子供な俺と大人な彼女
愛子から電話が来ない。
電話をしていいものか、いやいや俺も男なんだから女にすがっちゃいけない。なんて小さなプライドが俺を邪魔していた。
どれくらい待ったのだろうか、仕事にも力が入らず心ここにあらずの時だった、俺の携帯が鳴った。
愛子だ。
「もしもし。どうしたの?」
つい機嫌が悪くて冷たい口調になった。
「何それ。話したくないなら切るよ。」
愛子も同じく冷たい口調だ。
どうして俺は素直になれないのだろう。昨日のことを一言謝ればいいだけのことなのに、アメリカではごめんなさいは負けた証拠なんだ。
だからか俺の中で意地を張ってしまっていた。
それと同時に俺を守る考えすら浮かんでしまう始末だ。だって俺は昨日の質問のときに「あなたが好きだから結婚したいのよ。」って愛子から聞きたかっただけなんだ。
そんな子供の心が俺の中から消えなかった。
「俺忙しいから、また後でかけて。」
「後でっていつ?」
「後で。」
こんな会話初めてだった。
俺は昼間もやってバーの裏手でタバコを吹かしながら冷たく言った。
愛子には周りにいた奴らの声も聞こえていたに違いない。俺は決して嘘を言った訳じゃないが、確かにそんなに忙しかったわけでもなかった。
そのまま愛子の機嫌をまた損ね、俺達は気まずい雰囲気のままその日を過ごした。
そして次の日、俺は罪悪感で心がいっぱいでよく眠れもしないし、悪酔いをしてしまったせいもあるが寝起きは最悪。朝から何度も何度も吐く始末だ。
当然俺の携帯は鳴ってないと思った。だって俺はあんなに愛子に冷たくしたし、電話も俺からかけてもいない。しかも愛子も昨夜は友達と飲みに行くって言ってた。
そして何の期待もなしに充電を完了した携帯を取り開いてみると、そこには愛子からの着信と伝言が残されていたのだ。
『ハイ、ジェイソン。
どうしてるかなって思ってかけてみたの。
明日・・・また電話するね。気をつけてね。
愛してるわ。』
愛子の優しい声が俺の耳に響く。
俺から変な質問をして、期待通りの答え来なければ機嫌を悪くして当たって・・・俺はなんて子どもなんだ。
俺は自分で自分が恥ずかしくなった。
愛子にかけ直そうとしたが意地を張って国際カードを買っていなく愛子に電話をかける手段がない。
しかも朝から調子も悪いし、吐き気も未だに止まらない始末だ。
もう俺なんて、と落胆し寝ていたソファーに腰をおろした時だった。俺の携帯が音を立てて鳴り響いた。
まるでテレパシーが届いたかのように、愛子から着信が入ったのだ。
「愛子!ベイビー!」
俺は子供のように携帯に飛びつき愛子に言った。
すると愛子はいつもと変わらない優しい声で答えた。
「おはよう、ジェイソン。今日は調子いいみたいね。」
いつもの愛子だ。
いや、愛子はいつもこんな感じなのに俺が調子を狂わせてるんだ。
「愛子、ごめん。昨日の俺は最低だったよ。」
「いいのよ。気づいて謝ってくれてありがとう。」
「愛子・・・。」
「私こそごめんなさい。子供っぽく反論しちゃって。」
「愛子は悪くないよ!俺が悪いんだよ!」
俺達は二人で謝って二人で笑った。
この2日間は俺達にとってはおかしな2日だったんだ。
また愛子との距離がぐっと縮まった気がした。そしてまた俺は一つの疑問が頭を遮った。
愛子はとても美人で頭も良い。しかもこんな感じで心まで優しいなんて、どうして俺が好きなんだ?
俺は大して取り柄もないし、仕事だってこんな感じだ。どうして愛子は俺に変わらず愛をくれるの?
そう思い出すとまた止まらなくなり、つい口に出してしまった。
「ねぇ愛子。ひとつ聞いていい?」
「何?また喧嘩になることは聞かないでね。」
愛子は笑った。
「どうして俺を愛してるの?」
「え?どうして?
あなたはいつも不思議な質問するのね。」
「だって君はすごく魅力的な女性だよ!
俺を好きな理由が分からないよ!」
すると電話越しでも愛子がほほ笑んだのが分かった。
そして愛子は言った。
「理由が欲しいの?」
「うん。知りたい。」
「私も理由なんて分からないわよ。」
予想外の答えにきょとんとする俺。
愛子は小さく電話越しで笑った。
「私が愛してる男はジェイソン・コリンって名前で、シアトル出身のわがままで世界一優しい男。
そして変な質問をして私を困らせる人なのよ。
他に同じ境遇の男がいたら教えて。
きっと私はその人も愛してしまうから。」
愛子はまた冗談ぽく言って笑った。
俺達はそのまま電話を約1時間も続け、俺はまた愛子って女にぞっこんになったんだ。