ドワーフも赤人族も助ける
「も、もう着いたんか。は、早いの」
ガブが、ヘロヘロだ。風をまとっているから、抵抗は無いはずなんだけど、スピード酔いしたようだった。
「ごめん、ドーピングさせる。ちょっと興奮状態になるけど、めまいが直るから『剛心』!」
ガブが、一瞬黄色く光った。
「ウォーー。やるぞ、一族を救うんじゃ」
ドワーフの気質からいったら、こうなっちゃうよな、ハハハ。
凍土と言っても初夏から、秋の初めにかけては、湿地帯で生き物も草原より多い。そう言う意味では。冬の乗り切り方さえ確立してしまえば、豊かな土地である。
ゲートは、湿地帯より一段高くなった台地のうっそうとした森の中に有った。空から見つけやすいその台地は、地上からだと湿地帯に阻まれていて、到達しにくいところだった。
「ガブ、此処もいいところじゃないか」
「冬は、何処までもそりで移動できるんじゃ。じゃが、ここは内陸じゃろう。海まで行くには遠すぎる。海獣を獲るのを失敗したら、みんな腹をすかせてしまうでのう。耐えられなくなるんじゃ」
「そうだろうな。極寒で海獣漁か、厳しいだろうな」
「鉱山は、はげ山じゃ。洞窟の奥で暮らす分にゃあ涼しいが、夏は獲物を捕りに遠くまでいかんといけん。どっちもどっちじゃが、まーだ、鍛冶屋をしやすいでの。それなりに暮らせていたんじゃ。人間が来るまではな」
「そんなに我が物顔なのか」
「帝国っちゅう所から来たといっとった。こっちは、男手が60人っちゅう所じゃ。向こうは、500で来よった。抵抗はせんかったよ。今も、100人兵士がいる。そんなにいるんなら、狩りでも牧畜でもすりゃいいんじゃ」
ドワーフは、強いと聞いた。それを100人の兵士で抑え込めるほど疲弊させているということか。
「ここじゃ、一度に一人しか通れん」
ドワーフ用のゲートは、とても狭い。ドワーフの高さしかないから、大男は通ることすらできないだろう。
「荷物をまとめていたら、1日掛かりそうだな。鍛冶屋道具とかは、おれが持つ。携帯するのは、生活必需品に絞ってもらえないか。後は全部アイテムボックスに入れるから。だからって、こっちで作れるものまで、持って行こうなんて言うなよ。ここだって木がたくさんある。生活を一新しなよ坑道暮らしじゃなくなるんだから」
「そうしよう」
「将来ここで、木を切ったり、鍛冶屋をやってみないか。食料は送るよ。冬になったら、木材持ってオークの町に来ればいいんだ。トナカイもいるんだろ、手なずけよう」
「ボーントナカイをか」
「ハルク族に相談する。ハルク族なら捕まえられるだろ」
「いい勝負じゃろうな。そこまでできたら、ここで暮らせんことはない。お前さんの町とつながりを持つようにするだけでも行けそうじゃ」
「いいんじゃないか。冬に海獣の肉を持ってきてくれたら高く買う。オークは、やっぱり肉好きなんだよ」
「交易せい言うことか。嬉しいことを言ってくれる。夢が広がる」
「最初は、全員で、オークのキャンプに来てくれよ。農具も工具も、なんも無いんだからな」
二人で、四方山話をしながら、ゲートを抜けると、そこは真っ暗な所だった。ツンドラ地帯が、そこそこ寒かったので、少し暖かくなった気がする。気候的に地中は、温度変化が少ない。ここも暮らしやすそうだ。
ガブの掛け声で、ドワーフたちが動き出した。荷物は、あれほど少なくしろと言ったのに、おびただしい樽の数。
「おいガブ、生活必需品の比じゃないぞこれ」
「こりゃ、わしらの命より大切なものなんじゃ。こんなところにおいていけん」
酒だよな、はぁ、しかたないか
「分かったよ全部持ってこい。その代わり、日に少しずつしかアイテムボックスから出さないからな。ちゃんと働けよ」
「分かっとる分かっとる。みんな聞いたか、全部持ってこい」
最初のは遠慮していたということが分かる。どんだけ酒好きなんだ。地下に住みたがる理由がこれかよ。当分おれのアイテムボックスが酒蔵だよな。こいつら、酒蔵があったら、何処に住んでも構わないんじゃないか。
地下は定温、酒の保存に最適。アイテムボックスも低温。プラス0~1度。凍らない冷蔵庫なので、発酵させるための酒蔵は、後に作らないといけない。
ドワーフたちは、荷物を殆ど持って移動しなくて済むのだ。思ったより早く鉱山からの脱出に成功しそうだった。後は、強制労働させられているドワーフが戻り次第、脱出は完成する。
ここで、最後の一働きが待っていた。
「ガブ、孫が捕らわれているところに案内してくれ」
「こっちだ」
鉱山は、山の中というより、平地との境に有った。だから、大人数の兵で侵略できたのだ。奥の山からの川があり、製鉄所は、領主町の川下にある。この製鉄所のばい煙で、川下側に住む人がいなくなったそうだ。海は更にひどく、あまりのひどさに漁をするものもいなくなった。だから、食料は、領主を送り込んだ帝国の配給で賄われていた。そんな中で、山の幸で果実酒を作っていたドワーフの執念がすごい。山ぶどうだと、酸っぱいワインしか作れないというのに。
「じゃあ何か、鉱山堀りは、ドワーフが。製鉄は、赤人族がやらされてたってか」
「そうじゃ。飯だけは、たんと食わせてくれていたから、仕事をしないっちゅう訳じゃないが、偉そうなんじゃよ。ドワーフなら、魔法武器が作れるのが当たり前っちゅう考え方も、おかしいじゃろ」
「そうだな、それなりの資材とアイテムが無かったらできるはずがない」
「わしもそう言ったんじゃが、逆切れじゃ。孫を人質に取って、王子様に献上するから1本献上しろ。さもないと孫を献上するぞとか、訳わからん。王子とか王様ちゅうのは、馬鹿ばっかりか」
「そうでもないぞ。オークの王は立派な人だ。会えばわかる。とりあえず、ここの領主に、オークの爪の赤でも煎じてのますか」
「そりゃええ。ほりゃ、砦の裏に出た。鉄の倉庫は、あそこ。孫は、見張り台の交代部屋だ」
「交代部屋?領主のくせに、せこいところに隠すな」
「楽でええじゃろ。逃げれると分かっていなかったら、その後がきついがな」
「領主はどこだ」
「そりゃ、砦の一番奥に決まっとろうが。そこに行くのは無理じゃよ。100人の兵士が守っとる」
「おう、分かった。最初は、鉄かな。赤人族はいいのか」
「助けてくれるのか。孫を助けるときに、見張りを倒してくれ。あいつらの方が、わしらよりひどい待遇じゃ。着の身着のままでもええ」
「行くぞ」




