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「姉ちゃーん!友達連れてきたんだけどー」
おい、こらっ。
僕を無視するなっ。
ここに観客がいるのですよー?
会いたいけど、話したいけど、でもでもっ。
やっぱり聴いていたい!
「歌ってて聞こえないんだなー」
「いや、いいよ……、気持ちよく歌ってるじゃないか」
「歌と美少年、どっちが大事だよー!あはは」
あはは、じゃねーよっ。
歌だろ、どう考えても歌が好きとしか思えないだろっ。
だいたい、比べる対象がおかしいだろーが。
「姉ちゃーん?入るよー?」
入るなー!
弟は姉の部屋には入らないもんだろ?
うちの弟ですら入らないぞ?
やっぱりおかしいよ葉山くん、君はおかしいって!
「あれ?しゅーちゃん、おかえりー」
は……。
え、えええ……。
ほ・ん・も・の?
「友達連れてきたんだって言ったんだけど、聞こえてなかったでしょー?」
「あ、そうなんだ?気付かなかったぁ、ごめんごめん」
か、かわえぇ……。
笑ってるよ。
弟相手に笑ってるよ。
誰にでもその笑顔、見せるんだな……。
当たり前か。
なに言ってんだ……。
「同じクラスになった芹沢弥くんと……」
「あ!さっきの!」
え、え……?
覚えて、た?
まじかよ。
「姉ちゃん、芹沢くんのこと知ってるの?」
「うん、さっき学校で、ねー?」
「は……はい、覚えてて……くれたんですか……?」
「忘れるわけないじゃーん!こんな美少年っ」
う、うそーん。
やばい、すでに心臓が激しすぎて一生分の鼓動を打ってるんじゃないかってくらいバクバクなんだけどっ。
むしろ、止まるくらいびっくりなんだけど……。
葉山弟のおっしゃるとおり、お姉さんは美少年好きなのか!
「芹沢くんて名前なんだ?下の名前は?」
「……わ、わたる……です」
「そっかぁ、じゃあ弥くんね!」
あれ、この展開?
僕の妄想通りですか!
いやいや、待て、それはないない。
「あたしのことも名前で呼んで?たまきって」
「え、えっとぉ……それはちょっと、いや、そうじゃなくてっ」
「かわいいーっ!照れてるー!」
かかかかわいい?
かわいいのはあなたですよ、たまきさん!
って、どさくさに紛れても言えるかっ!
「姉ちゃん、あんまりいじんないであげてよねー、緊張してるじゃんか、ねぇ弥?」
どさくさに紛れてお前が僕を呼び捨てにするな、葉山弟め。
だがしかし、珍しく、いや初めてか?僕の空気を察してくれてるぞ。
「だってさー、すんごいかわいいんだもんっ、攻めたくなるでしょ?」
「姉ちゃんの悪いくせが始まったよー、ごめんな、弥ぅ」
せせせせせ?
なんだって?
何?
え、何?
「しゅーちゃん、弥くん借りていい?いろいろ聞きたいなー!」
「だめだよ!またよからぬことしようとしてるでしょっ」
「ふつうよ、ふつうー、ね?弥くんっ」
よからぬこと?
ふつう?
そ、それって?
誘われてんのか?
明らかに誘われてんだろこれーっ!
しまった……。
こんな転回は予想以上がゆえ、心の準備も下着の準備もできてないっ!
下着はともかく、心の準備が。
いやいや、準備できてたとしても何をすればっ?
い、今更になって、いや、初めて身長が伸びたことを悔やむぜ。
チビキャラのままだったら無知なことをごまかせたかもしれないのに!
僕のピュアな心が、こんなところで逆効果とはー!
誰かヘルプミーっ。
「お姉さん、おじゃましてます、クラスメイトの香田凪沙です」
な、凪沙ー!
ごめん、あまりの急展開にお前の存在を忘れていたが、さすが僕の救世主っ。
僕のピンチをいつも救ってくれるヒーロー!
ヒーローだかヒロインだか、どっちでもいいけど、痛いほど僕の心中を察してくれる力は無駄じゃないぜ。
「あ!こっちにはかわいい女の子だー!凪沙ちゃんね?よろしくねっ」
さすが空気の読める女は違うな。
一瞬にして僕から目をそらさせたぞ。
やっぱり頼りになるじゃないか!
連れてきて正解だったー。
あぁ、油断してちゃだめだ。
えっと、よからぬこと……、ふつうのこと……。
だめだっ、どうしても、それはさすがに今日の今日ではちょっとだめだろっ。
健全な男子が一目惚れの先輩の誘いにのるのはどうなんだ?
違うかな?
健全な男子だからこそ、ここは有り難くお誘いに乗るべきなのか?
わ、分からんっ!
「凪沙ちゃんは弥くんのこと好きなのー?」
「あ、俺もそれ気になるー」
おいおいおい、ここにきてそっちに行くのか!
何で急にそっちにぶっこんでくるんだ葉山家っ。
一目惚れの先輩の前で、凪沙とは何もありません、僕が好きなのはたまきさんです、……とか言えねーだろーがー!
「弥とは幼なじみなだけで、それ以上もそれ以下もないですよ」
「えー?幼なじみってもっとドラマがあるのかと思ったんだけどなー……、弥くんは?違うんだよね?」
「あ、あぁ、はい……違います」
「そっかそっかー、よかったよかった!」
よかった?
とは、つまり?
僕がフリーなことが、よかった、と解釈してよいのですか?
え、もう、これはその……、僕に草を食べろと、食べてくれとおっしゃってますよね、そうですよね。
草どころか肉を食えと、草食は卒業しろと!
いや、落ち着け、考えろ、冷静になれ弥。
ここでフライングしたらもう後には戻れないよな。
本当にお姉さんは、いや、たまきさんは、僕を誘ってると思うか?
「ね、幼なじみな二人が何もないなら、弥くん借りてもいいよね?」
「姉ちゃんってば!やめなよっ」
「しゅーちゃんは理解ないなー、もっと大人になりなさい!」
謎すぎる押し問答が繰り広げられてる前で呆然と立ち尽くす僕と凪沙。
これ、僕は何て言うべきなの?
口出すの?
たまきさん、僕は……っ!とか言うの?
これ、これは男になるべき?
ここで引いたら次はないかもだし、断ったら女性を傷つけることになるんだよな?
え、じゃ、じゃあ、僕は進むしかないよね?
僕の初恋の人が僕を求めてるんだぜ?
断るわけにはいかん!
……いや、でもでもっ。
「……弥」
「え」
「腹、くくったら?」
な、凪沙さん?
何をおっしゃるんですか?
僕に大人になれと、男になれと?
「いやぁ……、それは……」
「ほら!凪沙ちゃんも応援してくれてるよ!聞いた?しゅーちゃん!」
「あー、香田さん、誤解しないでね?姉ちゃんは……」
「だって、止める必要ないじゃない、弥は……ねえ?ちゃんと言えば?」
「いや、だって、初対面だしさぁ……、ちゃんと言えと言われても……」
「何?あたしに言いたいことあるの?だったら何も遠慮することないじゃん、ね!」
「しょうがないなぁ、姉ちゃんあんまり刺激するなよ?弥、悪いけど少し付き合ってやってくれる?」
「は……、はい」
ここぞという時に何を後込みしているのだ。
僕はチキンじゃない、チキンじゃ。
「じゃ、終わったらしゅーちゃんの部屋行くねー!くれぐれも盗み聞きしないでねっ」
分かった分かったと奥に行く葉山弟と、明らかに軽蔑した目の凪沙。
そして僕は禁断の部屋へと招かれるのであった。
これでよかったのかと考えても、時間は止まってくれないし、たまきさんの部屋へと入ってしまった以上、なるようにしかならんのだ。
女の人の部屋にいるというだけで、ものすごくいけないことをしている気分な僕、ガキなんだなぁ。
凪沙の部屋なんかなんとも思わないけど、年上の人っていうフレーズも危険な香りがしてそわそわする。
「じゃ、ここ座って?」
「は、はい」
す、すごい近いんですけどっ。
終始キラキラ笑顔が眩しいんですけどっ。
めっちゃ真剣に見られてるんですけどーっ!
ど、どうしよう、どうしたらいい?
鼻血出てくれたら会話のきっかけになるかもしれなくないか?
出てくれればいいのに、いざとなると出ないのかよ!
心臓の音、聞こえてないかな、うぅっ。
「弥くん」
「は、はい」
「本当に綺麗な顔してるね」
「え、や、あー、そんなこと……ないです」
「ううん、そんなことあるよ!もっと自覚したほうがいいよ!」
「……そうですか?」
「もちろん!もっと意識したらモテるよ、うん!あたしの目に狂いはないもん!」
めっちゃ自信満々なんだけど、その自信はいずこから?
不思議だけど、楽しそうにしてるから、いっか。
「ところでさ、いきなり本題に入ってもいいかな?」
「本題……ですか?」
まじかよ!
まだ部屋に入って座ったばっかだぞーっ。
でもでも、目がめっちゃ真剣だし、キラキラでニコニコだし。
わーっ、目合わせられないっ!
「あ、目そらしたな?」
「いやいやいやいや、そんなつもりじゃないんですよ?」
「さては、さっそく聞かせてくれるのかな?それともごまかしちゃうつもりなのかなー?」
「いやいや、違います!そんなんじゃないんですけど……やっぱりこういうのって……何て言ったらいいか分かんなくて……、すんません」
「そっか、男の子からは言い出しにくいことだよね、うんうん」
「あ、だからって、……その、女性からってのも聞きにくいだろうし……」
「そんなことないよ!」
「え、でもこういうのって、やっぱりこっちから言うべきですよね?とか聞いてる時点でアウトですよね、すんません」
「あたしはその辺の女の子じゃないからね!きっぱり言っちゃうよ!いい?」
「えええ、や、やっぱり待ってください!その……僕初めてなんで、もうちょっと、時間もらって……いいですか?」
我ながら情けない醜態だ。
言い掛けてることを止めるなんて羞恥プレイだよな。
「分かった、じらすのね?じらしが好きなのね?」
「あー、だからっ、違います違いますって」
「分かった分かった、あたしもあせりすぎたかな、ごめんごめん」
「いやいやいや、自分が積極的じゃないのが悪いんで……謝らないでください」
「そうだね、積極的じゃないんだね……がっかりぃ」
なんかしょんぼりさせてるし。
そんな顔もかわいいんだけど、臆病者なのを許してください。
「隣、行っていい?ていうか行くね!うん、最初からそうすればよかったー!」
「ちょちょちょちょっ!落ち着いてくださいっ」
どちらかと言えば落ち着いていないのは僕だけどね。
「だめ?隣に行ったほうがしゅーちゃんたちに聞こえないからいいかなと思ったんだけどなぁ」
「そんな大きい声は出しませんからっ」
「あたしが出しちゃうかもしれないもん、ていうか出ちゃうのは仕方ないじゃん!女の子ってそんなものでしょ?」
「あぁ、……すんません勉強不足で」
「大丈夫っ、大丈夫だよ!女の子なんて分かんなくて当然だもんね!」
ものすごく言いづらいことをズバズバ言えるんだな……、やっぱ僕チキン決定でお願いします。
ていうか、そのキラキラビームはやめてくださいっ。
そんな笑顔で期待されても困るよー!
うぅっ、やっぱ無理かもー。
逃げていい?逃げていい?
僕の部屋が帰ってきてと呼んでるよぅーっ。
「あ、そうだよね!あたしなんかが隣に来てほしくないよね!女の子に免疫ないんだもんね!ごめんごめん」
「ちがっ……あー、はい……免疫ないのは事実かもです」
「もったいないよねぇ……、こんな美少年なのに」
「あぁー、そんなんじゃなくて、僕が今まで疎かったというか……縁もなかったし」
「縁は大事にしなきゃだよね、うん!出会ったのは運命なんだよ、きっとそう!」
「……その、僕も運命だと思ってました……でも、こういうのってやっぱり時間も大切だと思うし……」
「時間なんて関係ないよ!そんなの、そんなの、ガバーっていっちゃったもん勝ちでしょ!お姉さんが言うんだから、保証する!だって、運命なんでしょ?ビビッてなったでしょ!」
「ビビッは確かにありましたけど、……初めて会った日に……」
「ガバーっだよ!倒したもん勝ちだよ!」
「いやぁ……ガバーはないですよ、僕に限って」
「分かった!そうだよね!言いづらいことを言わせてたね、ごめん!」
「あ、いや、そんなことないんですけど……、たまきさん、さっきから声大きいですよ……」
「はっ!そうね、そうだよ、聞かれちゃうもんね!やっぱ隣行くね!」
待ってー!て聞いてないっ!
近い近い近いっ!
なんかいい香りするし、じっと見てるし、振り向けないしっ!
「じゃあ、小声にするね……」
「うぅっ、耳元でささやかないでくださいっ」
やばい、もうこれは振り向いたら負けだっ!
めっちゃ鳥肌立ってきたし、めっちゃ体熱いんですけどーっ!
「ガバー、されるより、されたいんだ?」
「……え」
「襲われたいんでしょ?」
「はっ?いやいやいやいやいやいやっ、待ってくださいっ!それも違いますって!僕は……」
「僕は?」
「僕は……」
「僕は?」
「……だって、まだ告白すらしてないのに、そんなことできないですよ、すんません」
もう合わせる顔なんてなくて、ただ床に頭をつけて謝った。
こんなことしかできない。
どんな顔されてるんだろうかなんて想像もできないし、知りたくもないかも……。
「そっか、そうだよね」
「本当にすみません!」
「謝ることなんかないよ!正直でいいじゃない!」
「許して……もらえるんですか?」
「もちろん!じゃあ、しゅーちゃんの部屋行こっか!」
「いや、その前にちゃんと言わせてください」
「そうよね、凪沙ちゃんがいたら恥ずかしいもんね!」
「いや、あの二人は知ってるんで……、恥ずかしいのは恥ずかしいけど、でもふつうは外野がいないとこで告白するじゃないですか」
「あ!そう、そうだよね!ふつうは二人きりよね、ごめん!あたしも鈍感だなぁ……、で、しゅーちゃんは知ってはいるんだ?」
「うーん、まぁ……」
「なんだー!じゃあ後はちゃんと付き合ってくださいっ!て言うだけなのね!」
「……はい」
うわぁ、こんな流れで告白するなんてー!
でもでも、ちゃんと告白すれば……、この感触ならいけるのかも?
いけるかも?
「あの、たまきさん……」
「うん!じゃあ連れてくるね!そしてあたしは退散するから!がんばれー!」
「え、行っちゃうんですか?」
「うん、だって二人きりがいいでしょ?」
「はい、だから……」
「お姉さんがちゃんと交際許すからね!」
「え……」
「弥くんみたいな美少年なら、うちのかわいいしゅーちゃんを任せられるって!」
「え?」
「あぁ、ついにうちのかわいい弟にも彼氏ができるんだー!きゃー!隣の部屋で美少年といちゃいちゃしてるのかと想像すると……もうっもうっ!弥くんたらーっ!萌えちゃうじゃなーい!やだー!」
「……は、はいー?」
「ちゃんと言っておくからね、弥くんは攻めより受けがいいみたいって!きゃーっ!でもでも、そういうことは、ちゃんと自分から見つめて言うんだぞ?僕、秀助に食べられたいんだ……とかさーっ!やだー!それってある意味大胆発言よね!誘ってるよねー!」
こ、言葉が出ない……。
な、ななななんですか?
なんだよこれぇぇぇぇっ!
え、え?
ちょっと、え、え?
これって、これって、そういうこと?
つまり、僕は……たまきさんの脳内変換により、葉山弟のことが好きだった、という?
僕がたまきさんに告白しようともじもじしていたのも、葉山弟に告白するのをためらってたから、お姉さんが背中押してやんよ!的な?
部屋に招かれたのも、僕から弟への気持ちを吐き出させようと?
女の子は声出ちゃうものよ、ってこれかよー!
「待っててね、今連れてくるからっ!」
まじかよ……。
僕の初恋って……。




