6
撃沈だぁ……。
たまきさんの天然っぷりには勝てないっ。
あぅー、耐えられねー!
帰りたいっ、帰りたーいっ!
「弥、そろそろ失礼しよっか」
「え」
ど、どの意味で帰ろう発言か分からないけど、僕の心中を察してくれるのはやっぱり君だ、凪沙さん!
「帰っちゃうのー?まだ来たばっかじゃん?」
「ごめんね葉山くん、あたし夕飯の買い物して帰らなきゃだから、弥も連れて帰るよ」
「弥くんも帰るのー?」
「あ……、はい、僕も……」
「弥はあたしの用心棒だから、家も近所だしね」
「そっかぁ、また遊びに来てね、今度ライブにも来て来てーっ」
「は、はいっ」
なんとか、なんとかあの生き地獄から解放された……。
でも、みんな僕を誤解したままなんだよなぁ。
たまきさんのゲイ疑惑からは脱出できたけど、僕が抱いただの、また抱かせろだのと猛獣発言した疑惑は解ける気がしない。
男の僕が違うと説明したところで、女の子がそう言ってるじゃないか、と信じてもらえないしな。
くそー!男って不利だー。
いちばんの理解者だと思ってた凪沙だって僕を疑ってるし。
そりゃそうだよな、いくらなんでも女の立場の凪沙には、男の考えてることなんて分かるはずもない。
一緒に帰ろうと言っておきながら、さっきからずっと僕に背中向けて歩いてるし、呆れて口も聞いてくれない。
口を聞いたとしても、このパターンはお説教ムードだよ……。
「弥?」
「……なんだよ」
「感謝してよね、助けてあげたんだから」
「あの場から連れ出してくれたことは感謝してるよ……」
「あんたが逃げたい時はいつもあんな顔してるもん、知らんぷりしてあげてもよかったんだけど?」
「よく見てるな、僕自身よりも僕のこと分かってくれてるよ」
「分かりたくなくてもあんたが分かりやすすぎるのよ?すぐ顔に出るんだから……」
「面倒かけてすんません……」
「本当よねー、いっつもあたしが助けてあげてるんだから、あたしが用心棒になっちゃってるわよね!」
「はー、僕に一人前の男になれる日が来るんだろうか……」
「まぁ、かなり見通し立たない話ね、今日改めて思ったわー」
「もやしだのチキンだのゲイだの言われて、あー、もやしとチキンだけじゃおかずにもなんねーな」
「ぷっ、……自分で言ってるしぃ」
「笑え笑えーっ、僕はもうなんと思われても仕方ないやつだからな、笑えばいーさ!……はぁ」
「あたしは弥が襲ったなんて思ってないよ」
「もぅいーよ、信じてくれとは言わないから」
「別にあんたのことを信じてるわけじゃないしっ」
「たまきさんが嘘ついてると思ってるのか?」
「それも違うなー、あたしは弥が女の子に手を出せるような甲斐性はないと分かってるからよ!」
「なんですか、そのはんぱない理解力は」
「あははっ、今日は弥んちでご飯作ろっかなー」
笑われてるけど、口は悪いけど、また借りができちゃったな。
たまきさんの思考回路にも勝てないが、凪沙には多分一生勝てない自信があるっ。
「いーよ、買い物付き合うからスーパー寄ろうぜ」
「夕飯の支度しようと思ったけど、今日は疲れたから弥んちで食べてあげるー」
「あげるって上から目線だぞ」
「うちも今日お父さんいないから、作り甲斐ないし」
「うちで作ってくれんのは有り難いけど、いつも上から目線なのがなー」
「手のかかる弟をもつと大変なのよねー」
「誰がお前の弟だっ、しかも僕のほうが誕生日早いんだからお前が妹だろーが!」
「なに言ってんの?あたしは芹沢家の兄弟じゃないから、あんたの妹でもないしっ」
「じゃあ僕もお前の弟なんかじゃないぞ」
なんとなく言いたいことは分かってるよ。
一緒に育ってきたから家族みたいなもんだけど、所詮僕は弟止まりって言いたいんだよな。
ムカつくけど認めてやんよ、姉御。
「今日はお母さん仕事?」
「多分な、忙しそうだったからいちいち聞いてない」
「じゃ、やっぱり作りに行ってあげてもいいよ?」
「いーよ、適当に食べるからー」
「あんたはいいけど、育ち盛りがいるんだから、ちゃんと手料理食べなきゃだめよ!」
「それはうちの母さんに言えよ……」
「忙しい時はお互い様じゃん、少しはあんたも手伝いなさいよね!」
「手伝いくらいはしてるけど、……てゆーかさ、お前が僕のことをあんたあんた言うから妹たちにも言われるようになったんだからなっ!せめてうちではあんたとか言うなよな!」
「頼りにならないお兄ちゃんにはお似合いだからいいじゃない、あんたで」
こいつに甲斐性なしって言われると何も返せないっ。
長年連れ添っただめ亭主みたいな扱いしやがって。
「ひーくんはまだ塾?」
「知らん、弟のスケジュールなんかいちいち覚えてられるかっ、僕は自分で精一杯だからな」
「確かにー!自分のことですらできてないもんねー!だからひーくんたちがしっかりしてるんだよねー!」
「納得すんなよっ」
おっしゃるとおり、僕がだめ兄貴だから妹たちがしっかりしてるし、世話焼きの凪沙に面倒かけてるのも事実だから否定はしないけど、調子に乗るから口にはしてやんねーよ!
「昨日の夕飯は何作ったの?」
「あー、おとといのカレーだったかな?三日前だったかな?覚えてねーや」
「覚えてないとかありえないんですけどー!じいさんかっ」
「食べられれば何でもいいじゃんか」
「ちゃんと栄養取らないと太れないんじゃない?ちょっとは太らないと……、また骨折しても知らないわよ?」
「あれは痛かったからやだなー、まあでも、家来が働いてくれたから助かったけどー」
「は?家来ってあたしのことじゃないでしょうね!」
「違った?じゃ、メイド?そんなかわいいもんじゃねーけどなー、あははっ」
パッッチーン!
「バーカ!」
「いてーなー!凶暴女っ!すぐ殴るなよーっ!」
ほーんとかわいくねー!
これがなければ少しは女らしくなるのに。
まー無理だなっ。
「なぎちゃーん!」
「みのちゃーん!今帰り?」
「うん!なぎちゃんも?高校どうだった?」
「あー、楽しかったよ!ね、弥?」
意味深な風に僕に振るなよ。
楽しくなかったわけじゃないけど、楽しかったのかと聞かれたらノーだな……。
いろいろありすぎて疲れたし。
「おにぃは友達できた?なぎちゃん以外で」
「失敬だな、僕だって友達くらいできたよ!ちなみにこいつは友達じゃねーから初めから数に入れなくてよしっ!」
「葉山くんしかいないけどねー!」
「初日に一人できれば充分だろーが!友達なんていっぱいいればいいってもんじゃねーし」
「……友達いな子のおにぃが言う?」
「……うるさいっ、先に帰る」
「あー!いじけたー!あははははっ」
はーんっ、笑え笑え。
友達なんていよーがいまいが、僕はたまきさんがいるからいーのだ!
こんなやつらとは次元の違うかわいさが僕を癒してくれるのだからな。
変な妄想されようが、あの妄想癖がある限り、たまきさんの脳内には僕がいるのだぞ。
いや、待てよ?
僕の脳裏までを知り尽くしている凪沙だからこそ、たまきさんの抱いただのまた抱かせろだのという盛り盛りな誤報が誤解だと分かってもらえてるけど、妹たちの耳に入ったら絶対変態扱いされるに違いないっ!
そそそそれだけはっ、それはまずいっ!
「あのねー、弥ったら先輩に一目惚れしてさー、その人がねー……」
「待て待て待て待てっ!おいこらっ貴様うちの妹に何バラしてんだっ?殺すぞっ」
「えー?弥ってばー、あの先輩と何かあったのー?そんなにあわててさー!」
「……こ、このやろー……、何がしたいんだっ!」
「えー?今日はみのちゃんちでご飯食べたいなー!」
なに?
なにがしたいんだ?
凪沙のことだからバラすつもりはないんだろうが、そのぶりっこスマイルはなんだっ?
僕の弱みを握ってうちに上がり込む作戦か!
「なぎちゃんとご飯っ?やったー!泊まって泊まってー!」
「明日も学校でしょー?今度泊まりに行くねー」
「うんうん!」
うんうんじゃねーよっ!
く、来るなー!
来るなら僕の弱みを捨ててからにしてくれー。
「でもぉ、お母さんがおうちにいる時に、ね」
「なんで?」
「だってさ、お母さんいなかったら、お兄ちゃんがあたしのお風呂覗いたり、お布団入ってきたりしちゃうかもしれないじゃなーい?」
「おいっ!僕がいつそんなことした!バカ言うなっ吹き込むなーっ」
「した、とは言ってないけどー?したら困るなーって話だけどぉ?なんであせってるのかなー?なにかやましいことがあるからかなあ?」
ここここいつーぅ!
まじ殺すっ!
「誰がお前なんかの風呂覗くかっ」
「あ、じゃあお布団入ってくるつもりだー!」
「……バカか、僕にも選ぶ権利があるんだぞっ」
「それであたしを選んだりしたら困るんだけどー!ねー、みのちゃーん」
「おにぃ最低!みんなのなぎちゃんでしょっ!独り占めしようとか変なことしないでよー!」
「しねーよ!稔は僕がそんなことすると思うのかっ!」
「うぅ、うーん……」
「おいこらっ、そんなに悩むことないだろーが!」
「あはははっ、みのちゃん、冗談だよ冗談!お兄ちゃんはそんなことしないよ、ねー弥ぅ?」
「だからしないって……、お前が巻いた種だろーが、まったく……」
「あははははっ、すぐムキになるんだからー!」
完全に遊ばれてるっ。
早く帰って早く寝たいっ。
お部屋に帰りたいーっ!
「なぎちゃん、なに作ってくれんのー?」
「みのちゃんは食べたいものある?もやしとチキン以外で」
「もやしとチキン?なんで?あ、おにぃ本当に先に帰ったー!」
ほっとけ。
凪沙のやつめ、僕をからかっているというより、怒らせたいのか?
思春期の妹に変なこと言おうとしてちょっかい出したり、NGワードを連呼したり、まぁそれは僕も使ったけど、わざと言うことはないだろ!
いつかリベンジしてやるからなー。
「弥ー?食べないのー?」
「いらん」
僕は自分の部屋にいる時だけが至福の一時なのに、凪沙のやつが来ると、妹も弟もうるさくなるから落ち着かん!
妹を出汁にして結局うちで夕飯かよ。
来るなとは言わんから、せめて静かにほっといてくれ。
妹も弟も、小さい頃から凪沙に面倒みてもらってるから懐いてるし、うちの母さんが忙しい分、本当の姉のようにかわいがってくれてる、まぁそれは有り難いんだけどさ……、本当の兄である僕をいじって遊ばれると、兄としての威厳がなくなるからやめてほしいんだよなー。
感謝してるからキツくは言えないけど、ここぞとばかりにやりたい放題されると、さすがにイライラしてくる。
「弥?入るよー?」
「入るな、僕の縄張りに踏み込むな」
「はー、また引きこもりみたいなこと言ってー!入るよー!」
「尋ねておいて勝手に入んなよ!疲れてるんだからほっといてくれ」
「はいはい、思春期の男の子じゃないんだからそんなこと言わないの!」
「言っておくが高校生は思春期だぞ?しかも男の部屋に勝手に入る女はお前くらいだよ!母さんですら勝手には入らん」
「あんたのどこが男なのよ!失礼しちゃうわねー!」
「失礼なのはお前のほうだろーが!お前が僕をどう見ようが、僕は男なんだからなっ!というわけで退場しろ」
「かわいくないわねー!せっかく夕飯持ってきてあげたのにー!」
「いらんと言ったろーが!出てけよ!」
「みのちゃんもひーくんも食べ終わったから、あんたが食べてくれないと片付かないでしょ!」
「んなら、お前が食えばいいだろ」
「あたしはもう食べたもん」
「とにかくいらんから出てけっ」
「なに怒ってんのよー!」
バカではないから分かってるくせに!
わざと聞いてきやがるとこにまた腹が立つ。
心配しているつもりなんだろうが、部屋に入ってくる時点で僕の地雷なのに。
ずぇったい食うもんか。
「いらんから出てけよ、頼むから……」
「……あっそ!せっかく作ってあげたのにー!後で食べたいって言ってもだめだからねーだ!」
ねーだ!じゃねーよ、まったく……。
僕まで子供扱いしやがって。
姉御面もほどほどにしてほしいな。
疲れたからめっちゃ腹減ってるのに、台所に行こうもんなら、もれなく凪沙のどや顔がついてくる。
もー!ムカつくから飯も風呂もどうでもいいからもう寝てしまえっ!
「おにぃ」
そ、その声は!
僕のかわいいかわいい弟ではないか!
「おにぃ、開けるよ?」
「聖ぃー!帰ってたなら顔見せろよー!入っておいでー」
「塾で遅くなった、飯は食ったけど」
「そっかそっか、暗くなる前に帰らないと心配なんだからなー?」
「おにぃじゃあるまいし、てゆかおにぃは心配しすぎ」
「聖が女の子と間違えられて襲われないか心配なんだよー!少しはお兄ちゃんの気持ちも分かってくれよ」
「おにぃだって女と間違われてたくせに、俺のことばっか言うな」
「僕が嫌な思いしたから聖にはそんなことさせたくないんだよー?」
「……飯、持ってきた」
「おー!聖が持ってきてくれたのかー!食べる食べるー!……て、これ、凪沙に持ってけって言われたんだろ!」
「そう」
あーいーつーめー!
汚い手を使いやがってー。
僕が聖に甘いのを利用して持ってよこせたなー!
こんなことに聖をパシリやがって!
「おにぃがいらんと言ったら、食うまでねばれって」
「僕がこれを食べるまで、戻ってくんなって?」
「そう、戻ってきたら宿題見てくれるって」
「しゅ宿題くらいお兄ちゃんか稔が見てあげるからっ!あの凪沙おばちゃんに帰れって言っておいでー!」
「なぎちゃんはおねぇに勉強教えてる」
くそっ、はめやがって!
僕が食べないと聖がかわいそうだしっ、いや、でもこれは逆に聖の宿題を見てやってポイントを稼いでやろう!
「聖、お兄ちゃんが宿題見てあげるから持っておいで?」
「なぎちゃんが持ってる」
「お前の宿題を?」
「そう」
なんてやつだ!
人質を取ったなー。
性悪女め!
そこまでして嫌がらせするか!
「そうだ、聖は先にお風呂入っておいで?お兄ちゃんがお前の宿題を取り返しておくから!」
「おにぃが食べないと俺が心配する」
「ひ、聖ーぃ!お前はなんてかわいいやつなんだー!お兄ちゃんのことを心配してくれるんだねー!」
「て、言えと言われた」
「ん?」
「なぎちゃんに」
「はー?あいつどんだけバカにしてくれるんだ?聖っ、今すぐあのおばちゃんに帰れって言っておいで!」
「泊まるって」
「だめだだめだっ!母さんがいないんだから、僕に権限があるんだぞ!今すぐ追い出してこいっ」
「おにぃと寝ろって」
「なに?」
「なぎちゃんはおねぇと寝るから、俺はおにぃと寝ろって」
なーっ!聖が僕と寝てくれるだとっ!
ち、ちちちちくしょー!
うちの弟をこんなに上手く扱いやがって!
僕でさえこんなに上手く動かしたことないんだぞっ。
「おにぃがだめって言ったら、なぎちゃんが俺と寝るって」
「そそそそんなのっ、絶対だめ!絶対だめ!絶対だめだからな!お前もお前だ聖っ、六年生にもなって凪沙と寝たいって言うのか?」
「それはやだ」
「そーだよなー?僕と寝たいよなー!」
「別にそうじゃないけど」
……あ、心が折れた音がする……。
やつが理解者だと思ってはいるが、時に脳裏をフルに利用してこんだけの裏技をくり出してくる!
見事すぎてムカつくぜっ!
食べたら負けだが、食べなければ聖の宿題が。
追い出そうにも、稔も聖もやつに懐いてるから洗脳されてるし。
やつが泊まるなら聖は僕と寝てくれるし。
もー!食べるしかないじゃないかーっ。
くっそー!
「宿題やらないと寝れないから早く食べて」
「うー、分かったよ……」
しかも僕の嫌いなにんじんと玉ねぎ満載じゃんかよー!
昨日もおとといも、妹たちの手前だからカレー食べたけど、残りのにんじんと玉ねぎをふんだんにいれやがったな!
だが、聖が見ているのに避けて食べるわけにはいかん。
絶対仕返ししてやるー!
「……はい、ごちそうさま」
「食器、返してくる」
「あぁ、ありがとな、宿題はお兄ちゃんが見てあげるから持っておいで?」
「いい」
なーんーでー!
食べたのにー。
がんばったのにー。
どんな餌付けしたらこんな素直な聖が見れるんだよー!
も、もういいっ。
長男を無視して支配するがいいさ。
泣き寝入ってやんよ!
あー、イライラするっ。
「弥ー?入るよー?」
また来やがったな。
入るなと言っても入ってくるなら聞くな。
「ねー、さっきからなんで部屋から出てこないのよ!食器くらい自分で片付けなさいよねー」
鬼ーがいるから行かっれないー、という残酷な遊びが昔あったな。
まさに台所にはどや顔の貴様がいただろうに。
誰が行くかっバカめ。
「お母さんがいない時はちゃんとしなさいよね!あんたがお兄さんなんだから」
妹たちを巻き込んで兄の威厳を薄くしてる張本人が偉そうに。
「聞いてんのー?なにいじけてんのよー、さっさと明日の支度でもしたらー?」
しつこいな。
僕が振り向かない時点で無視されてることくらい分かるだろうよ。
「男らしくないわ、お兄さんらしくないわ、あんた恥ずかしくないのー?あたしあんたのお母さんじゃなくて、単なる女子高生なんだけどー、言われなくてもしっかりしなさいよねー!」
「……それ以上言ったら」
「なに?言ったらなによ」
「それ以上言ったら……、後悔させんぞ」
「はー?これでも言い足りないくらいですけどー?」
絶対黙らせてやる!
男、なめんなよ。
「何度も何度も男の部屋に入ってくるほど僕としたいんならおねだり叶えてやるよ」
「な、なに言ってんの?ばっかじゃない?」
「どっちがバカか、分かるよな?この状況、どっちが不利か」
「はぁ?」
「僕が凪沙を押し倒したくないとでも思ってたのか?」
「そんなの……あんたに限ってないなー」
「へぇ……、僕がふつうの男だって教えてやろうか?こっち来いよ」
「や、やめなさいよねっ、変な芝居っ」
「芝居?弥らしくない、とでも言いたいんだろ?分かってねーなー」
「へ、変なこと言うのやめないと怒るわよ?」
「怒ればいいじゃん、抵抗されたほうが萌えるし……」
「ちょっと……、近寄らないでよ……」
「部屋に入ってきたのは凪沙じゃんか、おとなしくしないと……、痛くするのはいやだから、な?おとなしくしよっか?」
「ちょ……っ、いいかげんに……」
「みんなさ、幼なじみってなにかあるんだろって言ってるけどさ、ないわけないよな?いつでもこんなチャンスあるんだから……」
「え、え?」
「いいんでしょ?僕となら、だからほいほいと入ってきたんだもんな、ベッドの近くまでさぁ」
「違うし……そんなんじゃない、そんなつもりないっ」
「へぇ、そんなつもりないけど僕に押し倒されてもおかしくない状況にしたんだ?あんまり強引にされたくなかったら抵抗しないほうがいいよ、それともベッドにいく前に壁ドンされたいわけ?」
「ね、ねぇ、落ち着こうよ、ね?やめよ?こんなのやめよ?」
「そんな風にしてるとかわいいじゃん、僕にもそんな顔するんだ?」
「ね、ねぇ、弥らしくないよ?やめよ?ね?」
「弥らしく?じゃあ僕らしく襲うってどんな?どんな風に襲われたいんだよ」
「あ、あの、襲うとかじゃなくてさぁ、とりあえず冷静になって、ね?あたしたちそんなんじゃないじゃん?」
「ふーん……、凪沙さぁ、お前が僕になにされたいか、僕が気付いてないとでも思ってた?」
「え、え?」
「お前のお願い……、叶えてあげるって言ってんだよ」
「ち、違うっ、こんなんじゃなくて……」
「じゃあ、どんな?」
「こんなの……、こんなの弥じゃないっ、あたしは……」
「あたしは、なに?」
「その……、そんな、弥がこんな強引にするとか思ってなくて……」
「あぁ、凪沙の中の僕は強引にじゃなくて、ちゃんと同意の上でしてくれると思ってたんだ?」
「だから、こんなんじゃなくて……うぅっ」
「……泣くなよ、バーカ」
「うっうぅー……」
「なんもしねーよ、バカ」
「わ、わた……んうぅー」
「しないってば、バカだなぁ……」
「うっうぃ……んくっ、だ、だって……わたるが……うぅ」
「……はぁ、ったく、凪沙が思ってるようなことはしないよ、しない」
「……ほんと?」
「それに、凪沙が描いてたようなことも、……僕はしない、できない、んーと、したくない、が正しいかな」
「わたるぅ……」
「凪沙のことをそういう対象にできないんじゃなくて、そういう対象にしたくないだけだよ、なのにこんなことして悪かったよな、ごめん……」
「試したの?……あたしのこと」
「え、いやー……、別に試したわけじゃないんだけど、んーと……、んまぁ結果的にそんな感じになったっていうか、……殴っていいよ」
「じゃあ、知らないでこんなことしたの?」
「あー、うん、まぁ知らなかったけど、知ってたふりしてたっていうか……だから、ごめん」
「……許さない」
「うん……、だから、ごめん」
「許さない!」
「あ、うん、好きなだけ殴りなよ」
「殴るけど許さない!」
「えぇっ、……うん、気がすむならな」
「許さないからー!うぅぁーん!」
「分かったから、分かったからもう泣くなよー、……僕も泣きたいけどな」
「……なんであんたが泣くのよっ」
「……はぁ、お互い、いじめはなしにしような?」
僕をいじめてた仕返しに……と思ってしたことが、まさかの事実発覚!なわけで……。
いじめもいじめ返すのも、後に残るのはやるせない現実なだけだ。
はー、なにやってんだかなぁ。




