審問官に淫魔だと判定される可能性があるということですか
審問官が、教会から私を見に来る。
それが意味するところを、私がすぐ正確に理解出来たわけではない。
けれど言葉そのものから、雰囲気は伝わってくる。
審問官なんて言葉、私の記憶では『異端審問官』という言葉としてしか見聞きしたことはないようなものだ。
ある視点からの異端を排除、根絶するための使者。
異なる視点を持つものにとっては、災厄の使者ともいえる。
先生は単に審問官といったが、目的としては、教会の教えから外れていないかどうかを確かめるためにやって来るのだろう。
何せ、私のこの体は、魂の創造を禁じられた生命活動をのみ行う人形だ。
私という自我が目覚めていることを、どう誤魔化すんだと先生も困惑していたわけだし、教会に知られれば、審問くらいあるだろう。
「……審問官が来て一番困るのって、先生ですか?」
他にも確かめたいことは色々あったのだけれど、先生の疲労感あふれる様子に、つい聞いてしまった。
先生は私の育成を行った製作者なので、責任という点では一番大きい気がする。けれど、だったらそれを依頼した領主様も責任を負わないこともないだろう。
困るという聞き方は変かもしれないが、責任を追及されて困るのは誰かということだ。
「あー……、まあ、どうかな。僕としては、僕が意図した結果じゃないと証明できればいいわけだし、領主様から依頼を受けた時点で教会はそれも知ってるから……。場合によっては困るのは君かも」
ほほう。
心配しかけていたのだけれど、なんだか酷い裏切りにあった気分だ。
「だったら、なんで先生がそんなに疲れた顔してるんですか」
非難が口調に表れてしまったけれど、仕方がないだろう。
「そりゃあ、だって、審問官が来るってだけで結構、気、使うわけだし。証明できればいいって言っても、設計説明とか、大変なわけだし」
「……設計……?」
「ん?」
先生は自分が何を言ったのか気付いていないようだ。
この体の設計を教えろと言った私に、本を渡してすませたのは、誰だっただろうか。こいつだ。
まあ、それは今はいいか。
「……私が困るというのは、審問官の目的が私だからですよね。私がこうして自我を持っているのがマズイのは分かりますけど、先生が意図して魂を創造したのでないと証明できれば問題ないのでは?」
それで言いわけが通るみたいなことを、先生自身が言っていたと思うのだけれど。
「んー……」
歯切れの悪い返事は、肯定なり否定なり、さらに続く言葉があるからだろう。私は体の向きを変えると、先生の顔を眺めながら続きを待つ。
もちろん、続きをどうぞという意思をこれで伝えているつもりだ。
圧迫を加えている、とも言う。
先生はちらり、ちらりと、何度か私の顔を見たり目をつむったりを繰り返して、溜息を一つ吐き出した。
「僕が意図していないことを何とか証明したとして、君のその前世らしき記憶に虚偽がないかどうかや、君の魂が善良であるかどうかは、僕じゃ証明できないだろ?」
「……まあ、そうですかね」
むしろ私にだって証明できないことだ。
「だろう。教会が君をどう判断するのかは、結局どうにか出来ることでもない。もし君が淫魔だと判断されたら、どうなるかってとこまで想像したけど、聞きたい?」
私はふるふると首を振った。
淫魔か。やたらと先生はそのたとえを出すけど、まあそれは私のせいか。ともかく、そんな判断をされるのがよろしくないことは、聞かなくても分かる。
どのくらいよろしくないかというと、存在を許される許されないのレベルでよくないだろう。
私の記憶にそんなものが実在した事実はないのだけれど、この世界においては存在が証明されている。
とはいえ、相手は精神生命体であるのに、どうやって証明したのか。
その辺りは、教会が詳しいのだろう。先生が私に与えてくれた知識ではよく分からない。
それにしても、領主様の庇護下でどうにか生きていけたらいいと思っていたのに、その前に教会の使者と会うことになるとは思っていなかった。
「ちなみに、なんというか、ずいぶん教会の対応が早い気がするんですけど、そういうものなんですか?」
「いや……」
と、先生は首を振る。
「領主様がね、こういう報告は早い方がいいってさ。僕の報告をそのまま教会に回したんだよ」
先生は、私の反応をとても気にしている様子だ。
領主が私を教会に差し出したと受け取って反感を抱くことを想定したのだろうか。
私自身の感想はといえば、なるほどくらいなものなのだけれど。
まだ個人的なやりとりなど一切ない関係だ。教会がどの程度影響を持つものか分からないけれど、私個人より領主、領地、自分の抱える人材たちを優先させる判断をすることは大事なことだ。
むしろ妥当な判断なのでは、と思った。
他人事でなら、だけれど。




