第十七話:「魔女」
よくわからなかった。
気付いたら、朝だった。
これまでの朝とは違う。
いつも通りの朝だ。
私は、山辺由美。
そういう名前。
変な夢を見たのであった。
夢の中で何日も過ごした。
まさか、こっちでも何日も過ぎてるってことは……。
携帯で確認。
無事。
よかった。
とはいえ、夏休み入りたてである。
数日くらい過ぎていたってかまわないのだ。
それで。
そう、夢。
セクハラを生業とする勇者と旅をする夢だった。
あれ?
勇者が生業でセクハラは趣味が正確?
まあ、いいや。
どっちでもそれほど差はないから。
とにかく、旅をしたのだ。
そう。
ゲームみたいに旅をするのだ。
でも、モンスターは全然出てこなかった気がする。
全体的におかしかったが、世界観がおかしかっただけで、割と筋の通っている夢だった。
確か、誰かの世界で、その誰かを基に人間とかできていて。
魔法は意思だっけ?
それにしても、壮大な夢だったなあ。
刃物とか、血とか。
人が死ぬのをたくさん見た。
ゲロに苦しんだ。
……嫌な夢じゃん。
それと、何よりセクハラされまくった。
夢の中でセクハラされまくるとか……。
私の脳みそ、終わってる……。
泣きたい。
それで、なんだかわけのわからない終わり方をした。
あれは、私が魔法の力に目覚めた時との対比?
世界に潜りこむのと、世界から抜け出すのと。
うまくできた夢だ。
だが、夢オチである。
結局伏線回収できずに夢オチに頼るようじゃ、ちょっとあれだよね。
それにしても、リアルな夢だった。
感覚的に、というか。
うーん。
……夢だよね?
朝食を食べ終わる。
学校へ行こう。
……行かなくていいじゃん。
夏休みだっての。
寝ようかな。
いや、それもなんだかなあ。
夢で旅をしていたせいだ。
動かないと落ち着かない。
断じて精神的な病ではない。
外に出よう。
適当に身支度して、靴を履く。
うーん。
何かが足りない。
物足りない、というか。
やっぱり、夢じゃなかったのかなあ。
一旦戻って、金槌を持ってみる。
セクハラ魔撃退武器である。
落ち着く。
うわー。
私、今、女子高生としてかなり危ない。
こんなおかしい頭してたらイエローピーポーに運ばれてしまう。
まあ、とりあえず。
どこかに行こう。
勢いよくドアを開けて外に飛び出す。
「しまった……」
ごくごく自然に金槌を持ったままだった。
「施設入りが近いなあ」
朝から涙目。
金槌は仕方なく持っていくことにする。
鞄の中に入れた。
とりあえず、だ。
もし、あれが夢じゃなかったら?
夢じゃないとしたら、どこかにあの世界の主がいる。
それと、その姉が、サキさんだ。
どちらかを発見することができれば、わかる。
いやはや。
しかしまあ、なんで自分がこんなに夢に必死になっているのやら。
冷静に考えれば馬鹿らしいのだけれど、なぜか気になる。
何事もなければそれでよしなのだけれど。
例えば。
クラスの中にあの世界の主がいたとしたら?
確か、そいつはひきこもりだったはず。
それと、不登校。
とすると、クラスの中で不登校のやつだったりするのだろうか。
丁度一人いたりする。
そうだったら困る。
とにかく、そいつは不登校。
つまり、接触する機会はゼロ。
どうしよう。
考えながら歩く。
風景が変わっていくだけで、頭ではそれ以降進展がない。
やがて。
とりあえず、どこに向かうかだけは考えないといけないなあ。
なんて迷っているうちに、学校まで来ていた。
普段いつもここまで来ているせいか。
無意識というものは恐ろしい。
と、そこに。
校門の前に立っている女性を発見した。
女性が校門の前に立っていたところで、気にもならないはずだが、そうはならなかった。
見たことがある人だった。
マジですかー。
そう心の中で叫んだ。
あれは夢じゃなかったのか。
本当に異世界にいたのか。
異世界で私はセクハラを受けまくっていたのか。
その証拠がそこにいる女性だ。
彼女とは、その異世界で出会った。
そこで見た彼女そのままの人間がそこにはいる。
だが、何かが欠けている気がする。
「魔法の力が無い分、人の心が読みにくいでしょう?」
女性が話しかけてきて気付いた。
他人を拒絶するような刺々しさが薄れている。
違う。
彼女が言った理由でもって、そう感じるのだ。
彼女の名前は、竹原紗希というようだ。
家は、豪華だった。
当社比ではあるが。
広い。
部屋がたくさんあった。
それなりに裕福であると、はしゃぐ私に対して言っていた。
裕福は、ひきこもりを生むのだ。
そう彼女は自嘲気味に話した。
「そういえば、弟さんは?」
「ああ、相変わらずひきこもっているわ」
「名前はジカルマって言うのですか?」
「まさか」
紗希さんはそう言いながら笑った。
「普通すぎて面白くないわ。優しく太いと書いて、読み方もひねってないもの」
「やさぶと?」
「……とりあえずボケようとしていない?あなた」
「スカートめくり要員がいない今、私しかボケがいないのです」
「別に日常会話にボケツッコミはいらないと思うのだけれど……」
出された紅茶を飲む。
うわ、うま。
やはり裕福は違う。
……いや、何飲んでもうまいって言える自信がある庶民の舌の持ち主ですが、私は。
「まー、とりあえずですね。聞きたいことがいくつかあります」
そう言って、本題へ移った。




