実験をしようと思っただけだったはずなんですよ
「は、ああああああああああ」
エレオノーラさんが、手を合わせて煌めきながら私を見つめている。
まあ、うん。
そんな予感が全くしなかったわけではない。
私は現在、水筒を、下げている。
正確には、皮を使ったもののようなので、水袋かもしれないが、まあそれはいい。
ともかく、水筒を、斜め掛けにしてなるべく自分のそばに置けるようにしているのだ。
それがエレオノーラさんには、ちょっと大人っぽくおめかしした少年が水筒を斜め掛けにしている姿として、尊く映っているようだ。
うん、可愛いよね。
自分の容姿を自覚しているちょっと大人びた表情も出来る少年が、年齢相応らしい行動を取ってるのって。
「ああ、いい。いいですね。これはまた、ダンス服を考えるのとは別に、いいインスピレーションを与えてくれます。小物も大事ということに、どうして今まで気付かなかったのでしょう。様々なシチュエーションを想定して、もっと色んなお洋服を用意していかなくては!」
うっとりとしながらそう語るエレオノーラさんは、すっかり自分の世界に入っている気がする。
とはいえ、仕事は出来る人なので、一通り盛り上がったら、自分の仕事にしっかり戻っていくことはこの数日で分かっている。
そっとしておこう。
ちなみに中に入っているのはただの飲み水だ。
ただし、汲んだのも、水筒に入れたのも、エレオノーラさん。
私は直接は触っていない。
ハーブやら何やらに影響があるのは分かっているけれど、水そのものにも何か影響があるのなら、温泉にだって影響があるかもしれない。
で、そばにおいておくだけで影響があるのなら、私が浸かるお湯にも影響があるかもしれない。
直接因果関係を確かめられるわけではないものの、結果を予想する材料としてはまあまあかと思うのだけれど、どうだろうか。
水筒をぶら下げっぱなしで昼食時間まで過ごすとなると、ちょっと邪魔ではあるのだけれど、私がやることは読書か魔術の練習かなので、邪魔になってどうしようもないわけでもない。
さて、とひとまず読みかけだった本でも読もうかと思ったところで、頭の上にそっと何かが乗せられた。
乗せたのはエレオノーラさんだが、当の本人は、それを行った途端に床にしゃがみこんで呻いている。
どうやら、彼女の萌えのツボをつく何かを乗せたらしい。
姿見に目を向けてみると、頭の上には服の色に合わせた帽子が乗っていた。
なるほど、と私は深くうなずく。
山高帽と呼ばれる帽子の形状に似た、丸い帽子を乗せた姿は容姿と服の質もあいまって、ちょっといい学校の生徒、といった感じを見せている。
私も、こんな姿の少年に笑顔を向けられでもしたら、ドキドキしてしまいかねない。
いや、今は私がその少年であるんだけれど。
私はエレオノーラさんの心情を理解しながらも、素知らぬ顔で声をかけることにした。
あくまで少年らしく振る舞ってみせるのは、本来はメイド長としての仕事で忙しいはずなのに、私の世話をあれこれと仕事だけでなく趣味の面からも見てくれている彼女への、思いやりになるはずだ。
「エレオノーラさん、この帽子も、いいですね。水筒を下げているせいか、ちょっとお出かけしたくなります」
まあ、本心でもあるのだけれど。
帽子と水筒があれば、近くを散歩するには十分だし、今日はいい天気だし、朝建物の外に出たせいもあってか、ぶらりとどこかに出かけたくなる。
「ええ、ええ。そうですよね。青空の下、草原の中、河原での水遊び、そういったシチュエーションも考えていくべきですよね。わたくしの一存ではお連れすることは出来ませんが、是非またクラウス様にお願いしてそういった機会を作っていただきましょう。ええ、是非!」
力強く語りながら、エレオノーラさんは何事もなかったかのように立ち上がった。
「それでは、失礼させていただきますね。また何かあったら、お呼びください」
お願いしていた用が済んだから、といった態で部屋を出て行ったエレオノーラさんを見送って、私は作った表情のまま確信した。
多分また、服が増える。




