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人族なのに、魔物の王の王になってしまいました  作者: 星村直樹
ロードキビト〈吉古神〉
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鉱山領主の砦、壊滅

 倉庫にある鉄は、インゴットにされて、何トンも備蓄されていた。王都に運ぶより、ここでドワーフに剣や盾にさせようとしていたのだろう。だから、ドワーフの待遇が良かったのではないか。ガブに、「帝国の奴らに、言い様に使いまくられていたんだな、おい」というと、「今戦ったら、負ける気は、しないんじゃよ。じゃが、次の年を越せん。ここは、汚染されてしもうた」と、がっかりしていた。


 鉄のインゴットをアイテムボックスに吸い込んだ。その間も、ガブは、話すのを止めない。本当に、帝国の奴らを恐れていないのだろう。


「後で、赤人族の族長に会ってくれ。キビトは、錬金術士なんじゃろ。あいつら、咳がひどくてな。見てやってくれ」


「それは任せろ、多分データーがある。後で調べるよ」


「データー?」


「なんて言えばいいんだ。賢者モード?」

 頭の中にコンピューターがあると言っても理解してくれないだろ。


「おまえさん・・、いや、頼む」


「次行くぞ。どの見張り台だ?」


「赤人族を脱走させないように見張っている見張り台じゃ。赤人族を逃がすなら、山側三つも全部黙らさんといけん」


「あそこにある三つだな。孫を助けたら、二人で赤人族の所に行ってくれ。見張りを倒して回るから」


「そうさせてもらう。死ぬんじゃないぞ」


「何言ってる。さっき言っただろ。おれは、この世界で、一番強いと思うってな」


「すまん」


 おれたちは、見張り台の交代部屋に突っ込んで、交代要員二人を一挙に沈黙させた。おれは、殺したほうがいいと言ったのだが、ガブが嫌がるので、砦の奴らも、全員そうすることにした。ガブも、コドシと一緒でやさしい。魔物や亜人の方が、よっぽど人より優しいのだ。従うしかない。


「じゃあな、上の奴らを倒したら、例の水結晶を光らせる。そしたら行ってくれ」


「気をつけるんじゃぞ」


 水魔法で範囲攻撃するときアイテムを触媒にすると、その範囲のアイテムが光る。そこで、使用するのを止めたら、水結晶の水玉が光るだけで終わる。いい合図になると思うんだ。


 そんなわけで、ここからは戦士モードで行く。


「『加速』!」


 人というのは、腹を殴られると前かがみになる。そうなると、首根っこが、簡単にさらされる。首根っこを手刀で殴ると、脳と体が切り離され、意識が飛ぶ。


 ドカ、ドカ。ドカドカ。

「『水結界』微小『パオ』!」

 パオは、消去魔法。一瞬だけ水結界が張られてすぐ消えた。水玉が光ったのを見たガブがおれの方を見上げながら、孫と赤色人の強制労働宿舎に向かった。おれは、加速したまま浮遊魔法を使い、山側の見張り台と、その交代部屋を隠密に襲撃した。


 浮遊魔法を使ったが、どうやら、強い魔法使いは、居ないみたいだな。砦の反応がなさすぎだ。


「さてと」

 山側の3つ目の見張り台の上で、ガブと、赤色人が、鉱山の中に入って行くのを見送って、追撃させないように、この砦を全滅させることにした。


「全員殺した方が早いんだけど、ガブと約束したからな。でも、派手に行きますか」


 山と反対側の砦に飛んで、宣戦攻撃の火柱をあげた。


「『火柱』!」


 ドオン!


「おいおい、飛び降りなくても大丈夫だろ。ほっ、生きてた」


 そう言って地上に降りて、見張りと予備の兵士を気絶させた。


「よし、次」


 そこからは、向こうから来てくれたので楽だ。その中に魔法使いもいたから、それなりの陣容だったんだなと思う。


「『ソニック』!」 風切りでいいんじゃね。

「『ファイヤーボール』!」

「『ウォーターシュート』!」

「『ソイルリタン』!」 土凸だね。


「『プロテクト』!」

 戦士がいっぱいいるので、魔法防御を使わないで、防御強化だけでしのぐ。一人ずつ気絶させるのは、骨だけど、敵の中に入ってしまえば、魔法攻撃も飛んでこない。


「戦士だったら、丁寧に首根っこを叩かなくてもいいか」


 ドガッ、バギッ、ズガッ

 ズガッは、蹴りな。ドカッ、ドカッはいい加減。ドカドカは、ボディブロウの首根っこ手刀。


 簡単に言うと、こっちは、素手だ。


 おっ、偉そうなのが出てきた。相手は、魔法使いに補助されて加速をあげた。更に補助魔法のプロテクトも。


「貴様、帝国の砦と知っての狼藉か」


「お前が、此処の責任者か?」


「我は、ここ一帯の領主。ゼイン・アウグスト・オーエンである。ハイライン王子直轄の鉱山砦だぞ。何用の狼藉か」


「何用もくそもあるか。勝手に人ん家を荒らしやがって、暴力で何でも出来ると思ったら大間違いだぞ」


「言うではないか。では、我を撃ち果たしてみろ」


「はい、はい」


 バシュンと行って、ドガドカ。


 ちょろすぎる。たぶんおれと同じ年ぐらいか、ちょっと上。


「お前は、ここの責任者だろ。責任取って、強制労働3カ月だな。水路でも掘ってもらうか」


「領主さま」

「貴様ー」


 領主捕まえたから、ここは、崩壊させてもいいな。


「『ショックウェーブ』!」

 うー、アーーーーーーー


 全員耳をふさいだが遅かった。物陰に隠れていた卑怯者も、その例外ではない。その卑怯者は、しょんべん垂らして気絶した。ついでに、建物も簡易の木組みの建物は、崩壊。その卑怯者は下敷きになって瀕死となった。


 ちょろかった領主のゼインを担いで、ガブと合流した。


「ゼイン様じゃないか」


「こいつが悪の根源だろ」


「違うだ。ゼインさまは、お優しいかただ」


「この人は?」


「赤人族の族長、ミヒトマさんじゃ。ゼインさまは、わしらに良くしてくださったんじゃ」


「それおかしいだろ、お前らの惨状を見ろよ。こいつが領主だぞ」


「それは、そうだけんども。飯を食わせてくれただ」


「お前らを強制的に働かせるためにな。ここの資源を壊したのは、誰の命令だ。自立できなくなったのは、誰の性だ」


「そりゃあ・・・」


「植民地って言うのは、飴と鞭で、統治するもんだ。そんなのも知らないのかよ。〈ほんとは、宮迫先生の受け売り〉まあいい、こいつも連れて行くから、後で、ゆっくり話し合え。お前らも、おれの所に来る以上は、町の建設を手伝ってもらうぞ。その代わり、飯をたんまり食わせてやる」



「飯がたんまり!」


「ハルク族の女たちが、オークに料理の指導をしてくれている、旨いぞ」


「分かった、行だ」


「やっと、了解してくれたか」


 ガブが、肩の荷を下ろしていた。ここまで逃げたものの、食べ物の話でもめていたのだ。


「ガブ、お疲れ」


「お前らも、落ち着いたら、自分で、自分の食い扶持を作るんだぞ」


 みんな頷いている。見回すと、ざっと300人いる。最初は、北のオアシスに、おれが食料を運ぶしかないか。じゃないと80Kmも移動してくれそうにない。ハーン一家のザイたちにリーダーを任せよう。


 領主のゼインを赤人族に預けると、丁寧に介抱していた。まんざら悪いやつでもないのかもしれない。


 鉱山坑道最奥のゲートは、ガブと二人で、堅く扉を閉めた。鍛冶屋との連携作業など初めてのことだ。魔法で溶かした鉄をガブが厚い扉のイメージでたたく。それを受けて錬金術で生成する。あっという間に分厚い扉の出来上がり。長い鉄骨を岩に溶け込ませてそれに接着した。


「魔法が使える錬金術士とは、凄いもんじゃの」


「ガブの腕がいいからさ。生成のイメージが、はっきり見えたよ」


 ガブ達とは、長い付き合いになりそうだ。


 結局こいつらの食料を確保するために休みが1日削られることになった。カーン一家のカーンに、バザールに行ってもらって、新しい種や家畜用の飼糧の元なんかを買ってもらい。ザイにドワーフと、赤人族を預けた。ザイが、この総勢500人を砂漠のオークの町に連れて来る。多分毎日の食料をおれが運ぶんだろうな。仕事が増えてしまった。


 北のオアシスに帰って、ザイたちに、ドワーフを連れて来てくれと頼み、カーンたちには、バザールへ行ってもらうことになった。


「ザイ、カーン。頼んだぞ」


「任せろ」×2


「シミさん、ドワーフと赤人族が来たら、料理を教えてやってください。食材は、おれが毎日持ってきます」


「あいよ」


 ドワーフたちは、鍋とかやかんを引っ提げている。料理の腕をあげるのは時間の問題だな。


 そうそう、なぜ、毎日、食料を持って行かないといけないかというと。酒だるを小出しにするためだ。ドワーフたちに、1日10樽の酒を渡すと満足するそうだ。だけどガブが、最初は5樽でいいという。働きに応じて、樽を増やしたい。モチベーションを保ちたいというので、荷物に入れないで、おれのアイテムボックスから小出しすることになった。だから、誰も盗み飲みができない。そうやって、北のオアシスからの80Kmを踏破すると言っていた。

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