グリーンカード
遠距離恋愛10日目、日本は年越しだ。
僕たちはいつもケンカをしては仲直りして、別れそうになっても別れなかったりと退屈しない付き合いをしていた。
愛子が帰る日付や俺達の方向性なども真剣に話し合い初め、お金のことなどリアルな話もし始めた。
俺が全額払ってあげれる程稼ぎがないため、愛子にも働いてもらわないと暮らしていけない。
愛子はそれも承諾してくれた。
日本人の愛子にとって米国で仕事を探して働いて、結婚して暮らすことは決して簡単なことじゃない。
だけどこの時の俺はもう愛子と住めることが楽しみで楽しみで仕方がなかった。
しかしある日、俺はちょっとふざけただけだったのだが今思えば俺のこの発言が愛子の心を揺すってしまったのかもしれない。
それは俺達が結婚の話について話していた時だった。
俺の脳裏を小さな疑いが横切ってしまった。「グリーンカード」だ。
愛子はVISAがないと働けないってことを強く主張したので、これは結婚を急いでるんじゃないかと思ってしまった。
ただちゃんと聞いてあげればよかったのだが、愛子は違法で働きたくないから結婚の覚悟がないなら簡単にはハワイにはいけない、って話だったが俺の中では噂でいろいろ日本人の女がグリーンカード目当てでアメリカ人の男を騙してるって話を聞いたことがあったから、それを思い出してしまったのだ。
そして俺の口から出てしまった。
「正直に言って。俺を愛してるから結婚したいんだよね?
グリーンカードじゃないよね?」
愛子は黙った。
「愛子。ねぇ!それなら今言ってよ。お願い。」
返事がない。
俺の中で不安が大波のように現れた。
「愛子。怒らないから言って。そうなの?」
それでも答えがない。
俺も同じく黙ってみた。
すると愛子はいつもの可愛い声ではなく、大人の女のような凛とした声で言った。
「あなたがそう思うならそれで構わないわ。」
「構わない?構わないってどういうこと?」
愛子の突然の発言に自分のことは棚に置き、つい言い返してしまった。
「そんな人の元には私は戻らないから。」
愛子ははっきりそう言った。
俺は理不尽にも別れを選ばれたと思い、またカッとなってしまった。
俺はただ「あなたを愛してるからよ。」と言われたかっただけなんだ。愛子を怒らすつもりもなかったんだ。
今思えばなんて面倒くさい男と思われてしまったと思う。俺もまだ若かったんだ。
そして一度も電話を切ったことのなかった愛子が突然電話を切った。
ハワイは既に夜中の1時。
俺は国際電話カードを買いに行く術もなく、電話をかけることができない。
俺は愛子から預かったパソコンを開いてメールをしようとした。その時、俺はふとパソコンに目をやった。
そうだ。このパソコンも俺が買えないからと言って愛子が俺に渡してくれたんだ。
電話も国際電話カードが使い切ってから、毎日愛子の方から電話をかけてくれていた。
それなのに俺は「後10分後にかけて」とか「1時間後にかけて」なんて注文ばかりしていたんだ。
いろいろ俺の不甲斐なさが身にしみて、情けなくて仕方がなくなった。
愛子はかけ直してくれない。
俺はどうしたらいいんだ。
そして約30分ほどたった時、俺の携帯が鳴った。愛子だ!
「もしもし!愛子!」
「ジェイソン。ごめんなさい、突然電話を切って。」
「いいんだよ。俺こそ馬鹿な質問してごめん。」
「こんな少しの間だけど、あなたが恋しくて仕方がなかった。」
「愛子・・・。」
愛子の愛が伝わってきた。
なんて心地がいいんだろう。
「ジェイソン。私、あなたを愛してることが幸せなの。」
愛子の声は一段と優しく響く。
「だから私の愛を疑われるのは一番辛いから、お願い信じて。」
愛子はすごい女なんだ。
天下のジェイソンが心底惚れて、結婚まで考えてる女だ。そこら辺の女とはまるで違う。
アメリカ人の女なら怒鳴り合ってセックスして、と毎回馬鹿なことを繰り返すだけだ。
しかし愛子は俺の心を電話一本で満たしてくれる。いくら喧嘩をしても愛子は常に俺に愛を送ってくれる。
こんな女に出会えたことは、奇跡だ。
だったら俺はこの奇跡を運命に変えてやるんだ。
ハワイと日本はこんなに離れてるけど、愛子と俺の距離はこんなにも近い。
俺はそう思っていた。