フィクションノンフィクション
明日生きてるかわからないからさ
それどっちかって言うとあたしのセリフじゃない?
は、なんで?
大人になればわかるよ。歳をとるにつれて世界は進化していくんだよ?
いや、退化してるだろ
虐待の話。言葉、会話に導かれるように私の頭の中は「おもしろい」という印象が行きわたった。この映画、よほどうまく作れているのだ。
かつての私は人の話を聞くのが好きだった。他人の心情を垣間見れる。そのせいで中学時代は小説を好んで呼んでいた気がする。
私にとっての〇〇は、暇つぶしだったのだ。
普通がつまらなかった。なぜそんなに一つのことに夢中になれるのか。私なら趣味が三日続けばいい方で、すぐに別のものへ目移りしてしまう。その三日坊主が「いつか見つかる」「いい経験だ」と結論づけてしまえばそこまでで、結局気づいたときには自分の周りにはちゃちなプライドしか残ってないことにそのうち気がつくだろうことは薄々勘づいていた。だから事に夢中になれなかったのだ。
この世界は、嘘の世界、小説、フィクションのように何かきっかけがなければ面白くならないような世界じゃない。面白くなければならないという前提は、元々存在していないのだ。面白くもつまらなくもある人々がまばらに生きている人間界。落ちも要らなければ大衆に認められる特異な面白さを必要としない。そういう世界。
かと言って、やることがないつまらない世界だからといって、今ここで死ねるほどの勇気は私にはない。様々な想いこそ抱えているものの、肉体的苦痛もなければ、従順でもなく、学生時代は教師への反骨心もなかった。寧ろ教師っていう職業は「大変だな」ぐらいに思っていたぐらいだ。
私は頭でいくら想像しても、そこで完結させてしまうただの臆病者だった。
その癖して、プライドはちゃんと座っている。私のしていることは正しい。周りを否定するつもりはない。でも周りよりは自分の方がの方が上に行っているはず。そう思えてしまっていたのだ。
「おもしろい」とは実に多彩な意味を持つ言葉で、リアリティがあろうがなかろうが、感じ取る側の人間によって左右される。例えば、悲しい物語。主人公が失恋する物語。ヒロインが病気で死んでしまう物語。悲しいが、面白いのだ。自分を感動させてくれる物語が繰り広げられた。その「感動」を「おもしろい」という言葉に還元させて表現する。
この今私が見ているスクリーンに映し出された映像は、おもしろいのだ。奇しくも、主人公の名前に聞き覚えがあるのは、やっぱり偶然だ。
物語は二つ目に入る。
*
「ねえ、鉋君。どうしていつも仏頂面なの?」
「さあ」
「なんか変わったね」
「あんたに俺の過去を教えた覚えはない」
「あ! じゃあやっぱり変わったんだ」
「……」
口篭ってしまった私だった。それをイエスととらえた彼女は、なぜか視線を泳がせながら話題を振った。
「あたしがさ、もし未来から来てるって言ったら信じる?」
「信じる」
少しの間があった。
即座に答えた私に、彼女は不満があるのだろう。その証拠に、右の眉毛だけが上がっている。
「そこは信じないとか言ってくれないと、話が盛り上がらないじゃーん。もう、愛想がないんだから」
私は間髪を入れずに理屈臭い話を入れた。
「信じられるのは金だけだよ。何が信じられるかっていったら、多くの人間が信じられるものでしょ。紙切れだろうとゴミだろうと、どんなに汚いものだろうと、みんなが価値を認めればそれは金と同じ。信じられる。逆に言えば、紙幣に価値が見いだせなくなったら、それはただの紙だ。人間だってただの肉だ。そう思ってた」
思ってもない話の成り行きになった。
「だけど?」
愛の手が嫌味ったらしく、続きを急かす。またそのへらりと笑った表情も嫌味に見える。
「だけど、たまに信じてみたいって思うことがあるんだよ。他の人が信じないようなことでも、もしこんなんだったらいいなあって、絶対叶わない夢とか、本当は望んでもいない未来を欲しがっちまうんだよ。それでいて、自分の嫌なことからはすぐに逃げる。どうしようもないな。あんたに言っても仕方ないけど」
「でもそれは鉋君の一方的な考えでしょ? 本当は違うかもしれないじゃん」
「確かにな。俺が納得すれば、早く解決する話なんだろうな」
「好きな人ってさ、どうしても切り離せないんだよね」
突然話題が変わり、反射的に私は彼女の顔を見た。
「うわっ、お前そんなキャラだったっけ?」
「う、うるさいわ! あたしだって女の子なんだから好きな子の一人や二人いるに決まってるでしょ!」
「いや、二人はどうかと思うけどな。お前、意外とそっち系か」
「それは言葉の綾でしょ! そっち系ってどっち系よ!」
「そんなのはどうでもいい。いいから話の続きを……」
「そういうのが愛想ないって言ってんのよ! あたしだけはしゃいでてバカみたいじゃない。そう言われると話しづらいし……」
「ここで言わないと永遠に言えなくなるぞー。俺が放課後に学校に居るなんて奇跡だからな」
「だから、なんて言うか……」
下唇が膨らんでいる。
「卒業する前に、机じゃつまらないからどこかのガードレールにでも、一緒に名前、掘ろう……じゃなくてー……」
ゆっくり動く。
彼女は笑う。
彼女はこんな顔だったっけ、と思った。瞬きすらゆっくり見える。
俯く姿。
私の目を見てくれる。
細くなる目。
乾いた唇を舐める。
そういえば…………。
「――だからさ、鉋君も頑張んなよ? そんな生意気そうなこと言ってないでさ」
突然声が聞こえ出し、私は呆然としてしまった。
「え、ごめん。聞き流した。もう一回お願い」
彼女は顔を歪める。
「鉋君ってモテないでしょ?」
「まあ、友達って呼べそうな人、いないしね」
彼女はいったん視線を落とし、くすっと笑みをこぼした。
「お前つまんねえなー。そんなつまらない鉋君に免じて、もう一回だけ言ってあげる」
百華は改まって私に体を向ける。
唇を尖らせる。
口角が横に引っ張られる。
ばーーーーーか。




