第1話 再出発
プロローグ ―束の間の幸せ―
◇◆◇
あれから、数えきれないほど笑い合った。
何気ない会話で、些細なことで、
夕焼けの色を見て、理由もなく。
冬真は、そんな私のことを
「勇敢な彼女だ」って言ってくれた。
まるで私が、
何か特別なことを成し遂げたみたいに。
「俺は美月の優しさに救われたんだ」
そう彼は言ったけれど、違う。
本当は、私の方こそ彼に救われていた。
その笑顔に、その声に、その存在そのものに。何度も、何度も。
気づけば一年が過ぎ、
また一年が過ぎていった。
時間は穏やかに流れ、痛みも不安も、
すべて遠ざかっていくように思えた。
そして、いよいよ――
冬真が、かつて彼の運命を狂わせたはずの神谷に絡まれる時期が来た。
けれど、
私が知っている未来とは違っていた。
まるで過去の悪夢が嘘だったかのように、
冬真は驚くほど穏やかに、
自然に神谷と向き合っていた。
警戒も拒絶もなく、
気づけば二人は冗談を言い合い、
いつの間にか親友同士になったらしい。
――私は、運命から彼を救えたのだろうか。
――私の願いは、本当に叶ったのだろうか。
そう思いたい。
そう信じたい。
この幸せが、偽物でないと。
なのに、
胸の奥で小さく鳴る違和感が消えない。
理由のない不安。
説明できない胸騒ぎ。
まるで、この穏やかな日々が「束の間」だと、誰かにそっと囁かれているようで。
どうしてだろう。
すべてがうまくいっているはずなのに――
それでも私は、迫り来る“何か”の気配から、
目を逸らせずにいた。




