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転生したらホムンクルスだった場合は合法ショタを名乗っていいですか?  作者: 茶色烏賊
少年体ホムンクルスを望む領主と会うまでの三日間・前半
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微笑みだけでやりすぎとはどういうことなのか

 しばらく私を凝視していた二人だったが、先に我に返ったのは執事長だった。


「……なるほど、これは確かに、我が目を疑いたくなりますな。こんなに流暢に喋るホムンクルスというのは、初めて見ました」

 口調こそ変わらないものの、私から目を逸らし、コホンと小さく咳払いをしている。

 一方メイド長は、息を吐きながら、頬に手を当て、小さく首を振っていた。

 落ち着こうとしているようだ。頬が赤い。


 ちなみに、断じて、フェロモンをまき散らしてなどいない。


 先生は困ったような作り笑顔で、「こういう訳でして」と、私と二人の間に入った。

 そのおかげでか、メイド長も部屋に入って来た時の表情に戻った。切り替えが早い。それもまた、彼女の優秀さを示している気がした。


「一つ確認しますが」

 執事長は一歩前に出て先生を見る。

 たったそれだけで、強い威圧を感じるのは、気のせいだろうか。

 先生は反対に半歩下がっているので、気のせいではないのかもしれない。

「え、ええ、なんなりと」

「これはフェリクス様の意図ではなく、不測の事態だったということですね?」

 先生が渋い顔をして唸る。

 まあ、いい意味では使わない言葉だ。不測の事態。

 そしてこの私の状況がいいことか悪いことかでいえば、今のところ、まああんまりいいとは言えないだろう。

 教会がどうとか、自我がある少年体を領主様がどうこうとか。先生を糾弾することは簡単だ。


 だからといって、認めないわけにもいかないだろう。

 先生は渋々うなずいた。

「なるほど」

 執事長はだからといって、先生に対して責めるような態度も取らなかった。その理由はすぐに分かる。

「でしたら、クラウス様にはまずわたくしから、簡単にご報告いたしましょう。要点を紙にまとめてください」

 なるほど、クラウスというのが領主なのだなと、私は判断する。

 そして先生に対する態度を決めるのは、雇い主であり依頼主である領主の判断というわけだ。

 確かにそれが正しいことだろう。


 先生は言われるがままに、書類と機材に埋もれた机の上で、何やら書きつけ始めた。

 執事長はその姿にうなずくと、メイド長を見た。

「運ばれたお食事を、今のうちに並べてしまいましょう」

 

 言われるまで、仕事をしていますという表情をしながら私をチラチラ見ていたメイド長は、何事もなかったようにうなずく。

「そうですね。……あなたのお食事もありますからね。座ってお待ちください」

 彼女からすればずいぶん幼いのが、今の私の姿であるだろうに、彼女の態度はあくまでも丁寧だ。

 人形ではないと分かったからなのか、領主のものだと理解しているからなのか。私にはよく分からない。


 私は勝手に手伝うのも悪いだろうと、大人しくソファに腰かけ、料理が並べられるのを楽しみに待った。

 見たところ固めのパンと、焼かれた塊肉、茹でた野菜にスープ、といったところだろうか。

 どれもシンプルながら美味しそうだ。


 料理が並んだところで、先生が折りたたんだ紙を持ってテーブル近くまでやって来た。

「これを、お願いします」

 状況報告のためのものと考えれば、ずいぶん素早く書き上げたものだと思う。

 とはいえ、その判断は以前の私を基準にしたものだ。

 名高い錬金術師なんて執事長さんには言われていたし、それが皮肉でなければ、先生は優秀で頭の回転も速いのだろう。

 どうも私の印象では、そこまでではないのだけれど。 

 フェロモンに負けている姿の印象が強いからだろうか。


「お預かりいたします」

 執事長が頭を軽く頭を下げて部屋を出て行こうとする中、メイド長も部屋を出かけながら、私をチラチラと見ていた。

「僕に何かありますか?」

 それが、少し気になって、つい声を掛けた。

 名残惜しい、というだけにも見えなかったからだ。

 先生は、何故か右手を浮かせて私を止めようと仕掛けたけれど、気にしないことにした。


 メイド長が、声を掛けられたことを喜ぶように笑顔を見せる。

「ええ。その服、体に合っているようで安心しました。同じ物は何着か用意していますけど、別のものもご用意いたしましょうね」

 言葉を聞いて視線の意味を納得した。

 この服、随分体にぴったりだったし、仕立てもよかったけれど、彼女の見立てによるものだったのだ。ならば、気にして当然だ。


 私は立ち上がって礼を言うことにした。

「ありがとうございます。ずいぶん良い服を用意してもらったんだなと思っていました。あなたが用意してくださったんですね」

 微笑み、部屋から出ようとしていた彼女と執事長を見送る。

 だがメイド長は、上ずった声で「気にしないで、いいの、いくらでも」なんて言いながら、執事長に半ば無理やり部屋から出されていたので、心配だ。


「君ね、微笑むだけでも、結構、やり過ぎだから」

 先生が呆れた口調で呟いたが、微笑むなというのは、人間関係上よくないのではないかと不満に思った。

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