えてよかった。 今度こそ、永遠に。」
青空の下、二人の影が重なり合う。
過去の悲しみも、
復讐も、涙も、すべては消え去った。
きっとうまくいく。
この、二人だけの“新しい始まり”が、
ここにあった。
◇◆◇
エピローグ
冬真は何も知らない。
美月だけが知っている、
冬真の命を懸けた愛の記憶。
しかし、その記憶は悲しみではなく、
希望だった。
運命を乗り越えた先に、
二人はやっと、幸せになれる。
「人生最大の愛――叫ぶ必要はない。
もう、ずっと一緒にいられるから。」
◇◆◇
完




