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転生したらホムンクルスだった場合は合法ショタを名乗っていいですか?  作者: 茶色烏賊
少年体ホムンクルスを望む領主と会うまでの三日間・前半
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記憶と知識が一致していないところもあるようです

さて、領主様とご対面することになる日まで、三日。私のやりたいことは、まず先生が設計したというホムンクルスの情報を得ることだった。

 のだが、何だかんだと先生のセクハラを個人的に許容出来る範囲にとどめ、ほどほどに楽しく反撃している間に、部屋の中が暗くなってきた。

 窓から見える空はすっかり夕暮れの色をして、木や建物の影は黒い。


 先生がランプを灯したところで、私は不思議なことを思い出した。

 私を育成するために暗かったというあの地下室。あの地下室が暗かったのは、私の育成にエネルギーを回しているからだと言っていたが、まさかランプの明かりのことではないだろう。

「明かりはランプだけなんですか?」

 私が聞くと、先生は振り返って首をかしげた。

 唐突な質問だったので、上手く伝わらなかったようだ。

「ランプしか、明かりはないのかなと思って」


 ああ、と先生はうなずく。

「基本的にはね。あとは、暖炉かな」

 ふうん、と私は首をかたむける。

「地下室は、何を明かりにしてたんですか?」

 ランプや暖炉が明かりとして使われるのなら、エネルギーがどうこうというのはおかしな話なのだ。

 先生は肩をすくめる。

「そんなことまで聞いてたのか」

 聞いていましたとも。


「まあ、隠すようなことでもないけどさ」

 先生はテーブルにランプを置くと、私の隣に座って話し出す。

「僕がヒルデガルトの家庭教師だってことは言ったよね。でもそれだけで、この城で雇ってもらってるわけじゃないんだ」

「ホムンクルスが作れるから?」

 聞くと、ははっと笑われて頭に先生の手が伸びて来た。そのまま顔を覗き込まれて、話しにくいから向かいに座ってくれないかななどと思う。

「ホムンクルスも、いつか作りたくはあったけどね。そうじゃなくて、そういう技術を僕が持ってるからだよ」

 ふむ、と私が頬に指を当てて考えていると、先生が私の頭を抱え込んでしまった。

 まあいいんだけれども、なんというか、邪魔ではある。


「そういう技術、か。学者とか、技術者とか、そういう感じ?」

 邪魔だということを知らせたくて腕を押しやると、先生の手は案外あっさり離れた。けれどその手がそのまま肩に置かれたところを見ると、単に顔を見たかったようだ。

「学者で技術者か、まあそうだね。知識も技術も必要だ。それも大抵のじゃないな。天文学、医学、工学、魔道学、まあ、細かく分類して上げていくときりがないけど、博学であることは必要だね。僕は錬金術師だ」

 先生は自慢そうに、いい笑顔でそう言った。

 ああ、これは私の顔を見たかったのではなく、私に顔を見せたかったのだな、と気が付く。

「……なるほど。そういうことなら、家庭教師がホムンクルスの依頼をされるのも分かるし、領主が雇うのも納得ですね」

 だろうだろうと先生がうなずく。

「ちなみに、領主が錬金術師を雇うのは、一般的なんですか?」

「ん? 錬金術を行うってことでならあまりないな。何せ、錬金術は結構金がかかる。豊かな領地じゃないと、錬金術師として雇うのは難しいかな。家庭教師としてとか、ある分野の技術者として、なら可能かもしれないけど。それでも駆け出しの錬金術師には十分な待遇だから、錬金術を行わない錬金術師が雇われていることは多いけど。ちなみに僕は、錬金術を行う錬金術師だけどね」

 

 先生は、意外とすごい人でもあるようだ。先生の見た目年齢のせいで、ホムンクルスを作る技術がかなり一般的なものなのかと思うところだった。

 ホムンクルスを作ることは金銭的な理由と、技術的な理由で、そう一般的なことではないのだと、改めて理解する。

「ということは、先生は金が作れるんですか?」

 私の以前の記憶だと、金は人工的には作れなかったと思うのだが、とふと気になって聞いてみる。先生は、いい笑顔のまま表情を固めて、残念そうに首を振った。

「いや。それはもう何百年も前に研究を禁止されているんだ」

「へえ?」

 禁止とはなかなか面白い。私の興味に気付いたようで、先生は苦笑しながら説明してくれた。

「人工的に金を作るには、冗談みたいに大きなエネルギーが必要だってことまで分かっているからね。そんなエネルギーを制御するのは理論上不可能なんだ。だから、禁止。それ以降錬金術師は他の、例えばホムンクルスの設計と育成なんかもだけど、他のことに興味を移しながら、時々世の中の役に立って、世界の探求をしてるわけ」

 

 なるほど。


 錬金術師というと、科学者の親戚みたいなイメージでいた私だが、そのイメージでいいようだ。

 ただ、魔力がその研究対象として存在しているのが、私の記憶とはやや違うところだけれど。

 先ほど先生に対して、学者とか技術者、なんて言い方をして科学者という言葉を使わなかったのも、そんなようなことが理由だ。

 私の記憶にはある存在なのだが、この体が持つ知識としてはその言葉そのものが存在していない。

 そういった記憶とこの世界での知識の違いは、どうやら色んなところでありそうな気がする。

 

 先生がこの体にあらかじめ持たせた知識の量は多いのだけれど、私という自我のせいか、私が意識的にその知識に触れたり、知識が必要な経験をしないと身に付かない感じがある。

 意識して使っていかないとな、と一応思っておくことにした。

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