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#4 魔物の進化はどうするの~その4、卵に戻そう~

「これでわかるね。 かえで」


 ジェイが嬉しそうにかえでに話しかける。


「卵孵るかな?」


 12個ある卵を前に、ジェイが楽しみでたまらなそうにしゃがみ込む。


「ええ。 原因が分かればきっと孵るはずよ」


「そうだね! やってみる」


 ジェイが卵にそっと触れる。


“魔物の卵

魔力が不足しています”


「魔力が不足しているだけみたい。 魔力でなんとかなるなら剣と一緒ってことだよね?」


「あたしもそう思うわ」


 ジェイが卵にそっと両手をかざす。炎の様な赤の幾何学模様が魔物の卵を包み込む。魔物の卵が割れ“どろり”と中からオレンジ色に染まる黄身があらわになる。黄身はうっすらとわずかに緑色に輝く魔力の膜につつまれており、問題なく胎動していることが分かる。


「これでいいのかな? 卵割れちゃったよ!?」


「ジェイに出会ってからわからないことばかりよ。 進化値にしても、こうやってダンジョンマスターが誕生を上書きすることも、全部あたしの知らないことなんだから」


「じゃぁ。 ふたりでどうなるか観察だねー」


 ジェイは夏休みの自由研究でもするかのように目を輝かせて卵を見つめる。


「はやく産まれないかなぁ。 それと、あと11個にも魔力を与えないと」


 ジェイは残りの卵へ同じように魔力を込める。


 素材としての魔物の卵から、剣を作り出すのと同じ様に魔物の卵を作り出す。そこには、ダンジョンポイント1,500を消費し手に入れた装備錬成の能力が働いている。それは、卵だったことが幸いした出来事なのかも知れない。


「すぐには産まれたりしないわ」


 卵の前でうつ伏せに“ごろん”と横になって、ジェイは足をバタつかせながら卵を見つめている。それをかえでが少し呆れ顔で見る。


「ほら、エイムさんの依頼もあるでしょ」


「はい、はーい。 じゃぁ、スライムを準備しなきゃ」


“ぽこぽこ”


 ジェイの目の前の何もなかった空中に水滴があつまって、驚くほどに透明な水玉がそこに生まれた。その水玉の周りには、炎の様に赤い幾何学模様が包み込んでいる。水が“どろり”と飴細工のようにオレンジ色に染まり、空中から草の上に流れ落ちると、最後に緑に輝きを放ち超純水タイプのスライムが生まれる。


「10本なら少し鉄鉱石足りないかな」


『ダンジョンポイント6を使用し、鉄鉱石20㎏を生成します』


 門がジェイの問いに答えるかのように鉄鉱石を準備すると、積み上げられた鉄鉱石の幾ばくかがジェイの足元へ移動する。


 スライムと鉄鉱石が浮き上がり、炎の様な赤の幾何学模様がそれらを包み込む。その幾何学模様に溶け込むかのように、スライムがひときわ猛々しく燃える赤を体現するかのように染まる。


「生きていないスライムが産まれて、素材として消えていく様子は慣れないわ」


 かえでが暗い声で呟く。


 魔力構成式が二重に展開され、鉄鉱石を“どろり”と飴細工のように溶かしながら魔力痕を刻み込んでゆく。大地に緑息吹を呼んだ生命の増殖を意味する緑の光が刀身から放たれ、呼応するように刃先が暁の大渓谷の夕日すら吸い込む存在すら認識させない真っ黒な暗黒の黒点を作り出し――


“ドクン”


 魔物の卵が黒く染まって音を立て不気味に揺れる。


「ジェイ! 闇属性の魔力が卵にも流れ込んでる!!」


「え、え!?」


“ドクンドクンッ”


 黒く染まる魔力の膜につつまれた何かが激しく胎動している。しばらくして、うっすらと姿かたちが見えて、羽が4枚と黒いハエのような大きな複眼を持つ禍々しい虫が膜の中を蠢いている。


「こんなに大きなハエ気持ち悪いよぉ」


「・・・」


「かえで?」


 かえでは驚愕したようにその場で立ち尽くす。ジェイが見せてきたものはどれもが、かえでにとって知らない物ばかりだ。魔物として存在する彼女にとって、そのどれもが狂気に映ったことは想像に難くない。


 生きてない素材としての魔物の生成、進化値と言う生命の食物連鎖から外れた存在進化、そして極めつけが魔物の誕生を、ダンジョンマスターの能力で上書きして別の種を誕生させたのだ。


「あなたはあたしの想像を超えたダンジョンマスターだわ」


「まぁねー。 このハエそんなにすごかった? えへへ」


 かえでの賞賛にジェイは照れたように笑う。


 ジェイもかえでも、装備錬成の能力が働いて魔物の卵が変異したことも、ジェイの闇属性の付与が合わさり魔王種の卵になっていることも知らない。この12個の卵の内いくつかは神々の間でジェイのお店に並びやらかしてしまうことになるのだが……それはもう少しあとのお話し。

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