↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
厨二少女に振り回される毎日が気づけば俺の青春になっていた  作者: あすあす


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/19

十九話 真夏の夜風に誘われて

 朝から蝉の声が、途切れることなく窓の外から聞こえていた。


 春斗は布団の中でしばらく目を閉じたまま、その声を聞いていた。


 起きなければならない理由はない。


 学校もない。


 授業もない。


 急いで家を出る必要もない。


 それでも、今日はいつもより少しだけ早く目が覚めていた。


「……暑い」


 薄い掛け布団を押しのけ、上半身を起こす。


 カーテンを開けると、眩しい光が部屋へ流れ込んできた。


 空は青く、雲もほとんどない。


 夏休みらしい、と言えば夏休みらしい空だった。


 春斗は窓を少し開ける。


 しかし、入ってきたのは涼しい風ではなく、朝から熱を含んだ空気だった。


「……閉めよう」


 数秒で窓を閉める。


 机の上に置いていたスマートフォンを手に取る。


 画面には、いくつかの通知。


 その中に、見覚えのある名前があった。


『本日、我々の夏季最大作戦を決行する!』

「……朝からかよ」


 メッセージを開く。


——————————


集合時間を忘れるな!


わかってるよ〜


了解です。


我々は、祭りという名の伝説の夜を全力で楽しむのだ!


——————————

 

 いつも通りの雰囲気。


 それでも、口元がほんの少し緩んだ。


『ゆいは集合時間にちゃんとこいよ』


 一言メッセージアプリに入れる。


 そう、今日は夏祭り。


 この前、放課後に四人で話していたものだ。


 学校で顔を合わせるわけでもないし、先生に予定を決められているわけでもない。


 それでも、今日は四人で会う。


 春斗はそのことを、以前ほど不思議には思わなくなっていた。


 ◇◆◇


 夕方。


 昼間の暑さが嘘のように消え、磯の香りと共に海風がやってくる。


 海沿いへ向かう道には、前に来た時より多くの人が歩いている。


 浴衣姿の子ども。


 手を繋いだ親子。


 友達同士で騒ぐ高校生。


 遠くから聞こえる祭囃子。


 その音が近づくにつれて、街全体が少しずつ普段とは違う顔を見せ始めていた。


 春斗は集合場所へ向かう。


 すると、先に来ていた柊一が目に入った。


「早いな」

「春斗さんもですよ」


 柊一はメガネを上げて、手にしていた本を閉じる。


「何読んでたんだ?」

「この前会った時に買った時の物です。主人公の心情がリアルに書かれていて……」


 二人でそんな話をしていると――


「おーい!」


 遠くから声が飛んできた。


 その声に春斗が顔を上げる。


 ゆいと茜がこちらへ歩いてくる。


「ごめん、待った?」

「待たせたな、我が仲間たちよ!」


 茜が二人の前で足を止める。


「いいえ。今来たところです」


 ゆいと茜は浴衣を着ていた。

 

 普段のゆいは、独特な言葉遣いも含めて、どこかアホの子のような雰囲気を漂っているが、今日は、浴衣というだけで少し印象が違った。


 茜も髪をいつもより丁寧に整えていて、歩くたびに浴衣の袖が小さく揺れる。


 そんな二人が並んで歩いてくる姿は、いつもの教室で見るものとは少し違っていた。


「二人とも浴衣、似合ってるぞ」

「そうですね」


 ゆいが誇らしそうに鼻を鳴らす。


「茜が選んだから、そうに決まってるぞ!」

「そ……そう?」


 茜も少し照れたように笑う。


 それから四人は、祭りの会場へ向かって歩き始めた。


 ◇◆◇


 海沿いの道に入る。


 提灯が等間隔に並び、風が吹くたびに小さく揺れている。


 屋台からは焼きそばのソースが焼ける匂いが漂い、甘いものを扱う店からは砂糖や果物の香りが混ざって流れてくる。


 人の声。


 笑い声。


 祭囃子。


 足音。


 普段なら静かな海沿いが、今日はまるで別の場所になっていた。


「すごーーい!」


 茜が辺りを見渡す。


 目の前を歩く子どもが、ヨーヨーとわたあめを持って駆けてゆく。


 少し先では、浴衣姿の女性が友人と写真を撮っている。


 海の方から吹いてくる風はまだ少し暑かったが、それでも昼間よりは過ごしやすい。


「こういうの、久しぶりだな」

「祭りがですか?」

「あぁ、」


 春斗は見上げる。紐で一定間隔に吊るされた提灯の暖かな光が人々を照らす。


「学校にいると毎日同じような感じだからさ。こういうところに来ると、ちゃんと夏休みなんだなって思っちゃうの」


「……確かに」


 茜が見渡す。春斗もつられて周囲を見る。


 確かに、今日は学校とはまったく違う。


 誰も制服を着ていない。


 先生もいない。


 時間割もない。


 ただ四人で歩いている。


「まずは食べ物だ!」


 ゆいが宣言した。


「やっぱりそこなんだ」


 茜が笑う。


「当然だ! 祭りとはすなわち食の祭典!」

「さっきから食べることしか考えてないよね」

「茜、何を言う! 祭りには食だけではなく――」


 ゆいが周囲を見渡す。


「……食!」

「結局食じゃん」


 茜が吹き出す。


 春斗も思わず笑った。


 柊一まで肩を揺らしている。


 ◇◆◇

 その後は四人は屋台を回った。


 射的では、ゆいが景品を取ろうとして何度も外し。


「あと少しだった!」

「擦りもしなかったぞ」

「なら春斗、やってみろ!」

「なんで」

「我の無念を晴らせ!」


 結局、春斗が一発で景品を落とした。


「おお!」


 茜が思わず声を上げる。


「すごい!」

「……たまたまだよ」

「春斗、今のは格好よかったですよ」


 柊一まで言う。


「そうか?」

「そうだよ」


 茜が笑う。


「ゆいちゃんのために取ったみたいだった」

「違う」

「えー?」

「本当に違う」

「でも、ゆいちゃん嬉しそう」

「……!」


 春斗が見る。


 景品を抱えたゆいが、満足そうに笑っていた。


「ふふん。これが我が支援の力……」

「だから俺が取ったんだろ」

「細かいことは気にするな!」


 ◇◆◇


 時間が経つにつれて、空はすっかり暗くなっていた。


 

 海の向こうには夜の闇が広がり、提灯の明かりがより鮮やかに見える。


 そして人の数も、さらに増えていた。


「結構混んできましたね」


 柊一が周囲を見渡す。


「そうだな」


 先ほどまでは四人で並んで歩けていたのに、今では前から来る人を避けるたびに、少しずつ距離が開いてしまう。


「はぐれないようにした方がいいかもね」

「我々は四人一つの部隊!」


 ゆいが胸を張る。


「この程度の人混みで分断されることなど――」

「ゆい!」


 春斗が呼ぶ。


「なんだ?」

「前」

「……」


 目の前から、人が歩いてくる。


「わっ」


 ゆいが慌てて横へ避ける。


「危ないな」

「今のは敵の奇襲だ!」

「ただの人だよ」


 茜が二人を見て笑う。


「二人とも、迷子にならないでよ?」

「我が迷子になるなど――」

「ゆいちゃんが一番危ないと思うけど」


 そんなやり取りをしながら、四人は歩いていく。

 

 一人。


 二人。


 三人。


 次々と人が通り過ぎていく。


 人の流れが少しおさまった時、一人だけ少ない。


「ゆい!」

「なんだ!?」


 春斗は三人を見る。


 ゆい。柊一。そして――


 茜がいない。


 小さくて一番はぐれてもおかしそうなゆいはすぐ隣にいる。


 柊一は人混みより頭一つ分身長が高くてはぐれる訳はない。


 春斗とは目の前の柊一と目が合いアイコンタクトをする。


 一人いない事実を柊一も理解したらしい。


「柊一。ゆいと一緒に花火を見る場所取りをしといてくれ」

「茜がいないぞ!」


 ゆいが周囲をぶんぶんと周囲を見渡す。


「そう。だから、探しに行ってくる」

「それなら我も……」

「ダメだ。小さくて、運動神経が悪くて、体力もないゆいが来たらゆいまで迷子になる」


 春斗の言葉の一つ一つが矢印となってゆいをグサグサと刺す。


「それじゃあ、柊一。頼んだぞ」

「はい。迷子にしないようにしっかり見ておきます」

「我はそう簡単には迷子にならん!」


 ゆいと柊一と分かれて、春斗は人混みと祭り囃子の中に消えて行った。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。