第七話:拒絶
無理矢理ユミを近くの町に連れて行った。
途中で暴れたが、鎮圧した。
強制的に落ち着かせると、転落は早かった。
目に見えてわかる症状として、拒食があった。
食べ物はすぐ吐いた。
そんな自分への嫌悪感もあるのだろう。
坂道を転がるボールのように衰弱していった。
直視できるものではなかったので、医者に任せた。
「壊した」
外に出ると、魔女がいた。
腕を組んで建物によりかかっている。
「彼女を、壊した」
「……いつかはこうなったと思う」
引き金を引いたのは自分であるが。
「もっと早く答えに気付ければ、大丈夫だったわ」
「答えってなんだよ」
「人を殺したときの精神的な負担が軽くなる。そんな魔法のような真相よ」
「そんなもの見つからないに決まってるだろ」
そもそも、そんなものがあるとは思えない。
人を殺しても大丈夫でいられる?
そんな真相はどう考えたって存在するはずがないじゃないか。
人殺しは人殺しだ。
「みんな同じなんだぞ」
「どいつもこいつも同じようなことしか言わないんだぞ!」
「一人の人間に同じことを聞いてるみたいじゃないか!そんなんで何がわかるんだよ!」
言葉が次々に出てきた。
不満や不満や不満や不満だ。
ストレスの塊を魔女は無言で受け止めた。
「本当にどいつにもこいつにも話をしたの?」
「少なくとも、あいつは」
俺はノートを突き出した。
弱っているので、代わりに俺が書くことにした。
いや、弱っているのをいいことに、そう押し切った。
「村や町の人間全員、それと道中で出会った人間全員。返答がないやつのを除けば、それら全ての人間について書いてある」
「同じ質問をしているのね」
「みんな同じようなことしか言わない、ってあいつが気付いたんだ」
「そう」
後半の方は結構省略されている。
特別に何か書くことがない限りは一行程度に済むほどだ。
「……俺たちはどうすればいいんだ」
「自分たちが必要だと思うことをやりなさい」
「俺はあんたの協力が必要だと思っている。戦力的にも、知識的にも」
「それは無理な相談ね」
「それなら、力ずくでせめて知識だけでもいただく」
俺は短剣を抜く。
命と引き換えに情報を聞き出せれば。
この手詰まりな状況から脱出できるはずだ。
襲いかかろうとした瞬間、強い力が俺にかかる。
寒気もしてきた。なぜだ。
「あなた、せめて私が相手のときくらいは魔法で攻撃したらどうなの」
「魔法で……?」
「魔法はあなたの意志よ。あなたが魔法で攻撃しないのも、あなたが魔法で攻撃をくらったことがないのも、攻撃する意思がないからよ」
唐突に何を言い出すか。
「一度だけあるぞ。ユミから食らった。威力は低かったけれど」
「威力が低いのは彼女だからよ」
圧力のせいで身動きがとれない。
押しつぶされないようにするので精いっぱいだ。
そのうちに、モンスターが出てきた。
球体のその黒い物体がゆっくり俺に近づいてくる。
寒気で非常にまずくなる。
眩暈がした。
近づくほどにそれが酷くなる。
嫌な汗が出ているのを、なんとなく感じた。
「なあ」
声を絞り出す。
「どうして、そんなに俺を拒絶してるんだ?」
なんでそんなことを言っているのか自分でもよくわからなかった。
その瞬間、圧力とモンスターが消えた。
楽になる。
直感的な感覚がそのまま声になっていた。
たぶん、そんな感じだ。
「最初にあんたに会ったときから感じてた。あんたは、俺を、いや、全員を拒絶してる。あれ、ユミは違うかな。まあいいや。魔法が意思によるものだっていうなら、あんたの強さはその拒絶の強さにあるんだ」
「……」
「だから、強く俺たちを拒絶しているあんたはその分強いんだ。なんであんたはそこまで拒絶してる?」
「なかなか、わかるようになってきたじゃない。私の弟」
今度は、愚かだという意思がなくなったようだ。
とはいえ、弟ではないのだが。
「あなたの素敵な成長の見返りとして、ヒントをあげましょう」
「ヒント?」
「アセトアルデヒドという言葉はどこの本を探しても無かったわ」
「は?」
「それじゃ、また今度」
「おい、ちょっと待て――」
そのまま、去っていってしまう。
追いかけることはできない。
彼女は自分の魔法で移動しているからだ。
有害物質って言ったのはあんたじゃないか――
「飯は?」
首を振る。
食えないようだ。
困った。
あれから、一つの考えが浮かんだのだが。
しかし、それを実行するには移動することが必要で。
でもユミがこのような状態だと移動なんてできないわけで。
「……どうしよう」
あらかじめ、目的地までの距離を調べていた。
地図を見ながら計算してわかったのは、今まで通りのペースで移動したとして、数日かかる、という都合の悪い状況だった。
治るのを待つ、にしても精神的なものじゃあいつ治るのかわからない。
俺一人で行くにしても、こっちを一人にするわけにもいくまい。
……魔女がいればな。
改めて、仲間にできなかったことを惜しく思う。
次に会うと言ったって、この村にいたら会いそうもないわけだし。
詰まった、か。
打開策はないのか。
例えば、奇襲。
奇襲されれば、彼女は来てくれる。
けれど、村を襲うなんて偶然は期待できないし、村を離れて奇襲を待つのも先ほどの理由があるから却下とする。
じゃあ、どうすればいいのか。
考える。
ひたすら考える。
それしかすることはない。するべきことも他にない。
そして、思いついた。
気の進まない方法だけれども。
そこまでして急ぐ意味があるのか、なんて聞かれたら元も子もない話だけれども。
良い案だ、と自分の中で評価し、実行することにした。




