第四話:勇者軍団アセトアルデヒド
その後、モンスターにも人にも遭遇しなかった。
そのまま隣の村に着いてしまった。
要するに、モンスターというのは、あの魔女の手下ということになるわけだ。
魔女はこちらの味方になってくれるような態度であったし、つまりは。
敵不在。魔王のみ。
たまに頭がおかしいやつに襲われるくらいだろうか。
意外にも俺たちは安全なようだ。
……魔女を敵に回したらすぐに死にそうではある。
セクハラはあまりしないでおこう。
セクハラ、といえばユミである。
すなわち、セクハラとユミはニアイコールで結ばれる。
結論、ユミはセクハラに限りなく近いのである。
いや、違うだろ……。
で、そのユミなのだが。
「……」
ずっと考え込んでいる。
よっぽど集中しているらしく、スカートをめくっても反応を示さない。
気付いてはいるはずなので、無視しているということになる。
ところで、ここは村なのである。
さきほど着いたと言ったので、紛うことなき事実である。
さてここに、現在我々は味方を探すべく道端に突っ立っているという状況を追加したらどうなるだろうか?
ここまで言えばわかることだろう。
そんな状況で考え込んでいる彼女はずばるところ変人にしか見えないのである!
というわけで。
「ねーねー、変人。飽きたしお茶しない?」
「ちょっと調べたいことがあるんで一人でしてください」
冷たい。
そこまで素っ気ないとセクハラをしちゃうぞー!
と思ったけれども無視されて空しくなりそうなのでやめておくことにする。
「まあ、うん。わかった」
けっ、覚えてやがれ。次スカートをめくる時が貴様の最期だ。
というわけで。
飲食店に入ろうとした。
その飲食店はメニューが安かったので、この村に来て発見してから目をつけていたのだ。
ここらへんの観察力が勇者にとっては必要なんだよ。
わかるかね、チミ。
そうそこらへんを歩いている勇者っぽい人に話しかけたら害はないのだけれども見た目がなんとなく気に入らない虫を見た時のような顔をされた。
気を取り直して、いざ入らん!
……店が消滅してた。
「あれえ?」
道を間違えたのかな、と思うけれど周辺の建物はさきほど見た時と変わりがない。
店だけ消えている。
逆に言えば、以前の記憶から店を取り除けば全く同じ光景。
おかしいな。
時間によって見えたり見えなかったりする?
「その店は消えたわよ」
魔女の声がした。
いやしかし、魔女とは別れたはずであって。
でも声のした方向にしっかり魔女はいた。
「小腹が空いたので近くにある場所で済まそうとしたのだけれど」
「別れたのにまたすぐ会うとなんか気まずくないですかね」
「小腹が空いたので近くにある場所で済まそうとしたのだけれど」
また無視か。
あるいは、相手の望む返答をしなくてはならない、か。
「だけれど?」
「お金がなかったの」
「はい?」
「だから店を消滅させたわ」
悪魔だこいつ。
いや、魔女か。
実際そうだからな。
「そうだ。あんたに聞きたいことがある」
「何?」
「噂になっているモンスターっていうのは、あんたが出すやつ以外にいるのか」
「いないわね」
即答。
「ならば、あんたが魔王ということになる」
女が魔王だとは思わなかったが。
そういう先入観はすっぱり斬り落とせるのが俺の魅力である。
そんな素敵人間俺なのでもう少しモテてもいいかなあと思ったりするわけだが。
今はそれどころではない。
「違うわね」
「じゃあ、手下か」
「違うわ」
「それはない」
「魔王はあなたに何らかの攻撃をしかけてきたことがある?」
突然質問で返される。
魔王は攻撃をしてきたか?
答えは……。
「ない。どっかが攻められたって話も聞かない」
「だから、私は魔王と関係はないし、モンスターがいないのよ」
「どういうことだ」
「魔王は攻撃をする気がない、ということよ」
「は?それじゃあ……」
「ただ力を一番持っているから、中心となって世界を安定させているだけよ」
つまり。
魔王はそれほど悪者ではないわけで。
むしろこいつのやっていることの方が悪者っぽいじゃないか。
なんだか、馬鹿らしくなってきた。
なるほど。
必ずしも魔王が敵であるというわけではないのか。
「わかった。わかったよ」
少し覚悟を決める。
相手は強い。
「あんたを倒せば、世界は平和だ」
「それができたとして、困るのはあなたの連れの子よ」
「……」
新たな疑問が浮上する。
戦う気だったんだけどな。
でも意識は一瞬でそっちに移ってしまう。
戦いはあまり好きではないということもある。
「先ほど言った通り、魔王はこの世界で一番力を持っている存在」
「それは知ってるよ。でも、それほど悪いやつでもないんだろう?」
「そのままでもあなたたちには害がない。ただ、一番力を持っているからこそ私や彼女にとってはどうしても倒さなくてはならないの」
「どうして」
「同時にあなたのような人間も一人は必要なの。答えがどうしても必要になったのなら、大都市に行きなさい。一番の大都市の一番大きな図書館。そこにずっといれば答えは見つかるわ」
「おい、質問に答えろ」
「私が教えて身につけるべき知識ではないわ。少なくとも、納得がいかないでしょうから」
「どういうことだよ」
「学ぶにはそれに相応しい学び方があるということよ」
わけがわからない。
教えてくれればそれで済む話であるのに。
何を考えている?
俺が知るのを遠回しにして得られるメリットは?
そのメリットを得るのは俺か?それとも彼女か?はたまたユミなのか?
想像もつかない。
とりあえず、やるしかないということか。
「……わかった。そういうことにしておいてやる」
「そう。それではそろそろ帰らせていただくわ」
そそくさと帰ろうとする。
歩き方に少しストレスを感じた。
拒絶されているよなあ。
随分話ができたからマシな方なのだろうけど。
「帰る場所ってどこかあるのか?」
「無理矢理ながらも作ったわ」
たくましいことだ。
さすがにあれだ。
桁はずれな力を持っているとそのくらいできるものなのだろう。
今頃村の一つや二つが彼女の配下になっているに違いない。
……これで彼女が悪なら事情が単純になるのだが。
「あー、そうだ」
と近寄りながら引き留める。
彼女が振り返ったところで俺は腕を伸ばす。
もみっ。
「……っ!?」
「すげえ」
溜め息が出るぜ。
もみもみ。
なんというか、こう素晴らしい。
もみもみ。
ドゴォーン
俺の後方から建物の崩れる音がした。
「……!?」
「手を離しなさい」
「ひぃぃ」
ぎりぎり殺されずに済んだ。
やってみるものだ。
とはいえ、なぜか彼女の殺気だけで押しつぶされそうになる。
比喩や感覚的にではなく、実際に。
殺気がそのまま力となって働いているような。
そんな感じだ。
恐ろしい。
「あー、魔女さんだー」
明るい声。
ユミだ。
「ユミ……助けてくれ……」
「いや、無理っす」
地面と同化しそうだ。
これは、その、金槌より厳しいかもしれない。
いや。
金槌などの追加攻撃の可能性があるということを考えるとこちらの方がよっぽど厳しいじゃないか。
「ま、まじへるぷみー」
「こんなこと言ってますけどー」
そうユミが魔女に話しかけると、途端に楽になる。
なるほど、意識がこちらに向かなければそれだけ力も弱まるのか。
俺は解放された。
が、少し埋まってた。
まじかよ。
「それでは私はこれで」
「あー、ちょっと待った」
訝しそうな表情をしている。
しかし、俺が地面に埋まっていることを確認すると、立ち止まった。
「群れて旅をする勇者っていないだろ?で、俺たちは実質三人組なわけよ」
「……なぜ私が数に含まれているの」
「実質三人組なわけよ」
「……」
「だから、団体名というかチーム名というか軍団名というかそういうのがあるとかっこいい気がする」
馬鹿を見る目が二人分。
「で、その名前はどうするんです?」
ユミが聞いていくる。
「特に意味がないんだが、なんとなく思いついて、かっこよさげな名前があるんだ」
「無意味なのはいささかあれなんですが……」
「勇者軍団アセトアルデヒドっていうのはどうだろう」
「アセト……アルデヒド……」
俺のネーミングセンスに感動したに違いない。
そう確信していたら、魔女の魔女らしい酷い一言が水を差した。
「アセトアルデヒドは酒に関係する有害物質だった記憶があるわ」
「ええええええっ!!」
なんでそんなの思いつくんだよ俺!!
なんでそんなこと言うんだよ魔女!!
「有害物質なのは一人だけなんですが……」
「ええ。間違いなく軍団ではなくあなたの異名がアセトアルデヒド」
そしてネタにされる。
泣きたい。
「うるせえ!何がどうあろうと、今日から俺たちは勇者軍団アセトアルデヒドなんだーーーっ!!!」
村中に響かせる勢いで、声を張って叫んだ。
他人からそう認識されて、定着すればこっちのもんだ。
こうして俺たちは勇者軍団アセトアルデヒドとなったのだ。




