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最大の災難

遠距離が始まって早一週間が過ぎた頃、俺達二人に災難が起きた。

災難という災難ではないのだが、愛子はめちゃくちゃ切れて俺と別れようとまでした出来事が起きた。

その始まりはこの日の午後、俺が仕事中に外をブラブラしていると一人の日本人の女が子供連れで俺に近づいてきていきなりこう言ってきた。


「あなた、日本人の子と付き合ってるわよね?」


「は?そうだけど、あんた誰?」


「あなたの彼女、子供堕ろしたでしょ?」


「なんで知ってるんだよ?」


その女はものすごい気色悪い顔で俺の顔を覗き込んで言ってきた。


「その堕ろす費用の為に他の男と寝て、そいつに出してもらったのよ。」


「は?」


「しかも元彼と別れた後も会ってたしね。ふふ。」


目の前に写るこの女は変な態度で俺に接してきた。そして訳の分からないことを次々に話しだした。


「彼女はいつもグリーンカード目当てでアメリカ人に結婚を迫ってるのよ。」


「なんなんだ、あんた?なんでそんな事言うんだよ。」


「ただあなたに気をつけて、って忠告したいだけよ。」


そう言うとその場を後にして去って行った。

訳の分からない女が突然現れ、俺の愛子のことをあんな風に言って俺の頭はぐしゃぐしゃになった。

なんで愛子が堕ろしたことを知ってるんだ。

しかも他の男と寝て、費用を払ってもらったってどういうことだよ。

きっとあの女の嘘に違いない。愛子が俺を利用してるなんて考えられない。

俺が悶々と考え続け3時間程経った頃、俺の携帯がなった。


「ベイビー。何してる?」


愛子はいつもと変わらず優しい声で話しかけた。


「愛子、一つ聞いていい?」


「えぇ。どうしたの?」


「妊娠してた時、他の男とセックスしてソイツのせいにしてお金払って貰ったの?」


愛子の声が急に荒々しくなった。


「誰が言ったの?」


「誰が言ったとかが問題じゃないよ。本当かどうかが知りたいんだ。」


「誰が言ったの?」


愛子の声が大きくなった。


「本当なの?ねぇ!本当なの?」


「誰が言ったか先に言いなさい。」


「俺は名前すら知らない女だよ!それより本当なの!?どっち?」


愛子は黙り込んだ。そして数秒して大きく溜息をついて言った。


「あなたは無断で私の過去を開いたのよ。私はあなたに言うつもりはなかったのに、勝手に見たの。

 これはものすごく大きな事よ。」


「どういう事だよ!俺はもしこれが本当でも気にしないよ!

 君にもきっと事情があったんだろうし、俺は本当かどうかを知りたかっただけだよ!」


「もう無理。」


「なに言ってるんだよ!何が無理なの。」


「一度電話を切らして。」


愛子は本気だ。

本気で怒っている。愛子は俺と別れる気なんだ、と声の調子から分かった。


「いつかけてくれるの!?」


「後でかけるわ。」


「いつ!?」


「分からないわよ。」


俺の声も大きくなる。遠距離恋愛をしている今、俺達にできることは電話だけだ。その電話をしてくれなかったら俺達にできることは何もない。


「絶対かけてよ!お願い!」


「ジェイソン、私は10分前まで幸せで満ちてたの。

 でも今私は勝手に秘密の箱を開けられたの。

 この箱を開けられたら、あなたはきっとこれから私を疑い始めるわ。」


「そんなことしないよ!俺は気にしないよ!」


「私は処女じゃないの。一度汚い過去を知ったらこれからも何かある度にあなたの脳裏をよぎるわ。

 私はその時、何もできない。」


「何それ!?愛子は別れたいの?!こんなんで別れるなんて馬鹿げてるよ!」


愛子はまた大きなため息をついた。声が少し震えている。


「かけなおさせて。」


愛子は断固として電話を切るようだ。


「分かった。愛子、これだけ聞いて。

 俺は君を心から愛してる。この気持は消えないから。これだけは忘れないで。」


愛子は小さく返事をし電話を切った。

電話を切った後、たった5分でも息さえできないくらい苦しくなった。愛子がどんどん離れていくのが感じていてもたってもいられなくなった。

しかし電話を待たなければいけない。だって愛子がかけなおすって言ったから・・・だけど、だけど。

俺の中で孤独になる怖さが広がってきた。

俺は急いでコンビニに走り、国際カードを買い愛子にかけた。

お願い。電話に出て、愛子。

今にも泣きそうだった。

3度目くらいのコールで愛子は出た。


「もしもし?」


「愛子!ベイビー。」


俺はすがるような声で言った。愛子は冷たいままだ。


「ジェイソン。ごめんなさい。少し時間をちょうだい。

 今ものすごく困惑してるの。」


「愛子、困惑する必要ないよ!誰にだって過去はあるし、俺は真実を知りたかっただけなんだ。」


「この真実は知るべきじゃない事なの。」


愛子の声は未だに冷たい。

俺は不安が胸に広がる中聞いた。


「愛子・・・俺のこと愛してる?」


愛子は2、3秒置いてこう答えた。


「愛してるわ。本当に。」


涙声だった。俺も同じく涙が流れるようだった。白昼のワイキキのど真ん中で俺は日本にいる愛子って子に本気で愛を伝えていた。

愛子を失うなんて一瞬でも思いたくない。

その後1時間程して愛子から電話があり、愛子の方から怒ってしまってごめん。と謝ってきた。

愛子の気持ちも分かるが、俺達がそんな訳の分からない女に壊されることなんて絶対にない。

確かにこの事実には驚かされたが、俺は愛子の過去がどうであれ、俺にこれから嘘をつかないかどうかの方が問題なんだ。

愛してるよ。愛子。

僕の残りの人生をかけて・・・。



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