父への紹介
父さんの番号を渡して次の日、さっそく愛子は父さんと電話で話をしたらしい。
愛子はとても緊張していたが、本当に俺のことを想ってくれていることが父さんにも伝わったようだ。
しかも愛子はハワイにはもう戻りたくないことも話したらしい。
愛子が前から本土に行きたがっていることは知っていたが、不況の今、簡単に職を変えることはできないのが現状だ。
しかしいつかは俺の故郷シアトルで二人で生活ができれば、と思っている。
愛子はもの凄く現実的な子だ。
二人で生活する上のことはもちろん、子供ができてからの教育上の問題など真剣に考えている。愛子は頭がものすごくいいんだ。
その点俺はいつもその日暮らしみたいな生活をしているし、いつも愛子に怒られる。
野菜を食べろとか、起きたらタバコよりまえに水を飲め、とかね。
たまに俺を子供扱いしてるんじゃないかって思って頭にくることもあるけど、やっぱり愛子の声を聞くと大好きで仕方なくなるんだ。
父さんと話したことで何らかの影響が愛子にあったようだ。
愛子からの電話でこんなことを言い出した。
「ジェイソン、私も父にあなたのことを話そうと思うの。」
「本当に?大丈夫?」
「初めて彼氏の事を話すから緊張しちゃう。
だけど結婚を考えているならなおさら父には話さなきゃ。」
すごい。本当に愛子が俺の妻になる兆しがゆっくりと見えてきたようだ。
本当なら愛子のお父さんとお母さんには会って話がしたかったが、そう簡単にはいかない。
しかも愛子がハワイに戻ってからでは日本に帰るのは当分先になってしまうし、やもえない。
それから半日ほど過ぎて俺の携帯が鳴った。
俺たちはだいたい1時間おきくらいに電話をしているが、この日は愛子からの電話は少なかった。きっとお父さんとかなり真面目な話をしたに違いない。
「もしもし。」
ほら。声の調子も少し暗い。
「どうだった?話したの?」
「ええ。正直驚いたわ。」
「え!?怒られた?やっぱり俺が外人だから?」
愛子は小さくため息をついて言った。
「以外にあっさりしてたの。」
「え?」
「アメリカ人の人と結婚を考えてるって言ったら、『あっそう。わかった。』だけだったの。」
「えぇ?!」
「なんだか拍子ぬけしちゃった。」
以外にも愛子のお父さんは理解があり、全く驚くこともなく、愛子のことだから言っても聞かないだろって感じで終わったらしい。
しかもお父さんは愛子の幸せを一番に考えてくれていて、笑って話を聞いてくれたらしい。
ただ愛子的には父と娘のまじめな会話になると思いきや、夕食中にTVの話をするかのように簡単に終わってしまったようで少し寂しかったようだ。
しかしこれで一応はお互いの両親にも話は通っているし後は俺達次第だ。
愛子はお金のことや仕事のことなど現実的なことに対してもの凄く考えているが、俺はいい加減に考えていたのかもしれない。
このあと俺達はものすごい大きな喧嘩になることも想像もつかず、俺は愛子と住むことや結婚することに浮かれてしまっていた。