太陽がなければ星は見えない①
魔王と話してみるといっても、自分を殺した人間が来ておしゃべりをしてくれるだろうか。
誰だってそんなことはできやしない。
おしゃべりをするなら事を荒げることなく物腰柔らかくしたいものだ。
何かいい方法はないだろうか。
答えを出せないでいた。
手紙でも出すか。いや、悠長に時間をかけてはいられない。なるべく入れ替わりの問題が解決する前に真相を明らかにしなければ魔物との溝は埋まらないままだろう。
何度か考えているがどうにも堂々巡りだ。
腕を組み思考をフル活用しながら従業員以外立入禁止の案内を潜り抜け人気のない道を進む。
今は魔王のことよりもマスターの依頼を対処すべきだろう。
実はマスターは魔王の話をするためではなく、ちょっとしたお願いをするためにバーに呼び出したのだった。今はそれが頭を悩ませる原因になっている。
それは――
「魔王と話をしてみます」
「……」
「……」
「なんだかよくわからないけど、意味が本気だってことは伝わったよ。手助けが必要なら遠慮なくいってくれ」
「ありがとうございます!」
うまく伝わってなかったようだ。口下手だなっ! 俺っ!。
「こんな話をした後で申し訳ないのだが今日呼び出したのは別の用事なのだ」
別の用事? 各段急いでいるようには思えないしどのようなことだろう。
照れ恥ずかしそうにもじもじしていたので言葉を促した。
「まさか魔王以上の脅威が現れたんですか」
「そうじゃない……大変なことじゃない……実は子供たちに会ってやって欲しいのだ……大好きでね、君のこと」
孫のためによくわからないおもちゃを買うようなおじいちゃんみたいだった。
――ということでマスターから許可を貰って従業員スペースに入っている。
メイについてくるかと聞いておいたが用事があるとのことで別行動だ。
昨日の夜もいなくなっていたし夜な夜なあいつは何をしているんだ?
会って欲しいと言われたって本物じゃないし面白い話ができるわけじゃない。
子供たちを喜ばせることはできるだろうか。
とりあえずぶっつけ本番でやってみるか。
作業員スペースは住み込みの宿になっており子供たちが大半を占める性質上、孤児院を連想させた。
清掃はされているが整理はされていないらしく部屋から本が溢れている。
通路にハンモックがかかっていたり、わりかしカオスだ。
勇者の絵が描かれた扉の前で立ち止まる。
ステラの名前が入ったプレートを確認して中に入ろうとすると中からブツブツと言葉が聞こえる。
少し奇妙だが不在ではないと確信しノックをする。
――返事がない。
再度ノックをしてみたがまたもや返事は帰ってこなかった。
別にやましいことでもないし入ってもいいだろ。
声かけをしながら顔を覗かせる。
「姉様はすごい教てーれー会議ー」(パチパチパチパチ)
うわぁ、変なことしてる……。
ステラはこちらの存在に気づいてないようで司会を続けた。
「本日も姉様がお泊りになられております、皆様くれぐれも失礼のないようにいっぱい姉様に尽くしましょう!」
マスターが言っていたテラスのことが大好きってこういうことだったのか。好きのベクトルがおかしくないか。
「いつも通り姉様すごい教の活動について報告があるものは挙手」
「「「はいっ! はいはい! はいはいはーい!!」」」
子供たちが我こそはと手を上げる。
元気な声はまるで小学校みたいだ。
懐かしいなぁ、大人になるにつれて誰も意見を言わなくなるんだよな。
「じゃあ~とーや!」
「あのね、あのね、銭湯のね。受付したっ!」
「テラスコポイント+10点」
「やりー」
テラスコポイントってなんだ! たまるとお得なタイプのポイントなのか?
「次はむるみ!」
「は~い~、私はベットメイキングをしたよ~」
おっとりとしたような子も姉様すごい教とやらに入っているのか。
「姉様の使った! シーツ!! 残ってるぅ!!!!」
なにいうステラ!
「洗わずに~使ってる~」
正気か少女!
歓声と称賛の声が上がる。
テラスにはこのことを伝えないほうがいいな。
「テラスコポイント+125点」
「えへへ~」
メイといいこの子といい、テラスには変態を惹きつける性質でもあるのか。
この子たちの将来が心配だ。メイみたいになってはいけない。
「次は――!? あれあれ? クンクン……幸せな香りがするなぁ~。そこッ! 覗いているなッ! 姉様の 恩恵を受けておきながら報告せず隠れているのは誰だッ!」
なぜ、見つかったし!?
「うらやまけしからん! 隠れるのをやめろと言っている!」
このまま隠れていても仕方がない、姿を現すしかないようだ。
「どうも、みんな私にお熱なようだね」
最大限似せてみたがこの子たちの前で真似事が通じるか……。
ばれたら大惨事だ。
「ヒャマァァァ、逃げろ! づらかれ!」
「あっひゃぁぁ、姉様っ! 違います、これはですね、おままごとというかなんというか、あのー……あばば――」
ガサ入れじゃあないんだから慌てなくていいのに。
みんな思い思いの場所に隠れている。狭い部屋なので頭隠して尻隠さず見たいな感じだが。
「慌てなくても平気だぞ~ 今日はマスターにお願いされて会いに来ただけだよ」
「しょっぴかれないの」
「難しい言葉を知っているね。逮捕しないよ」
「まったく姉様はおしかけです
おしかけではないと思うがびっくりさせてしまった。
「みんなが大好きだって思ってくれて――」きっとテラスは「――うれしいよ……」
申し訳ないが今はこういう言い方しか出来ない。
「勇者様は僕たちの英雄だもんっ! みんな大好きだよ」
そうだな、テラスはすごいもんな。
根幹を作った記憶を除いているからこそ誰よりもわかる。
幼かったあの雨の日からいったいどれほどの魔物を倒し続けてきたのだろうか。本人に聞いても分からないだろうが膨大な数であろうことは想像にたやすい。
「そうだ! してはしいことがあれば何でも聞いていいぞ」
「「「はいっ! はいはい! はいはいはーい!!」」」
一斉に手が上がる。相変わらず元気な子供たちだ。
その中でもブレもなく直立不動、ひときわ強い意志を持ってあげられていた手があった。
「最初はステラだ」
「姉様、二人でお話しをしませんか」
改まってどうしたのだろうか、やけに真剣な表情をしている。
俺は了承し二人で部屋の外に出た。
ほかの子供たちは残念そうな様子だったが実妹の頼みなら仕方がないと納得していた。
「それで、わざわざ二人きりになるってことは重要な話かな」
「はい、何でも聞いていいとのことでしたのでこの機会にと思いまして」
このパターンはきっとめんどくさいことになるやつだ。
「マスターにお願いされてきたのですよね。…………でも……姉様って子供嫌いですよね」
俺は子供好きではないがもしかしてテラスも同じだったのか!?
「確かにそうだが、マスターからのお願いだからな、無下にはできん」
「やっぱり……」
なんとか言い訳ができただろうか、正体が感づかれてはいないだろうか。
「やっぱり、貴方は姉様じゃないですよね」
――ヤバイ。
薄暗い廊下の中に冷たい風が通ったような気がした。
「どうして……そう思ったのかな?」
「優しすぎです、姉様よりも」
ステラと――姉妹の仲はそこまで悪いものだったのか……。
ああ、そうか、これも、俺も兄弟の仲が良くなかった。
知っていたはずなのに、分かっていたはずなのに、誤ってしまっていたのだ、最初から。
「姉様は見てくれません、私はそれでいいです。だって姉様にはもっと見るべきものがあるから」
違うのだと。テラスがステラを見ていないわけがないと伝えたかったが発せられた言葉はテラスにかき消されて届くことはなかった。
「それは世界です――世界を見て姉様はより大きな存在へと昇華する」
これは願望、望み、期待。他人から託されたものを俺もテラスも捨てることはできない。
それは性質であり、たとえ世界を跨いだとしても変わりやしないもの。
テラスを勇者にまで仕立て上げたのは、この計り知れない期待。
重圧をかけられるのは実に酷だ。
「そんな存在になんてならなくていい! 二人は姉妹だろ!」
「血の関係なんて断ちたいくらいです、姉様が羽ばたくための重りになってしまいます」
世界中に自分とは違うと一目置かれた少女はつまはじきにされるようにひとりぼっちになってしまった。
「どうしてそこまでテラスを一人にさせようとするんだ!」
「おかしなことを言いますね。届かない故にこそ信仰足りえるのですよ」
この瞳だ。狂信的でくらい色をしたこの瞳に見つめられると何もできなくなる。
スライムに襲われた時の怒りが、恨みが、沈殿してヘドロになってしまっている。
もう晴らすことのできない思いも含めてスライムを倒したステラを尊敬のまなざしで見ている。
不純物の混ざった純粋な期待が金属が錆びるようにゆっくりと心を蝕み脆くする。
妹を縛り付けるような言葉を反省したテラスは自由にいきいきと過ごして欲しいと願った。
そして度を越えて姉を慕うステラを咎めることを怖がった。
また、魔物に襲われるかもしれないから。
どうすることもできない膠着状態がステラを深く作り上げた。
最初からテラスにはどうにもできない問題だ。
だが俺になら変えることができるかもしれない。変えられなくたってきっかけさえあれば良い方向へと進めるかもしれない、
俺とテラス――二人に起こった入れ替わりはテラスに解決できない問題を俺が解決するためにあったんだ!
説得のためには手札が足りない。ステラが襲われる前の姉妹を知らない。
方法はある。思い出せばいい。自分を見失うとか人格がなくなるかもしれないなんてリスクはどうでもいい。
記憶の門を開く。より深層の幼少の頃を探るために。
【激遅投稿テクニック】
全体プロットに従って次の話を書きます。
↓
ボツにします
↓
予定にない話をぶち込みます
↓
先の展開を考えずに脳死で風向を追い詰めます
↓
頭を抱えます
これで君も激遅投稿者だ!(なお一日に書ける文字数を1000文字とする)