第五話:同一
その後、俺は無事に救出された。
俺の埋まっていたところはしっかりへこんでいて跡になっていた。
なんてこったい。
この跡を勇者軍団アセトアルデヒド記念跡としよう。そうしよう。
そんでもって日付とか名前とか星マークとかつけるわけだ。
ハートマークがあってもいいかもしれない。
……どういう記念跡だ。
「でも、なぜこんなことになったので?」
「いやぁ、胸をちょっとこう、手でぐわしっ、てやったら俺の体がぐわしっ、って地面にね」
「……」
「いくらなんでも、ここまですることないのにねえ?」
「なくはないかと」
「いいや、ないね。あれは向こうが悪い。罪だ。罪深い女なのだ。ぐへへ」
「よかった……。セクハラされるほどの魅力ない胸で……」
「いや、別に胸ならオールオーケーなんで。非差別主義」
「来るなケダモノォ!!」
ケダモノ扱いーーっ!?
「何を言うか!俺は勇者だっ!!」
「有害物質!」
「なぜだ!好き嫌いしないいい子なんだぞ!!」
「無差別セクハラ魔!」
「もしかして俺を褒めているつもりかーっ!」
「そんなわけないですっ!」
ぎゃーぎゃー。
「バカ死ねクズオタンコナス腐った人間エロモンスターゴミ山海綿体悪魔犯罪者脳内桃色ペンキ垂れ流し」
「……」
負けました。
「それはそうと、何をしていたの?」
「あー、聞き込み調査というか、まあ、そんなんです」
そう言いながらノートをぱらぱらとめくる。
なかなか行動力がある。
「そういえば、あの魔女が、どうしても答えが必要なら一番でっかい図書館に行けってさ」
手に入れた情報を教えてやる。
「どうしても、ってことはまだ行く必要がないんですかねー」
「かもしれないなあ」
情報を教えたがらなかったし。
一体どんな情報なのだろうか。
「それで、何かわかったのか?」
「魔王はなぜ魔王になりましたか?」
QアンドQであった。
「サバイバルナイフの値段は?切り傷などに用いられる薬の名前は?今日はいつ?特定の職業の者にしか使用方法を教えられていない魔法の名前を3つ答えなさい。農作業をする時に用いられる物を1つ。秋の魚といえば?」
QQ者であった。
とりあえず一つ一つ答えていく。
質問は何十個もあった。
大抵がどうでもいいことというか、常識的なことであった。
専門的なことも多少あったし、質問の意味がわからないものもあった。
「それでは最後に。これの使い道は?」
そう言って金槌を取り出した。
体が一瞬にして強張る。
「ボーイズトレジャーを殴打するため……?」
「ご協力ありがとうございましたー」
メモを終えると、ノートを見返した。
ぱらり、ぱらりと、別のページと見比べながらユミは言う。
「みんな、同じ答えを返してくるんですよ」
「は?」
「今日はいつか、という質問には誰もわからないと答えましたし、武器や防具などの値段はそんなものと関係なさそうな人、また子供やしばらく外に出ていない人でも知っていました。特定職業に関するところに関しても同様です。それと答えるまでにかかる時間も大体同じでしたし、ネコ派しかおらずイヌ派は0%でした」
「ふうん」
それは奇妙なことだ。
答えも同じで答え方も同じというのか。
「ただ……」
「ただ?」
「一人だけ一つの質問に対しては違う回答を返しています」
「なんだそれ」
「金槌を股間を殴るものだと言ったのはあなただけなんですよー」
「がはははは」
「あはははは」
笑える。
それは笑えるぞ。
「要するにあなたは本当にしょうもない人間だということがわかったわけですよー」
「なんつうの?それが個性っていうものなんじゃね?」
「まあ、そういう捉え方もありますが……」
「そうだろうそうだろう」
「でもボーイズトレジャーですよ?個性」
「がふっ」
それはあんまりだ。
もっと素敵個性がいい。
不名誉じゃないか。そんな個性。
「にしても、変だよなー」
「ですよねー。まるで、みんな同じ人間であるかのような感じです」
「ああ、それは的確な表現だな」
「なんというか、役目が違うだけ、っていうか。とにかく気持ち悪いです」
「つまりそれは俺は気持ち悪くないってことだナ!!」
「いえ、別方向で気持ち悪いです。有害な気持ち悪さを持っています」
「酷いっ!!」
「酷いも何も事実じゃないですか。だって――」
調子に乗ってきたところでスカートをめくってみた。
今日も爽やかなホワイトだね!!
「……」
「ひぃっ!?」
何か殺気で圧力かけられてるるるる!!
だが……まだ耐えられる!
ていうかどこで覚えたんだそんなもの!
どこの魔女だよお前は!
はっ!?
もしかして魔女と同類の方!?
「ごご、ごめんなさい、だから、金槌だけは……」
「じゃあナイフでいいですかね」
「そっちの方がだめーっ!!」
なんとか金槌で済みました。
ありがとうございます。(倒れながら)
「さて、次はどこに行きますかね」
「一悶着あった後に何事もなかったかのように話を切り換えるのはどうかと思うんだ。僕」
「話が途切れるので切り替えるのには丁度いいじゃないですか」
身が持ちません。
身の一部が、ね。
そろそろ異常が出てくるだろ。本当に。
でも、それでもスカートめくりはやめられない!
「世界の不思議だな」
「はい?」
「いや、なんでもない。次はどこに行こうか」
「そのまま近場の村を目指すのもありだとは思いますけれど」
「どうせまた同じだろうと?」
「そんな予感が」
「じゃあどうするのさ」
「あえて必要以上に村に寄りつかず、延々と歩くのはどうでしょう」
「うわー」
それは相当きつくないだろうか。
村でまったりした方がいいって。
人も多いし。
「もしかしたら、変な人に遭遇できるかもしれません」
「槌を玉に使うと答える人が?」
「まあ、そんな人はいないでしょうけれども、そんな感じの人が」
「ふむう」
「魔力の強い人間は変人が多い気がするので」
何気に酷いこと言っているぞこいつ。
天然毒舌家である。
「もし、前みたいに襲われたら?」
「魔女さんが処分してくれます。きっと」
そして他力本願だった。
モンスターがいないとは言え、危険度で言えば積極的に村に寄った方が低いに決まっている。
だから、自ら危険に飛び込むということなわけで。
なんというか、冒険らしくなったな、と思う。
退屈はしなそうである。
……何か起こればの話だが。




