03話 驚愕する錬金術師
幻神歴2958年02月03日
シャルマーユ皇国
大陸で最初期に興した国で大陸内で最も歴史のある国だが近年の政治の退廃により国民の支持率は下がっていたが15年前の幻魔泣戦の中期に腐敗していた王侯貴族を当時王剣と謳われていた騎士長が革命を起こし、全て排除して皇帝の座に就いた。
その後、幻魔泣戦に逃げ腰だったシャルマーユは一変し新皇帝自ら前線に立ち終結に向けて多大に貢献し幻魔泣戦終結後に大陸の役半数を領土に治めシャルマーユ皇国の皇で後の始皇帝。
当時の腐敗した貴族を片っ端から国民の前で吊るし上げ、国民の絶対の支持を得ると同時に実力主義で力のあるものは身分関係なく召抱える。
この政治により今現在シャルマーユに存在する貴族は領地の規模に関係無く皇帝に認められた優れた貴族で有り、市民からの支持も昔と比べるべくも無く絶大だ。
未知への探求と失業者の回復を兼ねてトレジャーハンターを設立し、民間人には各町村に城壁を施し国家事業としあらゆる面で大成功を収める。
幻魔泣戦時代まで大陸内に幾つかあった宗教も政治への介入を切り離すことに成功し宗教のいらぬ政治への食い込みを文字通り頭で抑え、他にも数え切れないほどの善法と連座刑を施行し、素晴らしい統治具合である
皇帝が即位されて間もない頃に他国からの威力偵察があったが、嘘か真か軍備が勿体無いといい放ち皇帝自ら単身で他国の軍を返り討ちにしたという逸話もあり、それ以降他国からの戦争や侵略行為はもちろん小競り合いすら全くない。
それほど絶大な力と義を兼ねた逸脱者。
他国での噂ではシャルマーユ皇帝に戦争吹っかけるより、未知の領土を探してそこで建国したほうが遥かに難易度が軽いとさえ言われる。
その絶対性の力と安全が確約されたシャルマーユへ他国からの流民も多く、シャルマーユ首都は1000万を超える大都市で首都以外の町村への移民も多く、ここルルアもルルア渓谷という絶景を拝める事もあって戦後に比べて住民が3割増しとなり今現在15万の住民が生活する中規模の町だ。
コボルトには馬車のお守りとして外で待ってもらい衛兵も同じく外で待つという事でカレンがリールーに案内されるがまま組合内に足を踏み入れると広い部屋にも関わらず床一面に赤の絨毯が敷き詰められており随所に創芸品が展示されており広大な建築物の割に人は全く居らず、正面の受付に男性が一人座っているだけで空虚を感じさせる雰囲気が漂っていた。
リールーの案内に続いて階段を昇るようなので男性に軽く会釈だけして2階の部屋に続く。
客間のようだが簡易なソファが対と間に机があるだけで飾り気も何もない部屋でカレンはとりあえずソファに座ろうとするがリールーから呼び止められる。
「さて、カレン・アシュリーさん。説明や登録の前に衛兵に頼まれている不審者の疑いを晴らすために衣服を脱いでもらえますか? 咎人や逃亡した奴隷特有の刺青や拘束具の有無を確認したいので」
本来なら初めての通行人には検問所で行われる確認作業だが組合への加入手続きもあってこの場で行われることになりリールーも衛兵から事情を聴いており先に要件を済ませてしまおうと切り出した。
大人しく衛兵に従ってる時点で咎人の可能性は無いと踏んでるので先に要件を済ませ衛兵に問題無しと伝えて職務に戻ってもらうといった計らいなのだが
「え? ええぇ・・・・・い、いやよっ」
リールーの事務的な問いに焦りまくって咄嗟に否定してしまうカレン
検問所で衛兵から聞かされてはいたが手足を見せる程度と踏んでいたが衣服を脱ぐとなるとカレンの事情的に難しく、上手い言い訳も咄嗟に浮かばずお互い見つめ合って暫くの沈黙が流れる。
「・・・・はい?」
組合での身体確認は偶にあるのでこのやり取りも珍しくはないのだが否定されたのは初めてでリールーは一瞬自分の耳を疑って聞き直すが
「お断りするわ」
目の前の女性は今度はキッパリと断りを入れてきた。
「ええっと、、、それはつまりやましい事があるということですか? 場合によっては衛兵に連行されますが」
「ぁう、え、え~と・・・どうしよ」
衛兵の名を出すとカレンはまるで子供のように右往左往して困り果て慌てふためきこのままでは埒が明かないと判断してリールーが優しく諭す様に声を掛ける。
「―――犯罪の隠蔽は出来かねますが事情があるならお力になれるかもしれませんのでまずは説明していただけませんか?」
(ああ~どうしよっ!? どうしたらいいの? 幸いにもこの場にはリールーさんしかいないし・・・でもでも・・・)
リールーの眼鏡の奥から伝わる優し気な眼差しに最早打つ手なしと諦めカレンは大人しく頭のフードを脱いだ。
「ぇ・・・亜人? 兎の耳? いえ・・・、まさかっ! 玉兎族ですか?!」
フードを脱いだカレンの頭部には30㎝程の黒い兎の耳が生えておりペタンとしな垂れており、臀部まで届かんばかりの銀色の長髪とアイマスクで隠されてるがおそらく銀眼は正に玉兎族の特徴そのものだった。
玉兎族
亜人種族の中でも特に希少種で人間から生まれる子供のうち極めてごく稀に兎の耳と尻尾が生えた子供が生まれ玉兎族と呼ばれる。
玉兎族の特徴は男女生まれの地に関係無く、容姿に優れ人間の耳と同時に頭上に生えてる兎の耳と臀部のやや上に丸い尻尾があり例外なく髪と瞳の色が銀色で生まれつきエーテル干渉力が高く潜在魔力も優れている
戦前今より遥かに亜人種への偏見・差別が酷い時代には凄惨な目にあった種族の1つである
戦後シャルーマーユ大陸では皇帝の全種族平等の一声で玉兎族も差別されることは無いのだが、戦前のあまりの凄惨な扱いに完全に人間嫌悪が玉兎族の共通認識で、同属で集まり人目を避けひっそりと隠れ住んでいる、いや隠れ住まないと危険なのである。
差別が無くなったとはいえ戦前から玉兎族の希少性からその肉を食べると幸運に恵まれるという眉唾な言い伝えに加え、玉兎族との性行為は人間のそれより遥かに快感が強く中毒性があるという事実から今も一部の異常者は血眼で玉兎族を探しており、捕まれば高値で取引され食われるか監禁され嬲り続けられるという悲惨な結末しかない
故に今も生き残った極一部の少数で隠れ潜まなければならないのだ。
驚くリールーの腰に形振り等構わず髪を振り乱しながら縋り付きカレンは弱弱しい声で事情を説明する。
物心ついた頃には玉兎の隠れ里を追い出され之まで人目を避けて姉妹とコボルトの3人でテンゲン大樹海で隠居生活をしていた事
9年前に姉が旅に出て以降、自身は工房を持ちたいという夢がある事
最近大樹海に賊が紛れ込んだ為に此処ルルアに流れ着いて工房を構えたいと考えていると
隠居生活していても自身の特性と希少性は知っているのでなるべく玉兎族ということは知られたくないと涙ながらに覚束ない言葉で説明されリールーはあまりの出来事にカレンの背を摩り、暫く落ち着かせてからソファに座らせ重く口を開く
「落ち着きましたか? 玉兎族を目にするのは初めてですが、その境遇は同じ女性としてとても許せないのでお力になります。ご安心ください! このことは私の胸にしまい、組合長にも伏せますので。幸い身分証にも種族は記載されないので大丈夫ですよ!」
奴隷の証の奴隷具があったとなれば見過ごせないが種族に差別は無いので玉兎族という事を伏せる事に問題は無い。
むしろリールーの言は本当の事で戦中の玉兎族の扱いは本当に凄惨なもので女性ならだれしもその内容を知れば同情的になってしまう有様だった。
現皇帝が種族平等を宣言したものの暗部では今だ玉兎族を狙う輩はひしめいている。
「―――そうなの? ありがとね」
本音を晒して体裁を捨てたカレンは素直に感謝を述べてリールーの様子を見て大丈夫と、初めて安堵してソファに深くもたれ掛かる。
その後身体の確認を済ませリールーが先に衛兵に問題無いと伝えてくると一旦席を外し、数分で戻ってくると今度は手に幾つかの書類と見慣れない機械を抱えており対面に座ると咳払いして畏まって尋ねる。
「それでは改めまして、カレンさん。身分証の作成の為に幾つかお尋ねしたい事があるのですが、情報の齟齬が無いよう当錬金術教導組合の活動理念もご一緒に説明させて頂きます。ちなみに大丈夫とは思いますが、念のため・・・身分証の作成においての質疑で虚偽の申告はご自身の不利益にしかならないのでご留意ください」
「え、ええ。大丈夫よ」
「登録費用に銀貨15枚頂きますが本日登録なさいますか?」
登録費用に銀貨15枚と大金が必要な事に驚くカレン
銀貨15枚となれば一般市民の月収に近い額だがそれに見合うだけのメリットを考慮すると同時にどうせ工房を持つのに必須という事もあってすんなり受け入れる事にする。
「ええ、換金してるのでお金は大丈夫よ。これで登録をお願いするわ」
「お預かり致します」
「それでは此方の書類に記帳をお願い致します。これを元に身分証を発行しますので可能な限り正確にお願いします。錬成の才覚に問わず始めは下位錬金術師で登録となります、審査は必要ありませんが中位・上位・最上位に昇格する際には其々に応じた費用と審査があります。昇格の最低条件は組合在籍1年以上となるので此方の書類に必要事項等が記載されてるので後程目を通してくださいね」
数枚の書類をカレンの元に手渡しそれとは別に1枚の書類をカレンの正面に配る。
それを目にしたカレンは想像とは真逆の驚きを受ける。てっきり堅苦しい書面に事細かに記載するかと覚悟してたのだが書類の記入事項は氏名と年齢と得意科目のみ。特に誤魔化す必要も無いので素直に記載してリールーに差し出すとその書類を一瞥して見慣れない機械に入れる。
機械が不定期に明滅すると天宮部分に手をかざす様指示されたので大人しく手をかざすと機械から聞いたことのない機械音が響くが、それが正常なのかリールーは気にせずカレンに続きを促す。
「それではこの書類を元に作成しますので30分ほどお時間を頂きます、その間に説明や注意事項をお伝えしますので暫くお待ちください」
「ええ、判ったわ」
リールーが機械を弄ってる間にカレンは注意事項が記載されてるという書類に目を通すが此方は予想通り小さな字でギッシリと書きこまれておりこの場での熟読を早々に諦め懐に仕舞い後回しにした。
「それでは。まず当組合も含めて現在組合は30以上ありますがこれは幻魔泣戦終結後の急速な復興と同時に当時10に満たなかった組合がより精査され分派することによってより各分野に精通した組織と変化しました。カレンさんはご存知無いかもしれませんが、以前は錬金術師も魔法師や召喚師、幻獣師等と一括りにされ術士組合で登録されていました。その名残で今でも錬金術師は戦闘職と勘違いされている方々も多々おります」
「それは不便ね、私争い事は本当に才能無くて狼すら太刀打ちできないのに」
(・・・よくそれであのテンゲン大樹海で今まで生活できましたね――あ、でも狼に震えるカレンさん想像するとまんま兎みたいかも、フフ)
錬金術師は研究職であって決して前線で戦闘行為を得意とする職では無い。
抑々(そもそも)、錬金術の中で唯一戦闘行為に転用可能なのは事前に生命創造系でゴーレムを創造し戦わせるといった手段しかない、それでも大雑把な命令しかできず細かな作業は不可で弱点も致命的で戦闘に不向きだ。
最もそんなゴーレムですら戦中は必要とされ前線に大量投入され、その名残から錬金術師も戦闘職という誤解が今も続いているのは皮肉としかいえない有様だった。
「ちなみに組合は世界中にありますが、シャルマーユが筆頭となって同盟国や友好国のフルーラ・ガナセルス・ミスキア・ゼファースによる五ヵ国での共同改革によって組合は他国とは異なる王直轄組織となり組織力も影響力も他国より優れておりますが一部の国では今だ組合が複合されていたり身分証が異なる国もあるので他国に赴く際はお気を付けください」
「ここまでは組合総合の簡単な説明になりますがなにかご質問はありますか? 無ければ次に錬金術教導組合について詳しい説明に移りますが」
此処までの説明を吟味して理解したカレンは思いついた懸念を問う
「1つだけ。身分証が異なる国で活動する際は身分証の作り直しが必要なの?」
「いえ、作成も更新の必要も有りません。ただ確認に数日要する事になります、掛かる日数は国次第ですが最低でも5日もあれば大抵の国は確認作業は済みますのでご安心を。一度組合に登録されたら国交を断絶してる国を除いて全ての国で組合の情報は共有されます。なので身分証の重複保有はまず無理です、当然組合共通で禁止行為に当たります。再発行も厳重な確認の元行われますので当日には出来ませんし更新には金貨2枚と大金が必要な事も胸に留めて置いてください」
「判ったわ、話を進めて頂戴」
「はい。では錬金術教導組合についての解説に移りますが、その前にカレンさんは主な錬金術師の3つの到達点はご存知ですか?」
既に錬金術師のカレンなら知っていて当然な常識だが樹海で隠居生活と聞き一応確認する
「確か黄金の錬成・生命の錬成・不老不死や死者蘇生の秘薬を可能とするエリクサーや賢者の石の錬成よね」
錬金術師を生業とする以上どうしても系統が別れ其々に特化して研究していくのがセオリーでその到達点が今カレンの言った3点でこれは魔法師でいう深淵へ至る、薬師でいうフルポーションの制作といった最終目標にして到達点であり、カレンの場合は物質錬成を主軸にして製薬錬成を副としておりはなから到達点を度外視した研究内容だ。
「それで間違いありません。錬金術師は大抵その何れか、もしくは複数を目標に日々研究に切磋琢磨する研究職です。今も昔もそれは変わりませんが戦後から15年で内情は大きく変化しました。まず黄金の錬成は成功し確立も成されました」
「・・・・・・ぇ、そうなの?!」
リールーの衝撃的発言に思わずソファから勢いよく立ち上がりリールーに詰め寄る
黄金の錬成、錬金術師の到達点の1つで何百年とも何千年ともいえる古い歴史ある錬金術師の世界で今だ確立されてなかったのだが既に到達点に至りそれが既に確立されているという。
到達点を目指してないカレンでも錬金術師である以上その驚愕は計り知れずリールーにどうどうと興奮した牛を抑えるように宥められソファに掛け直した。
「はい、8年前に。同盟国フルーラの最高位錬金術師にして賢者の御一人でもあられるスーピー様が理論を確立されて、国にその偉業を認められ今では各国の一部の最上位錬金術師が其々の国の監督下の元で習得してその力を国の為に奮っております。とても素晴らしい事でフルーラは今では黄金国と敬称され、勿論スーピー様はフルーラの賢者として莫大な報奨金と名誉を賜り、現在は王立錬金術研究所を設立して総責任者として後任を育成しております。―――ただ、それは到達点の1つが証明されたことで黄金の錬成を目標にしていた方の大半は錬金術から離れ、一部の方が別の到達点を新たに目指す結果になりました・・・」
「それは・・・判るわ」
驚きから立ち直ってリールーの話を聞くにつれて状況が掴めてきたカレンは今の錬金術師の現状を朧気に察する
到達点が確立されたという事は数式でいう計算式を1つ証明したも同義で最早研究せずとも口伝等で知識に収める事が可能となる(最も内容が内容だけに伝授されるには相当な制限があるだろうが)
更に略式を研究するというのもあるがやはり本筋が解明された以上意欲は俄然と変わるだろうことは容易い
「それで他の2つの到達点は今だ未到達ですが、生命創造を目指す方は元々他の2つに比べて格段に人口が少なく、黄金錬成が確立されて以降はその・・・昔より指摘されていた出産のほうがあらゆる面で効率的という意見が強くなりまして―――勿論そんな当たり前の意見は以前より生命創造を探求する方は気にしないのですが、戦後の人口の爆発的増加も後押しとなり現状では更に生命創造の到達点へと探求する方は低下しています」
「あ~なるほどねぇ。私は生命創造に属する物は手を付けてないけど、錬金術に理解と関心が無い人からしたら出産という当たり前の経緯で創造できるものね。むしろそれを聞かされたら私もそう思ってしまいそう。それでも錬金術を追求する人がそんな事で諦めたりしないと思うけど?」
生命創造の錬成。
3つの到達点の中で最も敷居が高いとされており今だ糸口すら掴めていない難問で無機物のゴーレムの創造が今だ関の山で生物の創造や再構築は成功の報告は一度と無い。
物質錬成や製薬錬成のようにクズ原石、薬草といった初級の取っ掛かりが生命錬成には無いので難易度は押して図るべく
「ええ! 確かに年々低下はしてますがそれでも中位から上の錬金術師の方々は今でも到達点への追及を目指しております。個人的な意見になりますが錬金術師の研究に対するあくなき熱意と姿勢は好きなので、いつか錬金術師を目指す方達によって錬金術を昔のように、いえ、それ以上に復興してもらいたいと思っています―――そしていつも組合会合でからかうあいつらに目に物を・・・」
「あ、あなたも大変そうね――錬金術って今そんなに冷遇されるものなの?」
勢いよく目を輝かせながら力説するリールーだが言葉尻につれ声が小さくなり最後はぶつぶつと囁くその様子はどす黒いオーラを幻視させる程で目が据わっておりカレンはその様子に恐怖を感じたじろぐ
「――研究職の組合の中では組合員の人口が錬金術教導組合が最も少ないのです。他の組合からは研究職ではなく趣味職を名乗るべきではと笑われる程度には・・・特に薬学組合と加工組合は昔から錬成品について制限を、と煩かったのですが今では憐れまれるほどに・・・あいつらいつか見返してやるんだから・・・」
組合が複合されていた頃から薬学組合と加工組合は錬金術師と折り合いが悪かったのは有名な話で錬金術の初歩ともいえる石の錬成はまんま加工職人と職が被り、ポーションに至っては薬学組合の販売してる薬草の上位互換と揶揄され犬猿の仲だった。
「わ、私も頑張るわ。それで、説明の続きをいいかしら」
「・・・・・はっ、失礼しました。えっと、先の説明から判るように現状世間では錬金術師というと秘薬について研究するのが一般的とされています。ですが実際は秘薬は勿論のこと生命創造や更に数は減りますが黄金錬成の最適化について探求する錬金術師を筆頭とした錬金術師の活動の支援や錬成品の扱い等、また錬金術の悪用を規制したりするのが当錬金術教導組合となります」
「其々具体的に説明しますと、支援については名実共に明らかな方の研究資金の一時貸付や組合員としての在籍年数と位に応じて先駆者の遺産ともいえる資料の閲覧の許可、そして他の組合との揉め事やそれ以外にも困ったことがあれば相談に乗ります」
「資金の貸し出しの具体的な条件はどんなの?」
「下位から最上位まで条件は統一されており研究内容を組合が確認し有益と判断されたら最低金利で貸し出しされます。それでもやはり位の高い方や有力者の推薦状の有無で貸付額の差は異なりますが、上限は金貨10万枚で返済期間は最長で30年ですがそれほどの研究となると極限られており数年に一度あるかどうかという程ですね。この支援を受ける方の殆どが金貨1000枚から1万以内が殆どですね」
「なるほど。私もいつかお世話になるかも」
可能なら早速貸付を利用して工房の足しにと考えていたがルルアに今日着いたばかりで当然有力者の知己も推薦状も無いので早々に諦めた
「はい、お待ちしております。そして資料の閲覧はその通りで先達者の善意により組合に提供された資料の閲覧が可能ですが最低でも組合在籍3年が必要なのでこちらについてはカレンさんは月日を重ねて実績を積むしかありません」
何処の組合、職、民族、国に限らず知識は財産である事に変わりは無く、そんな貴重な財産を無暗にばら撒く阿呆な真似をする組織は存在しない。
組織に属したことのないカレンでも情報の重要性は理解してるので在籍年数に応じての閲覧には納得できる処置だ。
「そして錬成品の扱いについてですが、一部の例外を除いて個人で所有する分には組合は関与しませんが、販売等で公に広めたり依頼者に頼まれた錬成品の確認等、そして組合に実績として提供頂く際にその安全性や品位を組合が保証します。目新しいポーションを完成させても保証が無いと安全面で不安で誰も手に取りませんよね? その不安を払拭して効果を保証致します」
「最後に錬金術の悪用についてですがこれは想像できると思いますが危険物の錬成や非合法、非人道的な実験の取締りですね。組合からのペナルティは勿論、場合によっては国からの厳罰処置も有ります。黄金の錬成など経済の破綻に繋がりますからね、先程の一部の例外というのも危険物等ですね。説明は以上になりますがなにか気になる点はございますか?」
「そうね。工房を持ったら錬成品の販売をしたいのだけど組合の保証があったほうがいいのかしら?」
「カレンさんは商売を考えておられるのですか? それは組合としても喜ばしい事です! その場合販売品は全て組合で事前に調査が必要なので見本の提示をお願いします。後に新商品を開発しても組合の許可が必要となりますので錬成品で商売をする場合は組合への報告を怠らないようお願いします。組合の許可の無い品が販売されてると発覚した場合、営業取り消しもあり得ますので、それと商いをするなら商業組合への登録も必要となりますので事前に販売品の見本を提示頂ければ当組合からの推薦状が発行されるのでそれで手続きを省略できますのでお勧めです」
「そうね、今日はもう時間も遅いし明日錬成品の確認お願いできるかしら? それと錬成したポーションや原石に魔道具の買取はここの組合でも可能かしら?」
「承りました。それでは明日の2時が空いてるので予約を取りますね。買取については品位を確認できた品であれば買取は可能です。勿論当組合で品の確認後別の商店に販売する事も可能ですがカレンさんの場合まだルルアに着いたばかりなので個人商だと買い叩かれる可能性があるのでご検討ください。それでは、身分証の作成も完了しているのでお渡ししますね」
話の締めと同時期に気が付けば機械の作動音も止まっておりリールーが機械から手のひらサイズの硬質な紙の様なものを取り出すと一瞥しそれをカレンに差し出す。
組合の機密情報だがこの身分証作成の神器には虚偽の情報を修正して正しく記載される
それを伝えない理由は発行者の自己認識と実際の能力の差を図る為だがカレンの場合魔道具が得意と記載されていたのに物質錬成は平凡だが逆に製薬が飛びぬけており製薬Bともなれば中位~上位に値するのだがどうやら自己認識が出来てないとリールーに判断される
「お待たせしました、此方がカレンさんの身分証になります。神器で作成されてるので偽造は不可能な一品物で他者の身分証の悪用や不正利用は厳罰が下されます、そして先程も説明しましたが更新には金貨2枚と大金が必要で再発行はとても時間が掛かるので紛失にはお気を付けください」
身分証を受け取ったカレンはまたも軽く衝撃を受けるはめに、身分証というのだからてっきり紙媒体の書類と思っていたのだが差し出されたのは紙の様に薄くはあるが見たことのない材質で頑丈にできており確かにこれは偽造などの類は難しいといえる一品だった。
身分証明書
シャルマーユ皇国
錬金術教導組合ルルア支部所属
氏名:カレン・アシュリー
年齢:24歳
性別:女性
下位錬金術師
物質錬成D 生命錬成F 製薬錬成B
調合C 調理A 料理S
こうして組合に正式に加入した玉兎族のカレン・アシュリーの錬金術としての正道が始まった。