第十二話:「勇者軍団アセトアルデヒド」
爆発。
一体誰が?
辺りを見回してもわからない。
ジカルマさんが探している途中で、はっとして私の腕を掴んだ。
「逃げるぞ」
「え、あ、はい」
走り出す。
爆発は私たちを狙っているというより、私たちを威嚇しているようで、大きな音と派手な騒動を巻き起こすように次々と物を破壊していく。
本棚から本が散り散りになり、柱が崩れる。
しかし、それらの破片すら私たちに当たる気配がない。
それでも、とりあえず逃げた。
私たちが図書館から抜け出すまでに、内部は混乱と崩壊で埋め尽くされていた。
その混乱は、外にも広まっているようで、逃げる人々が確認できた。
「誰がこんなことを……」
と、立ち止まって呟くのも一瞬。
すぐにジカルマさんは再び走り、私はそれに引っ張られる。
「どこまで行くんですー?」
「わからんっ!」
とりあえず走る。
周囲の建物が爆破される。
耳が痛くなる。
どんどん殺風景になっていく。
まるで汚い部屋を掃除していくかのように、物がなくなっていく。
何の演出だ、これ。
そんな突っ込みを入れようとした瞬間。
四方八方、全てが爆発で包まれた。
「やばばっ」
「くそっ……」
煙幕がなくなるのを待つ。
それで人がいなければ再び逃げるのだが。
当然、こんだけのことをしたのだからそういうわけにもならず。
私たちは囲まれていた。
「どれがリーダーだと思う?」
「さ、さあ……」
どれも同じような服を着ている。
違う服を着ているのなんて、初めから私だけだ。
まあ、他の人が高校生の制服なんて着てるわけはないか。
そのうち一人が飛びかかってきた。
速い。
ジカルマさんより動きが速いのが、見ただけでわかる。
それくらい、速さに差がある。
ジカルマさんが短剣を抜いて、対応する。
普段なら数秒後には決着が着くのだが。
相手も短剣で、何度か攻撃する。
ジカルマさん押され気味。
まずい。
そう思っていると、突然敵は襲いかかってきた時よりも格段に速いスピードで身を引いて、飛び退く。
元いた場所を黒い物体が横から通り過ぎた。
黒い物体は進行方向を変え、休むことなく襲いかかるが、敵にはかすりもしない。
「無理ね」
私の傍で、空間に黒い切れ目が入る。
そこから、サキさんが現れる。
「倒せないとは珍しいな」
「何もかもあなたのせいよ」
ジカルマさんを睨みつける。
「あなたに被害が及ぶから、思う存分できないのよ」
心底迷惑そうだ。
そういえば、ジカルマさんがいないときに聞いたのだが。
この世界で魔法というのは意思が関係するらしい。
サキさんの場合、相手を拒絶する思いがあの力になっているそうだ。
拒絶の対象にはジカルマさんも含まれていて、そのせいで今、力を使えないのだろう。
「どうにかならんのか……」
圧倒的に不利だった。
こちらが被害を受けないようにするので精一杯。
反撃もままならないまま時間は過ぎる。
「魔法がそのうち来るわよ」
「魔法?」
「ええ。襲いかかってくるのは一部のみ。それ以外、特にさっきまで爆発を起こしていたやつは確実に魔力を溜めているはず。だから、そういうタイプの強い魔法が来るわ」
「それが来た場合はどうすれば?」
「そのときに判断しなさい」
無理です。
そう心の中で抗議した。
「魔法を使っているやつを倒すことはできないのか?」
「そうね、やってみるわ」
黒い物体を、全く動かない敵へ向けて動かす。
大抵が、他と同じように避けた。
しかし、一固まりの集団だけは違った。
魔法でバリアを張って防いだのだ。
「あそこっすね」
「間違いなく」
集団を睨む。
その瞬間、笑い声が響いた。
「なかなかやるではないか!噂の集団!君たちが察したであろう通り、私がリーダーでありこの世界の柱の一人だ!!」
集団の中心にいる男がそう言った。
ジカルマさんが動こうとしたその瞬間。
その男は冷たく告げた。
「もう遅い」
ジカルマさんが動く前だった。
突然、私の体の受けていた重力が無くなる。
地面が消えていた。
足元には、暗闇。
真っ暗だ。
私は、そこに落ちた。
私は悲鳴をあげることしかできず、
みんなもそんな私の悲鳴を聞くことしかできなかった。
そして、視界が黒で染まった。
疑問その1。
ここはどこか。
暗闇でも、かすかに声が聞こえる。
いや。
頭の中に伝わってくる。
音声と映像が。
さきほどの男が、短剣で襲いかかるジカルマさんに説明する。
私は、世界に取り込まれたのだと。
世界に吸収される魔法なのだ、と。
つまり、私は世界の一部にされてしまったのだ。
なるほど。
だから私はこうして、このような光景を知覚できるのか。
納得。
疑問その2。
この世界とは何であるのか。
世界の一部になるといったって、この世界ってのがわからない。
なぜ同じような人間ばっかり?
なぜ魔法が使える?
一体――
その瞬間、何かが見える。
暗闇。
違う。
わざと暗くした空間。
狭い空間。
部屋?
モニターの光だけが照明として機能している。
学生。
不登校。
ひきこもり。
単語が脳裏に浮かぶ。
それが私。
違う。そうじゃない。
それが、世界。
世界がひきこもり?
世界が不登校?
日記。
あの日記。
それが頭の中で存在を強める。
なぜここでそれを思い出す?
世界はひきこもりで不登校で、日記で、みんな同じ。
結びつける。
「あ――」
理解。
理解が頭の中で満ちる。
世界は。
この世界は。
最初っから一人だったんだ。
この世界は、一人。
この世界の人間は、一人なんだ。
世界は、あの人間だ。
あの日記を書いた、ひきこもりで不登校である、その人が。
私はそこに入れられてしまった、他人。
おそらく、サキさんも。
だからあの人は拒絶をしているのだ。
この世界は自分に被害を与えた人間だから。
私が、世界という他人にすることはなんだろう。
問いかけの答えは、体から溢れる魔力として、現れた。
光。
光が暗闇を退ける。
外が見える。
ああ。
戻ってこれた。
「ユミ……」
ジカルマが、敵が、大きく目を見開いて、私を見ている。
私は空中で、自分の魔法で浮遊しながら帰還した。
今、私が中心となった。
世界に。
この世界を作った人間に。
影響を与える中心に。
「この世界の全てがわかりました。世界は一人の人間でした。私と違う、一人の人間。その人は、私を取り組もうとしました。私をこの世界に迷い込ませ、そして、今回、私を自分の一部にしようとしました。でも、私はその人とは他人なのです。違う存在なのです」
息を吸う。
「だから、私は、私自身を貫きます!この世界が私を選んだ以上、私が世界に影響を与えます!」
大量の魔法が飛んでくる。
魔法は意思。
世界の主の意思。
だけど。
「そんなもの、私の心を傷つけられない!!」
叫ぶ。
体中から溢れる光が拡散して魔法を打ち消していく。
魔法は私に届かない。
「私は……」
ジカルマさんの方を見る。
頷いた。
やってしまえ。
そう言わんばかりの不敵な笑みで。
「私たちはっ!!」
掌に魔力を集中させる。
明るい球体で敵を狙う。
「勇者軍団アセトアルデヒド!!世界は私たちが変える!!!」
球体を放つ。
途中で小さな球体へと分れていき、敵を狙う。
その魔法は私の意思。
攻撃でも、拒絶でもない。
自分を相手の中に残す。
相手に影響を与える。
そういう思い。
球体はそれぞれ狙いを定めた敵を追尾し、加速し、命中する。
それは、相手の体に埋め込まれた。
私の意思を、相手に埋め込む。
相手の中に、私が流れ込む。
敵は次々に倒れていく。
戦意を喪失したからだ。
敵はいなくなった。
それが、私たちの勝利だった。




