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弱音



次の日も次の日もまた愛子からの着信は少なかった。

確かにまたハワイに戻ってしまうということで友達も会いたい気持ちも分かるし、愛子が皆に好かれていることも分かる。

だけど俺は彼氏でさびしがり屋な訳で少しくらい電話がしたいのが本音だ。

俺から電話をかけても愛子はだいたい外に友達といる為、極力長電話はできない。

しかし夜も遅くまで出かけているし、何より心配だったのは愛子はもの凄くお酒が弱いところだった。

一度ハワイで一緒にいる時、愛子はベロベロに酔っぱらってしまいクラブから追い出されてしまったときがあったくらいなんだ。

だから愛子が遅くにバーに行ってたりすると、すこぶる機嫌が悪くなってしまった。


そしてある朝、寝ている愛子を起こすように電話をかけた。

7回程かけたが愛子は出ない。

連日続きの外出で疲れているようだが、もう日本は10時は過ぎてる。

携帯の音量だって大きいはずだし、本当に最近電話に出る回数が減った。

俺はワイキキの街に出て、仕事をしながらも愛子に対する不信感にイライラしていた。

それから1時間程経った頃、愛子から着信が入った。

愛子は起きたての声で話した。


「おはよう、ジェイソン。」


「おはよう。昨日は飲んだの?」


「飲んでないわ。早く帰ったもの。」


「嘘つき!

 夜中の2時くらいに着信は言ってたじゃないか!」


俺は愛子が出かけると、家についた合図として着信を入れてもらうようにしていた。

昨夜愛子かたの着信が入っていたのはハワイ時間で朝の7時、日本時間では夜中の2時って訳だ。


「帰ったのは1時前よ。

 ただお風呂に入ったりしてて、ベットに入る前に着信をいれたの。」


「嘘だね。」


「はぁ。嘘じゃないわ。」


「嘘だ!正直に言ってよ!」


もう愛子の溜息しか聞こえない。

だって俺は・・・不安だったんだ。

今思えばかなり子供で、電話をするたびに愛子に嫌な思いをさせてしまったのかもしれない。

ただ連日続きの外出と極度に減った着信に不信感は止まらなかった。


「どこに行ったの!?」


「ビリヤードよ。あとカジノが新しく導入されて友達が初めてだからって

 挑戦したの。」


「ふぅん。パーティーだね。」


「パーティーじゃないわ。

 ただのビリヤード場よ。」


「言い換えないでしょ!

 そんなのパーティーだ!」


ここはアメリカと日本との違い。

後で知ったことだが、日本にはカラオケだけをするカラオケ屋さんがあるという。

俺達のカラオケと言ったらバーで皆の前で大勢でカラオケするということで、この時も俺はビリヤードにカジノと言ったらクラブの中かバーの中だと思ってしまったのだ。

そして愛子は俺を怒らせないようにパーティーじゃないって言ったと思ったし、俺達にとってはこうやって友達と夜飲みに行ってビリヤードしたりカジノをしたりすることをパーティーと呼ぶ為、よけに俺の気分を害した。

俺達は一度電話を切り、少し経ってからまた電話をかけると今度は普段通りの愛子の優しい声が聞こえた。


「ジェイジェイ?」


愛子はたまに俺をこう呼ぶ。俺は彼女が俺のニックネームを作ったり呼んだりしてくれることが可愛くて仕方がなかった。

まだいい気分ではなかったが、こう呼ばれると仕事中でも顔が緩んだ。


「元気?」


「ええ。あなたは?」


「うん。今元気になった。」


まるで子供だ。

愛子は笑いながら「可愛い」っと言って俺をなだめた。


最近の俺達は喧嘩をたくさんしたせいもあるが心の距離がだいぶ縮まったようで、どんなに喧嘩をしても仲直りに時間はかからなかった。

この時は俺達の相性がいいんだ、なんて思ってたけどこうやって思い返してみると愛子が一歩大人になって俺に接してくれていたことがよく分かる。


「あと3日だね。もう待てないよ!」


「私も。

 あっ、今日ね、これからおばあちゃんちに行くから帰り遅くなるね。」


「何時くらい?」


「うーん、確かじゃないけど多分日本時間で7時くらいかな?」


「じゃあ12時くらいだね。

 家着いたら連絡して。」


「オッケー。」


今日は久しぶりに10分は話せたぞ!なんてことで元気になる俺。

俺はそのまま仕事を続け、いつもと変わらずバーにいた。あっ、言っておくけどお酒は本当に2杯くらいしか飲んでないんだ。

お酒に頼らなくてもこんなに楽しめるし、愛子と喧嘩にもならないし、何より朝起きるのが爽快だからね。

そして夜中の12時を過ぎたころ愛子から着信があった。


「ベイビー!」


俺は飛びつくように電話に出た。


「ジェイソン。今忙しい?」


「ううん。今から帰るとこだよ。」


「話したいことがあるの。」


どきっと俺の心が鳴った。


「どうしたの?」


冷静を装い片手に持ってたビールを飲みほし、外へ出た。

真剣な話?まさか別れ話?

そんなことをもやもやと考えていると電話越しから鼻をすする音が聞こえだした。

愛子が泣いたのだ。


「どうしたの!?何かあったの!?」


「実はここ最近、ずっと考えていたことがあるの。

 強い女でいたくて、あなたに言わなかったんだけど私の心がもう受け入れない

 くらいの事があったの。」


「うん。大丈夫。何でも話してよ。」


愛子は涙声で話した。

時々声に出して泣きだしたりしたがゆっくりと俺に話し始めた。


「私には大切な人がたくさんいるの。

 家族や友達、みんな私を愛しえくれてるし、私もみんなを愛してるの。

 ただ私は離れる。それはあなたと言う大切な人と一緒にいたいから。

 だけど皆が私をこんなにも必要としてくれたことに気づいて心がいっぱい

 になったの。

 ここ最近毎晩泣いたわ。

 何かを得ようとするとき、何かを諦めなければならないって知ったの。

 あなたといたい、だけど皆ともいたい。

 わがままかもしれない。

 あなたに言うべきじゃないって思って言わなかったんだけど、今日、

 おばあちゃんちに行ったじゃない。

 そこで言われたの。

 次会う時には生きてないかもよって。

 そうしたら心が破裂しそうで・・・怖いの。」


愛子は泣いた。声をあげて泣いた。


「愛子、分かるよ。

 俺も母さんが癌になったって聞いた時、死がすごく怖かった。

 今すぐ本土に戻ろうと思ったけど、君といたいって気持ちもあって葛藤が

 あったんだ。

 だけど、大丈夫。

 全てうまくいくから。」


「私が泣くと嫌な気持ちにならない?」


「なる訳ないだろう。むしろ嬉しいよ。」


「よかった・・・。強い女でいたかったから、ただナイーブになって泣いて

 困らせたくなかったの。」


「何も気取る必要なんてないんだよ。

 愛子は愛子なんだから。」


「でも私は決して良い娘じゃないわ。

 もっと親孝行やおばあちゃん孝行をしてあげたいのに、私は・・・。」


愛子の中でいろいろと葛藤があったようだ。ここ最近夜に連絡つかなかったのはただ友達と遊んでいたからではなく、毎晩一人で泣いていたんだと気づいた。

愛子は決して泣かない。何度か見たことはあるがそれは俺と大喧嘩したりとか俺が泣いたときに一緒に泣いたくらいだ。

弱音や自分のことを話すことを嫌がる女だから、俺は余計に嬉しかった。


「愛子はいい子だよ。頭だっていいよ。」


「そんなことないわ。

 英語が話せても資格もスキルも何もない。これじゃダメよ。」


「俺が助けるよ。

 愛子が分からないところは俺が教えるから。」


愛子は鼻をすすりながら「ありがとう」と何度も言った。

愛子が戻ってくるまであと3日。

彼女の弱いところが見え、俺の中で絶対に一生守ってやるんだって気持ちが高くなった。もう絶対俺達が離れることはないだろうし、愛子のすべてを受け入れるって決めたんだ。


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