#4 魔物の進化はどうするの~その2、幼体に戻そう~
「よし! 出来た! ほら、かえで行くよ。
美味しいご飯、食べ損ねちゃうよ」
ジェイがかえでの手を引っ張って門の中に消えていく。
小学校の階段の1階から3階までを往復したくらい上るとひらけた場所に出て、同じようにゲームでよくある魔物を連れた人たちの姿が見える。
“すべてのダンジョンマスターが魔物を存在進化させた。
それ故に、此度は期待も大きい。 それ故に、強く成長することを願う。
今宵、存分に楽しむとよい”
声は建物の天井から音もなく、ジェイとかえで、そこに集うすべての者の頭へと響いた。
「遅刻したことは怒られなかったね」
「こら、ジェイ。 創造神様の前よ」
テーブルと椅子が、円卓のようにせり上がる。椅子は全部で二十七席、そしてダンジョンマスターも27人、それぞれの主の後ろに人ならざる守護者がいる。
「主様の椅子でございます」
かえでが赤、オレンジ、緑の装飾をあつらえた椅子を引くと、ジェイは両手鎌を椅子の近くに置いて席に着く。自然といつの間にか二十七名が卓に着き、その瞬間にテーブルに溢れんばかりの食べ物が現れる。
「かえでも食べる?」
ジェイの目の前には、ハンバーグやオムレツ、ハンバーガーにポテトと言った大好きなメニューが広がっている。
「いえ。 これらは主様のためにございます」
「いつもなら一緒に食べるじゃん」
かえではジェイの誘いにも、椅子の後ろで凛として佇んだまま答える。
「よう! あれから順調にやってるか?」
そこにぼさぼさ頭の青年が、モーニング衣装を纏い、中華料理の並ぶ机を前で、肉が刺さったままのフォークを向けてジェイに話しかける。それを見たジェイが“にこり”と笑う。
「エイムさん! ありがとう」
「てことは、順調にいってんだな」
エイムも嬉しそうに“にこり”と笑う。
「それで、これ。 エイムさんにどうかなって」
「覚えてくれてたか。 嬉しいぜぇ」
ジェイが足元から両手鎌を拾い上げる。光すら吸い込むような、光から存在すら認識させない真っ黒な暗黒の刃先を覗かせて、赤黒い不思議な鉱物に魔力痕が刻まれた禍々しい両手鎌があらわになる。
「これはこれは」
両手鎌をたいそう大事に受け取ると、エイムは目を細めて両手鎌を凝視する。そして、何故か満足げに頷いて目元を隠す銀面を“くいっ”と持ち上げ感情を押し殺す。口元の笑みだけが隠せないほどに“ぐにゃり”と三日月を描いている。
「ジェイは、こないだ先に帰っちまったな。
ステータスを見る能力が無いのは、門に確認してるか?」
かえでがぴくりと動き、二人の会話に聞き耳を立てていることがわかる。
「あんまり門には聞いてなくて……」
「そうか。 それなら今回も、いい情報交換になりそうだ。
まずあの後、ここで交換されたのはお互いが選んだ色と、門が開通した場所の規則性のやり取りだった」
“……だった?”
もう一度ぴくりと動き、自身も会話に入りたそうに聞こえない声で疑問を口にする。
「そういえば、最初に色を3つ選んだんだっけ」
ジェイが思い出すかのように、指を三つ折り曲げながら相槌を打つ。
「そのうち最初に選んだ色がダンジョンを育てるうえでの鍵となるようだ。 俺の場合は黒“生命の対価、犠牲による覚醒”と言った具合にな。 そして、それを上手く用いることで資質を試されている。 ――おっと、そこはジェイには問題ないか」
エイムが布巾で口を拭い、目元を隠す銀面を“くいっ”と持ち上げワイングラスをわずかに傾ける。少しの間の後、グラスにボトルからワインを継ぎ足して注ぐ。
「ここでもダンジョンポイントを通貨にして情報や物々交換を行える。 鍛冶スキルや装備作成系のスキルはひととおり門で調べたんだが、取得できるほどの余裕がなくてな。 ジェイの武器は願ったり叶ったりだったぜ。 ここまでの武器はそうとうダンジョンポイントを食うからな」
「ほんと? 何かと交換したいな」
「いいぜ。 俺は情報以外も仕入れてるからよ」
「なら、魔物の素材とかが嬉しいな」
「あぁ。 それならたんまり準備できそうだ」
エイムは目を細めて満足げに頷いて、右手で目元を隠す銀面を“くいっ”と持ち上げ表情を隠すが、口元の笑みだけが隠せないほどに“ぐにゃり”と三日月を描いた。
「そうだな。 手始めにこれを数本くれないか。
俺から出せるのは小型のインプか、その上位種のハイインプか――
10本ならレッサースカージを出そう。
いずれも素材の状態でいいよな?」
「うん! 素材ね。約束だからね!」
「おう。 約束だ」
「それじゃ。 次はさっそく作って来るから」
ジェイは料理を口に運ぶと、満足そうにほおばって嬉しそうにしている。かえではエイムの言葉が引っ掛かるのか“資質を試されている”と呟いて考え込んでいる。エイムはすっと立ち上がり、守護者の二本の角のデーモンロードと他のダンジョンマスターのところへ向かう。
「ジェイ。 あなたも他のダンジョンマスターと交流すべきだわ」
かえでがジェイの横に立ち、エイムのようにいたるところで他のダンジョンマスターが交流している様子に目配せする。
「そうだね。 ダンジョンポイントを通貨にできるなら、ここでお店を開くのも楽しそう。 お代は情報でも素材でもなんでも大丈夫なお店とか最高じゃん」
子供はわがままをよく知っている。手札の強さ関わらず、自分に主導権が来る方法を天然で考える。創造神が言うように等しく可能性を持つのであれば、大人であることは有利な手札ともなり得ないのだろう。ジェイにとっては“ゲームの中でアイテムを売る”たったそれだけの簡単な感覚なのだ。
「かえで、そろそろ帰ろう」
「はい。 ジェイ」
先ほどまで色々な考えを巡らせて考え込んでいた姿は無く、どこかスッキリしたかのように構えを解いた年相応のかえでがいた。二人は楽しそうに広場から階段を降りて、門を抜けて、オレンジ色に染まる草木の生い茂る自分たちのダンジョンに帰る。
そこには、薄い透明な羽が暁の大渓谷の夕日のようにオレンジ色に染まり、ふわりとした灰色の綿毛がその胴体を包んだ羽虫が6匹と幼体が3匹、繭が1つと何故か卵が3つ新たに増えている。
「そうなのね。 ジェイ!
ジェイが幼体に戻したからオスとメスに分かれて増えたのね」
「え?」
「魔物はダンジョンを守るために進化した存在だから、成体は性別が固定される種があるわ。 だから、幼体のときに増える種や、クイーンが別に誕生するかになるの。 ジェイも知ってたのね」
これからの明るい展望にかえでが浮かれながら、“そうでしょ?”と確認するかのようにジェイに話している。きっと神々の間でのジェイの姿や、この魔物が増えている現状を見て、彼への信頼関係がより高まったに違いない。
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