Epilogue✤アカツキ
窓辺で暁の空を眺めていると、赤い太陽があの日見た月のようだと思った。
もうあんなことは二度と起こらないはずだけれど。
すると、肩に上着をかけられた。そのまま背後から抱すくめられる。
「眠れなかった? でも、そんな薄着でいると風邪をひくから」
さっきまでスヤスヤとベッドで眠っていたはずの夫が目を覚ましていた。
「ごめんなさい、起こした?」
振り向かずに尋ねる。
「隣にミシェルがいないと眠れない」
「今にそんなこと言っていられなくなるんだから。わかっている?」
「うん、楽しみなのと怖いのと両方」
夫の手が下へ下りていき、私の膨らんだお腹をそっと擦る。内側から、何か伝えたいことがあるかのような小さな動きがある。
「名前、女の子だったらあなたがつけて、男の子だったら私がつけるって約束よね」
すると、夫は小さく唸った。
「男の子だって気しかしない」
「私も」
その場合、名前はひとつしかない。
私がこの子に名前を授ける。
それは契約ではないけれど、元気に育ってほしいという願いだ。
あの世界のことは全部夢だったような気分にもなるけれど、あの世界がなければ私たちの絆がこれほど強固にはならなかったと思う。あの世界に行ったからこそ和解し、互いを必要とした。
これだけは本当のことだ。
兄様はあれから、もう青い満月に願って世界を造るようなことはしなかった。
けれど、紙の上に世界を築き上げている。
物語を紡ぎ、ここではない別の世界を創る喜びに目覚めたのだ。
貴族の収入の得方として相応しくないと非難を浴びることもある。
それでも、兄様は胸を張って言う。
『これが僕という人間なんです。誰に何を言われようと、僕は僕を誇って生きています』
あの絵本はどこに仕舞われただろうか。
私もこの子に読んであげるべきだろうか。
その昔、月は赤かったのだと――。
【 The end 】




