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第十一話:「日記」

今日はいつだろうか。

しっかり記憶していないと、わからなくなってしまう。

今記憶している日付は正確なものかわからない。

そもそも、ここで日付というものは意味を成さないようで、自分がいかにそれに縛られていたかを実感している。

……こういうことを考えているときは平気なんだけどな。

あ、しまった。

そんなことを考えたばっかりに。

脳裏に浮かんでくる。

赤。

血。

殺人。

あああ。

まずい。

ゲロリンが来てしまう。

最近、頻繁に吐くようになってから愛着のある名前を付けたが、苦痛は全く緩和されない。

走る。

トイレで、ゲロリンを排出する。

ううう。

一日三回くらいはこんなことをする。

ゲロリンピックである。

……神聖な大会が一気に汚物だ。

しかし困った。

まさかジカルマさんが殺人鬼になるとは思っていなかったから。

まだセクハラ魔の方が精神的にマシだったなあ。

それはともかく。

……というふうに発想を転換させないとまたゲロリンが来るのである。(自虐ネタ)

っと、それはともかく。

今日も手掛かり探しを頑張ろう、おー。



「うげ」


図書館に入るなりすぐさま殺人鬼を発見した。

今日は赤くないのでまだ直視できるものの。

襲われたらどうしよう。

昨日の様子だと、こっちに危害を加える気はなさそうだったけど。

おろおろ。

あ、目が合った。

まず。

そう思った瞬間、物凄いスピードで接近してきて。

ああ、終わった――

人生を諦めた。

走馬灯って、即死でも見させてもらえるのかな。

見れないなら困るけど、でも痛いのもなあ。

ふわさあっ。

……?


「今日も綺麗な白だね」


ずばきゃああああああああっっっっっ!!!


「ごぶええええっ!!」


スカートをめくるセクハラ魔の退治に成功した。

ユミはセクハラ魔に鉄槌を与えるために金槌の常備をみなさまに推奨します。

股間を押さえて苦しんでいる。

ざまーみろー。


「ひ、ひどい」

「殺人鬼が寄ってきたら誰でも殺されると思います。心臓止まります」

「だ、だからそのことを謝ろうと……」


倒れながらじたばたするそれが情けない声をあげる。


「あなたの蹴りがうまいこと効いて、殺人衝動が消えたみたいよ。彼」

「あ、サキさん」


魔女ことサキさんがいた。


「へえ、サキさんと言うんですか。良い名前ですね、どうです、僕とお茶でも――」

「黙れ」


なぜか復帰して立ち上がったジカルマさんを、サキさんは。

蹴りあげた。

セクハラ魔は崩れ落ちた。


「あれ、魔法じゃないんですね」

「こちらの方が効く気がして」

「確かにそうかもですねー」

「まあ、とにかく、彼は一応大丈夫だから。それでもまずそうになったときはまた蹴るなりしてあげなさい」

「うーっす」


サキさんは図書館から出て行った。

あの人の行動はよくわからない。

まあ、いいか。


「ところで、大丈夫です?」

「気遣うくらいなら最初から攻撃しないでください」


それは無理な話だ、と思った。



「何か良い情報はあったのか?」

「えー、まー、一応」


そう言って、慣れた動きで本を探す。

題名のない本というものは、こういうとき大抵重要なアイテムだったりする。

意味深なものも含めて、タイトルでピックアップして探した結果、見事に一つ大当たりがあった。


「これです」

「なんだこれ」


ジカルマさんはそれを流し読みする。

それの中身は日記だ。

日記の中には、こう書いてあった。



7月20日


誰もいない。

俺だけの空間。

平和だ。

誰も俺を傷つけることはできないのである。



7月21日


しばらく不登校をすると、慣れるものだ。

最初は罪悪感があったものの、今ではそのような感覚はない。

これが、正しいのだ。

自分の身を守ることは最善の行為だ。



7月22日


部屋を自分のために改造する。

敵が侵入できないように強化した。

これで、安心できる。



「なんだこれ?」


読んでから、ジカルマさんが再び聞いた。


「日記っす」

「日記……ね」


ぱらりぱらり。

戻ったり進んだり。

ページを変えながらちらちら読む。


「なんというか、よくわからん」


ジカルマさんは変な物体を見るような顔で日記を読む。


「不登校?」


そして首をかしげて、次々とわからない単語を挙げていく。

私にはこの日記が重要アイテムであることがわかる。

けれども、この日記がここにある意味がわからない。

そして、この日記がここにあることでわかることも検討がつかない。

一体、この日記は何なのだろう?



「あー、ところでさ」

「うい?」

「そのー、なんだ。食欲とか、大丈夫なのか?」


言いにくそうだった。

そりゃそうか。


「あー、それはですね」


実のところあまり大丈夫ではない。

けれど、それなりには大丈夫だ。

そう返答しようとしたのだが。

赤。

血。

殺人。

また脳裏に浮かぶ。

ああ。

なんでこんなときに。


「すんません、ちょっと、ゲロリン」


駆け出す。

ゲロリンを排出する。

本日二度目だ。

口を拭く。

溜め息。

で、戻る。


「大丈夫か?」


とっても心配されていた。


「この通り、あまり大丈夫ではないのですが、随分ましになりました」

「そうなのか?」

「まあ、本とかに没頭している間は大丈夫なのです。あと、今は吐いた直後なので平気でして」


ただ、何かあって血とかを思い出すとまずいのだけれど。

とりあえず、ゲロリン直後の今が一番安定している。

だから。

今まで溜まっていたものを吐き出すには丁度よかった。


「なんで、人を殺さないといけないんでしょう?」


ジカルマさんは、固まった。


「相手が襲ってこなければ、こっちだって何もしなくて済むのに」

「向こうからすれば、拠り所である魔王を倒そうとする俺たちは早めに処分したいと思っても、おかしくはないと思う」

「それでも、だからって襲ってきた相手をこっちが殺すのもおかしいじゃないですか。効率がいいからって、それが一番良いってわけじゃないじゃないですか」


ジカルマさんは黙る。

それが、私の言うことを聞こうとしているのだとわかると、口から言葉が自然と出てきた。


「私には、戦う意味がよくわからないです」


それっきり。

それっきり、沈黙が場を占めた。

沈黙を破ったのは爆音だった。

本棚が爆破されたのだ。

それは、敵の攻撃であり、その敵というのは、私たちを狙っている。

つまり、戦いが始まる。

それを理解するのに、そう時間はかからなかった。


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