67話 リア充爆発しろーーーー!!
それじゃあ、不祥私目が、本パーティーの音頭を取らせてもらうね! いくよ! リア充爆発しろーーーー!!」
そんな真希波の呪詛とも取れるような音頭とともに、クリスマスパーティーは幕を開けた。
「どんな音頭よ……」
ましろがおでこに手をやり呆れの笑みを浮かべている。他の皆も呆れてはいるものの、別に雰囲気が悪くなるわけでもなく、むしろ盛り上がりを見せ始めた。
立食パーティーにように、各所にテーブルが置かれ、料理や飲み物が置かれている。こんなの、普通の学生の家でやるのは無理だっただろう。
「まあ、結果的にはいいんじゃないかな? 皆盛り上がってるし」
苦笑いしつつ、僕は皆を見回して言う。なかなかにインパクトのある音頭に困惑したけど、これはこれで真希波らしくていいかと思えてしまう。
「相変わらず、彼女はうるさいわね」
僕の隣で、寧が真希波に疲れた視線を向ける。相変わらず、というのは、監視カメラ越しに真希波を見ていたから出る言葉だろう。
「まあ、真希波はああいう性格だから。それに、明るくて楽しい子だよ」
「まさしく、寧の苦手なタイプだけどね」
寧は嫌そうな顔をしつつも、以前までのように本気で拒んでいる様子はない。僕はそのことに内心で嬉しく思った。
「寧ちゃーん! 今日は来てくれてありがとうね!」
声がしたほうを向く。両手にお皿を持った美柑が、満面の笑みとともに寧に向かってきていた。
「……ちなみに、真倉もよ」
「ん? 何が?」
何のことだかわからない美柑は首をかしげる。
「何でもないわ。というより、何で一度にそれだけの量持ってくるのよ」
寧は美柑の持つ皿、そこに山盛りに乗っている食べ物を見て呆れた眼差しを向ける。
「美味しそうな食べ物がたくさんあるんだもん! それに、寧ちゃんの分もあるよ!」
美柑の言葉に、僕は懐かしさを感じていた。僕も昔、家族でバイキングに行った時、食べたいものをたくさん取った記憶がある。まあ、食べきれないで残してしまうんだけど。
「じ、自分で取ってくるからいいわよ」
寧は美柑から逃げようとしているけど、美柑がグイグイと詰め寄っている。寧から、「何とかしなさい」って言ってるような視線が飛んでくるけど、あえてそれは無視する。せっかくのパーティーなんだ、僕以外とも交流しないともったいない。
「真倉ちゃんと寧ちゃん、仲が良いのね」
二人の様子を見守っていると、グラスを持った保科先輩が近づいてきた。
「寧は何だかんだ言ってますけど、あの二人、結構仲良いんですよね」
「そうね。何だか、姉妹みたい」
姉妹、か。僕は的を射てるなと思った。意識したことはなかったけど、確かにこうして見ると二人は姉妹に見えてくる。美柑が姉で、寧はそのまま妹かな?
「そういえば、真倉ちゃんとのこと、ありがとうね。改めて、お礼を言わせてもらうわ」
保科先輩が声のトーンを落として言う。なので、僕もトーンを落として、周りに聞かれないようにして返す。
「いえ。あの後、美柑とはどうなんですか?」
「全部素直に話したら、モデルになってくれたわ。今も、時々真倉ちゃんを描かせてもらっているの」
僕はそれを聞き安心した。ここ最近は、天文部の方にしか顔を出していなかったため、美術部の方がどうなっているか知らなかった。
「美柑がモデルですか。でも、モデルって長時間じっとしてなきゃダメですよね?」
「ええ。真倉ちゃん、ただじっとしてるのが苦手みたいで、これが今の課題なのよね」
保科先輩は困ったように笑ってみせる。美柑がじっとできない姿は容易に想像できてしまうため、僕も苦笑いしてしまう。
「ふひゃひほも、ひゃにをほしょほしょひへいるほだ!」
保科先輩と話をしている途中、全く解読できない言語を放つ美羽が駆け寄ってきた。その頬は、リスのように膨らんでいる。
「えっと、何を言っているのかわからないのだけど」
保科先輩は困ったように頬に手を当てる。美羽は口に含んでいたものを飲み込み、一呼吸置いてから話し始めた。
「ふぅ……二人がコソコソと何か話してるから気になったのだよ!」
ダボダボな袖を持ち上げ、何やら僕たちが話していたことを追及してくる。美羽には、結局保科先輩とのことは隠し続けているため、こうして聞かれるとドキッとしてしまう。
「真倉ちゃんと寧ちゃんが姉妹みたいねって話してただけよ」
「む? 二人がなのだ?」
僕よりも先に保科先輩が追及を躱し、事なきを得た。言い方は悪いけど、強敵が味方になったみたいで、すごく心強く感じるよ。
「あの黒髪の子が寧ちゃんというのだ?」
美羽の疑問に、僕はそっかと思った。
「そういえば、美羽は寧を見たのは初めてだったね。僕の親戚の妹だよ」
「蓮、妹がいたのだ!?」
美羽は驚いてみせ、寧に興味を示し始める。そのまま、白衣をばたつかせて寧のもとに行ってしまった。
「寧ちゃん、初めましてなのだ! ボクは天文部所属の新島美羽、よろしくなのだ!」
「……うっ」
美柑に詰め寄られていた寧は、美羽までやってきたためか小さく呻き声を漏らした。寧が皆と仲良くなってくれればいいけど、不機嫌にならないかだけ心配だな。
「ほら蓮! あんたもこっち来て飲みなさい!」
「うわっ!? ま、真希波?」
真希波が不意に僕の肩に腕を掛けてくる。自然と密着する形になり、背中には真希波の形のいい胸が、僕の顔すぐ近くには真希波の顔が!?
「ほら! もっと皆で騒ぎ倒さないと!」
「ほわぁっ!?」
今度は僕の左腕に綾子が抱きついてきた。よく僕のと比べるけど、十分僕にとっては脅威な胸が腕に押し付けられる。
「ちょ、ちょっと二人とも、離して!? てか、何で真希波はそんなに顔が赤いの!?」
この場にお酒はないはずなのに、なぜか酔ったかのように顔を赤くしている真希波。アルコールの匂いはしないから、お酒じゃないのは確かだけど。
「いやぁ、場の空気ってやつ? まあ、そんな細かいことはどうでもいいんだよ! それよりほら、蓮もこっちきて一緒に飲みながら話そうよ~!」
「もろお酒飲んでる人のノリになってるじゃないか!?」
場の空気でこうなるって、お酒飲んだ時が怖いんだけど。
「あーー!? 二人とも、レンレンにくっつきすぎだよ!?」
美柑がこちらの惨状(?)に気づき、指差してくる。
「なあに? 羨ましいのかな~」
からかうように、挑発するように酔ったような口調で言う真希波。しかも、僕の肩に回していた腕を解き、今度は右腕に抱きついてきた。それに綾子も悪ノリしてくる。
「クククッ! 蓮はこのまま私たちがもらっちゃうよ」
もらうって何さ!? 内心でツッコミしつつ、両腕に感じる柔らかな感触にすっかりタジタジになってしまう。
美柑はむぅといった感じに頬を膨らませたかと思えば、何やらその瞳に決意を宿したかのように頷いてみせる。
「二人がそうくるなら、私だって!」
言うが早いか、美柑が僕にダッシュしかと思えば、あろうことかその勢いのまま僕に抱きついてきた。真正面から。
「…………っ」
あまりの衝撃(精神・肉体とも)に、一瞬頭が真っ白になってしまう。
「おお! 美柑ってば大胆だね~」
真希波の称賛するような声に我に返ると同時に、焦る。美柑との距離が近すぎて(というかほぼゼロ距離)、心臓の鼓動が否応なしに激しくなる。
「み、美柑……っ、は、離れ――」
「三人してずるいわ。私も混ぜてもらうわね」
僕の言葉を遮って、後ろからましろが抱きついてきた。この瞬間、前後左右全てに女の子の体を感じてしまい、脳がショート寸前になった。
「あ、ば、あば……っ」
女の子の口からは出てはいけないだろう声を発してしまうものの、それを気にする余裕なんてなかった。
「ムムム!? ましろんもくるか……っ」
「フフッ、正面を取られたのは悔しいけど、見えない後ろからってのも刺激が強いわよ」
僕の体越しに、美柑とましろが火花を散らすかのように睨み合う。こんな体制で言い合いを始めないで!?
「あらあら、楽しそうね」
僕の正体に気づいている保科先輩は、この惨状を見て微笑んでいる。どこをどう見たらそう見えるの!?
「…………お姉様」
殺気をまとった声が僕の耳を通り超して、心臓を射抜いた。一瞬本気で心臓が止まり、僕は恐る恐る殺気が飛んできた方向、そこにいる寧を見た。さっきまでとは比にならない不機嫌さを隠しもせず露わにし、僕を睨んでいる。
「ね、寧、これは……!?」
幻覚だろうけど、寧からおどろおどろしいようなオーラを感じ取ってしまい、僕は必死に弁明を図ろうとする。このままだと、僕じゃなく美柑たちが危ない!?
「あははっ! 寧ちゃん、お姉ちゃんが取られちゃってヤキモチ焼いてるんだね!」
「ちょっ……真希波!?」
殺気を感じていないのだろうか、真希波がそれまでと変わらない口調で言ってみせる。そんなの、火にそそぐ油のようだ。美柑とましろはさすがに寧の変化に気づいているのか、緊張が伝わってくる。
「……………………はぁ」
しかし、寧は長い間を置いた後にため息を一つ吐くだけで、殺気をおさめた。
「お姉様、いくらモテるからといって、節操なしはやめなさい」
「……? は、はい。…………?」
何とか返事をするものの、頭の中は混乱の渦だ。あのヤンデレ妹の寧が、今の惨状を見て何もないだって? ありえなさすぎて、逆に怖い。
「そんな節操なしなお姉様と、周りのふしだらな女たちには、罰が必要ね」
……何もなしってのは前言撤回だ。寧はどこから取り出したのか、例によってあの鞭をしならせてみせた。
「ま、待って、寧ちゃん!? 鞭はダメだよ!?」
美柑が寧の持つ鞭を見て青ざめる。他の三人も同様だ。
「問答無用よ! 全員、同罪よ!」
しかし、寧は止まらない。本気だと思った美柑たちは一様に僕から離れていき、逃げ出す。ちょっと皆、それは白状じゃない!?
「まずはお姉様からね」
「そ、そんな……!?」
完全に逃げ遅れた僕は慌てて逃げようとするも、時すでに遅し。強烈な一撃が僕のお尻を叩いた。
「ぎゃふん……っ」
一撃でノックアウト。倒れゆく視界の中、寧が次なるターゲットを追いかけているのが見えた。僕はお尻の痛みに耐えつつ、鞭だけで済んでよかったと思ってしまう。
けど、これは一体どういうことだろう? 普段、ましてや今までなら絶対に見せなかった寧の様子に、僕は困惑を隠せなかった。
何が寧を変えたのか。僕にはその要因となることがわからないため、もどかしく感じてしまう。
疑問は尽きないけど、今は目の前の寧の姿が、とても微笑ましく思えてしまうのだった。




