メイド長と執事長は仕事が出来そうなお二人でした
さて、肝心の、この体に関する設計だ。
魔力がどうこう、フェロモンがどうこうというのは、それを知ることで分かるはずなのだ。
「この体、設計書なんてあるんですか?」
設計と言うからには、当然あるだろうと思って聞いたのだ。
先生も、まあね、とうなずく。なら、それを見せて欲しい、と言おうとしたところで、部屋の扉がノックされた。
「ヒルデガルト様でしょうか?」
立ち上がって応対しようとした私を、先生がやんわりと止める。
「違うと思うよ。彼女は日が暮れたらこっちには来ないから。多分、メイド長か執事長だと思うんだけど」
メイド長と執事長。
その言葉を私は興味深く繰り返した。いい言葉だと思う。
実際、こういった場所で働く彼らを知っているわけではないが、夢が広がる言葉であり仕事である。
まあ、夢にしか過ぎない場合もあるのだろうけど。
「隠れておいた方がいいんですか?」
私がそう聞いたのは、この姿を先生やヒルデガルト以外に見せていいのかどうか分からなかったからだ。先生も、私が顔を合わせるのはその二人くらいだろうと言っていた気がする。
けれど先生は、いや、と肩をすくめた。
「まあ、大丈夫。彼らは君の存在自体は知ってるからね」
ふうん、とその言葉を受け止める。
領主に近い立場の人間ほど、知らないでおくにはマズイことは想像出来た。
知らない人間、この場合はしかも子供が、いきなり領主のそばをうろちょろするようになっては、そりゃあ困るだろう。
一家のお父さんがいきなり子ども一人連れ帰ってきたら、と身近な感じで想像すると一層困り感が分かる気がした。
その想像が、正しいかどうかはともかくとして。
先生が扉を内側に引くと、四十代くらいかという女性が、黒いロングスカートのワンピースに、白いエプロンを付けて立っていた。
メイド長か! と心の中で語気を強めて思う。
その少し後ろで、黒い燕尾服を着た、こちらは老齢に差し掛かって見える男性が立っている。
執事長だ! とこれも確信を持って強く思う。
メイド長はややふくよかではあるが、太っているわけではない。
なんというか、頼りにしたくなる、動いている体つきだ。後ろで一つに結い上げている髪が、仕事面でも頼りにしたくなる雰囲気を出している。
執事長は白髪の混じった髪を撫でつけていて、中背の細身。きっと細かい点に気付くタイプに違いないという神経質さをやや感じる。
「おや、お二人でいらしたんですか」
先生の問いかけに二人がうなずく。メイド長は大きく、執事長はささやかに。
先に口を開いたのは、メイド長だった。
「食事をこちらにと聞いていましたから。中に運んでも?」
先生がうなずくと、メイド長は扉の影に隠れていたらしいワゴンを部屋の中に押して入って来た。
当然、私と目が合う。
「こちらが、例のお人形?」
メイド長の目が、なんて素敵なとでもいうようにきらめいたのだが、それは言葉にされなかった。余計なことを言わないのが、メイド長らしさを感じさせる。
だが、その言葉で気付いた。
この人たちにとっては、私はまだ『お人形』なのだ。
挨拶をするべきなのか、人形のふりをしているべきなのか、迷い、先生を見る。
先生は、ああ、と頬を掻いた。
「ええ、まあ。ただその、領主様にご相談したい事態になっていまして」
その言葉を受けたのは、執事長の方だった。
「ほう」
はっきりと、先生の言う『事態』に対して、警戒を見せて、部屋に入って来た。
「ご説明いただいてもよろしいですか?」
口調は丁寧だが、先生よりも執事長の方が立場が上のようだ。
技術と知識を買われて城に間借りしている人間と、城内を取り仕切っている人間とでは、当然なのかもしれない。
「ええ、それは、もちろん」
先生が、少し慌てているような返事をする。
「状況を把握してからと思っていたので、ご相談が遅れてしまいましたが」
先生の言い訳が嘘だとは思わないが、私があの水槽から出て半分くらいの時間は膝に抱えられていたことを考えると、状況の把握とは何なのかとつっこみたくなってくる。
執事長は、先生の言葉が言い訳に近いものであると、気付いているのかいないのか、よく分からない表情だ。
ただ、私に向ける目は、猫に餌をやろうとしている猫好きの人に見えなくもない。
「名高い錬金術師であるフェリクス様が必要だと思われたことなら、よろしいのです。何をご相談されたいと?」
あ、これは先生、仕事さぼってたくらいに思われているな、というような口調だった。丁寧だし、表情は変わらないのだが。
フェリクスというのは先生の名前に違いないのだが、ここでようやく初めて知ることになった。先生が教えてくれないからだ。
先生は気まずさを強めた顔で、私に目を向ける。
「ええ、それなんですが、……君、挨拶、してくれる? このお城の執事長さんと、メイド長さんなんだ」
ああ、ここで、状況を明かせということなのか。
私はうなずくと、わざとゆっくりと、その仕草を見せつけるように立ち上がった。
不思議そうに私に目を向けている二人に向けて、これも不自然なくらいゆっくりと、微笑んで見せた。
「はじめまして。座ったままで失礼いたしました。先生の手で育てていただいたホムンクルスという身ではありますが、お二人にはお世話になることと思います。よろしくお願いいたします」
私が言葉を言い終わらない間に、二人は想定外のものに驚愕でもって出会ってしまったという目をしていた。
それでも驚きを表情以外に表さなかったのは、職務上培われた経験によるのだろう。
素晴らしい二人だ。




