02話 蓄える錬金術師
幻神歴2958年01月25日
テンゲン大樹海を抜けてルルアに向けて出発して早くも2週間が経つがまだ目的地までの三分の一といった進展具合の一向。
理由は2つ。
1つは積み慣れない量を抱えての走行にリリーを気遣ってゆっくりと歩かせて多めに休憩を挟んでいた為と、もう1つは食料の現地徴収だった。
大樹海の麓で補給できた分と家から持ち出せた分合わせても10日分しかなく一月の道程では持ち堪えられないので休憩中に食料になりそうな品を探索しながらの強攻策だった。
それでも食料は尽きて今は雑草のお世話になっているのだが
旅慣れした者がそれを聞けば無謀と笑い退けるが出だしからして予定外の一向は止む無しとしか言えなかったのだ。
既にシャルマーユ国内に踏み込んではいるが地図上ではまだパラミスとの境目に位置する現在地は只管に広大な平原が広がるだけで夜盗や野生の生物に襲われる心配は無いが同時に食料の確保もできないとも言えるが、幸か不幸か彼女とコボルトは野草での食事に慣れていたので食いっぱぐれることは無かった。
繰り返すが食用ではない雑草での食事だ、当然旅の醍醐味たる食事風景も惨憺たる有様だ。
少しでもこの時間を有意義にしたいとコボルトは彼女に町での生活に必要な最低限の常識を説き伏せる
そして今はシャルマーユの硬貨の換金率と相場を説明している。
国が異なれば当然通貨も異なり、国によっては領地毎に貨幣を発行しており市場に出回る硬貨は大量に種類がある。
コボルトもあまり詳しい訳ではないので今まで住んでいたパラミスとこれから住む予定のシャルマーユだけに絞って手元にあるパラミス硬貨を交えての説明中だが流石錬金術を齧ってるだけあって物覚えは良かった。
「つまりパラミス通貨からシャルマーユ通貨への変動率は5%で、この硬貨でシャルマーユ硬貨の銅貨100枚交換してもらうには銅貨が105枚必要なのね。今手元には銅貨320枚と銀貨が86枚、それに金貨が27枚あるから―――これ全部シャルマーユの硬貨に交換したら金貨28枚に銀貨17枚と余りがパラミス銅貨14枚になる訳ね。端数の14枚はどうなるの?」
「ちょっと待て―――ああ、その通りだ。すげぇな暗算かよ。端数は恐らく銅貨1枚引かれて13枚になるか端数の出ないよう銅貨21枚からの換金になるんじゃねぇか? まぁ銅貨や銀貨のが主な利用になるから全部金貨には替えねぇけどな、それに換金の手数料も幾らか取られる筈だ」
まさかの換金後の硬貨の枚数まで即答され慌てて地面で計算を始めるコボルト、そしてその正解に驚かされる
商人を目指すなら暗算できて当たり前だが林檎1つの相場すら知らなかった彼女が驚きの探求力である
ちなみにパラミスもシャルマーユも銅貨50枚で銀貨1枚、銀貨30枚で金貨1枚と違いは無い。
シャルマーユでは更に金貨の上に星金貨があるらしいがパラミスの寒村では存在が噂される程度だった。
一般市民の平均月収が銀貨15枚に銅貨500枚が相場なので約銀貨20枚となり金貨28枚となれば3年半程の収入が目の前にある訳だが当然店を出すにはてんで足りないのでこの時の為に貯めこんだ彼女の錬成した品の出番である
「そう、それで私の用意した品はどれぐらいで売れそうなのかしら」
自分の錬成した品々が幾らで売れるのか、自分の今までの研究の成果が目に見えて判明する瞬間なので喜色満面でコボルトに問いかける
「原石やよくわからねぇ珍品は予想もつかねえがポーションは下級が銅貨30枚で中級が銀貨3枚が相場らしいがそれは売値だからなぁ、中級の他にも上級や最上級があるらしいがそれはあの村では出回ってないから買値は検討つかねぇがお前が錬成したなら下級か良いとこ中級ぐらいだろ」
「そうなの?」
結果はまだ不明だがシャルマーユでも需要が大いにあると知って安堵するがそんな彼女に先に驚かされた仕返しとばかりに嫌味の1つも零すコボルト
「まぁポーションも原石も需要は大きいからシャルマーユでも問題無く売れるだろうよ。ガラクタは別だがな」
「私の努力の結晶をガラクタ扱いしないで! きっとポーションや原石なんて足元にも及ばない高値で売れるわ!」
原石は一部の魔法の行使に利用されるので魔法師の必需品であり、召喚師や幻獣師も契約や使役等に良く利用されており需要は下手な宝石より遥かに大きい。
ポーションに関しても薬草より値は張るが即効性があるのでどちらの品も戦闘職には欠かせない品だ。
「へぇ~、じゃあポーションと原石よりおめぇのガラクタのが総額上回ったら一週間芸で日銭稼いでやるよ。当然おめぇが負けたら一週間芸を披露してもらうぜ」
「え? それはちょっと・・・いえ、大丈夫よ。私は自分の作った魔道具に自信と誇りがあるから平気よ!」
彼女の虚勢にコボルトはどこからそんな自信があるのか不思議でならなかった。
彼女の自慢の品とやらはどれも癖が強く、使い道が限りなく制限される所謂色物の類というのは錬金術には疎いコボルトですら理解できる品々で、もしかして研究職の連中にはその手の物が需要あるのかと勘ぐってしまうほどだが、この賭けに負けた所で今後の資金が増える訳だし勝っても彼女の困った様を拝めるのでどちらでも構わないのだから。
コボルトがどこか遠い目をして結果を予想していると正面に彼女が顔を出しふんすと踏ん反り返るのを見て確信する
(こいつ自分の運の無さにまだ自覚してねぇのか? こりゃ決まりだな)
こうしてふとした切っ掛けでルルアに着いての余興が増えたことに上機嫌になり再びリリーに出発させる
シャルマーユまで予定では3週間程、雑草生活の懸念はあるが順調に一向の道程は進む。
テンゲン大樹海から避難して早一月。自分の工房を構える為にシャルマーユ国領のルルアの町へ向けて出発した一向は目的地まであと1週間程といった距離まで近づき、平原を抜けて山林の街道に合流でき馬車道を進んでいた。
「こりゃあ魔獣どころか大型の野生動物もいないようだな」
平原を抜けて山林に入ってから危険生物からの襲撃に警戒していたのだが魔獣どころか熊や狼といった主だった動物すら一度も見かけず、また痕跡も無く、小動物を多く見掛ける事から安全と判断するが今まで大樹海で生活していた2人はこのような場所で小動物が多く生息しているのにそれらを餌とする捕食者が居ない事に疑問を浮かべる。
「そんな事ありえる? 魔獣は兎も角、狼すら居ないとか、かえって不気味だわ」
「ルルアが近いから街道の安全の為に兵だかなんかが定期的に駆除にきてる・・・もしくは既に粗方駆除しちまったって考えるのが妥当だが、それでも全くの零ってのはなにかカラクリがあるんだろうな。まぁ安全にルルアまで行けるんならなんでもいいじゃねぇか」
「それもそうね」
魔獣は勿論の事、狼すらまともに撃退できない一向には好都合な事この上ない現状に、湧いて出た疑問を退けて昼食の為に馬車を一時馬車道から外し、少し奥へと進めてから停めようとした所でコボルトが花か果物の独特な甘い香りを嗅ぎ付けたというのでコボルトの指示に従い馬車を進めると辺り一面に季節を無視して色鮮やかな観賞用花から香料植物に至るまで多種多様な植物が群生する花畑が一向を出迎えた。
広大なテンゲン大樹海にも探せば何処かにこの様な花畑はあるだろうが2人の住処の周辺には無く、この様な花畑は初めて目にする一向は驚きの余り暫く言葉を発せず見惚れていた。
「へぇ、綺麗なもんだな。果物のが良かったんだが、せめて食えるもんは・・・」
花にあまり関心の沸かないコボルトだが予想外の光景に圧倒されるも感想もそこそこに食用はあるのか彼女に尋ねようと隣へ向くと、口を開いて呆けていた彼女に「おい、どうした?」と軽く揺すると遅れて反応が返ってくる
「―――凄いっ! 凄いわ!!」
外見からは想像もできない、お菓子の山を目の前にした子供の様に両腕を振り回し無邪気にはしゃいでは御者台から飛び降り、花畑に掛けだし花を一つ一つ確認していく。
予想外の反応に一瞬呆気にとられたコボルトだったが気を取り直し彼女の元へ駆け寄り何をそんなに興奮しているのか尋ねる。
今まで一緒に大樹海で生活を共にしてきたが彼女が花にこれほど興味を示したことは無かったのでその女らしい一面を垣間見てからかってやろうと企むが
「花見て喜ぶなんておめぇには似合わねぇな」
「何言ってるのよ! 錬金素材の山よ! これを見て驚かない錬金術師なんて居ないわよ!!」
興奮さながらにコボルトに説明しつつも手は採取に忙しなく動かしており、既に腕一杯に抱えている。
そんな様子を目にして花としてでなく錬金素材として興奮している彼女に「そっちのほうがおめぇらしい」と呟き、御者台に戻って暫く好きにさせようと彼女を観察している。
花畑と荷台を何往復目か数えるのも面倒になった頃に「あんたも手伝って」と彼女に催促され、面倒だから嫌だと断るも食用の花もあると説得され、仕方なくコボルトも付き合うことになり、花畑を発見してからゆうに5時間は過ぎ、空が茜色に染まりかけた所で空腹の限界とのコボルトの訴えを無視し続けた彼女がやっと満足したのか採取を止めて夕餉を取ることにする。
荷台が採取品の追加で山盛りとなっており、コボルトが縄で固定作業をしている間に彼女が調理を進め、久方ぶりの雑草スープ以外の食欲を程よく刺激する香りが鼻腔に届き、コボルトが涎を垂らしながら作業を終わらせ彼女と共に食を満喫する。
「――かぁっ~~。うめえぇ!」
「書物で見知っただけで調理するのは初めてだったけど、会心の出来ね」
スープなのは今までと変わりないが干し草や雑草の時とは比べようのない程味も香りも良く、何種類もの花が煮込まれており具も多く、彼女は一杯御代わりしコボルトは残りを平らげ、家での食事以来初めての充実した食事となった。
「ごちそうさん。いやぁ~、久しぶりのまともな飯で腹一杯だぜ」
「お粗末様。香辛料を種類豊富に錬成してたお陰で想像以上の出来栄えだったわ。ルルアに着くまでの分は十分採取してるから食料についてはもう心配無いわね」
「相変わらずおめぇの料理の腕には関心するぜ。ありがてぇ」
充実した食事のお陰か上機嫌のコボルトは腹を摩りながら食後の一時を満喫しており、滅多に褒める事のない彼が彼女に感謝を述べる。
錬金術に関しては知識も興味も無いコボルトにとって、錬金一筋の彼女の数少ない特技の料理の腕前は素直に凄いと認めている。
仕入れで麓の村に訪れた際に他人の調理した食事を口にする機会があるが同じ料理でも彼女の味には数段劣っており彼女の調理技能をある意味彼女以上に認めていた。
自分の舌が肥えたのは彼女とその姉の振舞う料理のお陰だと自覚できる程に
「錬金術師なら一定以上の調理は出来て当たり前よ。駆け出しの錬金術師や資金の乏しい錬金術師はまず家庭の調理道具で調合するから自然と料理にも精通するものよ。最も錬成の過程で取得する技能だから錬金術師にとっては自慢する程ではないけどね、錬金術は台所で生まれたなんていう通説はそのせいね」
「へぇ~。工房止めて料理屋開いたほうが儲かるんじゃねえか?」
「冗談じゃないわ、私は錬金術師なんだから自分が錬成した品を世間に広めて認められたいのよ。儲けはあくまでその産物ね。それに店を出せる程の料理の専門家には流石に敵わないと思うわよ」
「そんなもんかねぇ、まぁどっちだろうとおめぇさんに頑張って貰わないと俺っちも儲けられねぇんだから応援するぜ。それで、採取した花は素材になるって言ってたがあの花で何ができるんだ?」
「そうねぇ。ローズ、ラベンダー、ジャスミン、ライラック、デイジー、プルメリア、ストック、マグノリア、薔薇、フリージア…他にも幾つか種類は判らないけど珍しいのが有ったから採取したけど殆どが香水にできるわ。一部は香料と茶葉にもなるかしら」
「―――香水だと? おめぇの付けてるその匂いを付けるやつか?」
女性の提案に満足気に腹を摩っていたコボルトが明らかに不満気な顔で睨み返す。
「ええ、今使ってるのはあんたが以前商人から仕入れた品の1つ、伽羅から錬成した香水よ。偶然だろうけど他国の植物だから掘り出し物よ。他にも幾つか珍しい香水を錬成できたからもっと量を仕入れたかったわ」
「けっ、てっきりポーションかもっと売れるもんかと思ったが香水なんて売れねぇもん作ってもしょうがねぇだろ」
コボルトの知る限りでは今指摘した通り、香水は中流階級以上の嗜好品で下流層や村民では需要は殆ど無い。
原因は値段もあるがなにより用途が大きいのだ。
富裕層は香水を嗜好品として付けるが、そうでない者は香水といえば碌に湯浴みも入れない者の体臭隠しの用途に使用されるのが大半だった。町でもない村等ではそんな事に金を掛ける余裕も用途も無く麓の村では需要が皆無だった。
「べっ、別にいいじゃない! 私の自己満足なんだから。それに売れるかどうかまだ判らないじゃない!」
「村で香水付けてる奴なんて会ったことねぇよ。つまり需要がねぇってことだろ?」
「そうなの?」
「ポーションみたいに実用性のあるもんじゃねぇとなぁ、まぁ茶葉が出来るなら俺っちらで使えるからいいけどな」
「それなんだけど、この花畑。間違いなく誰かがエーテルか魔力か、何かしらを施して管理してるのよね」
「・・・は? おいおいまじかよ? 勝手に採取しちまったじゃねぇか・・・」
自身も薄々おかしいとは感じていたがやはりエーテルの類で管理されていたと聞きコボルトは焦りを見せる
農村の畑泥棒でも重罪なのに術士の管理する植物を勝手に採取したとなればどんな厳罰が下るか予想もできず困惑してしまう
「ええ。開花の時期が異なる植物も群生してたのにそれらも全てこの時期に開花させてるなんて魔法か召喚獣等の力が加わってるでしょうね。ただ・・・採取の形跡が無かったから放置されてるか鑑賞目当ての花畑じゃないからしら」
「ふむ、ルルアに着いたらこの花畑についても調べておくか」
彼女の指摘で漸く落ち着きを取り戻したコボルトは場合によっては定期的な収入に繋がると踏んでルルアでこの花畑について調べておくことを心に書き留めておく。
「そうね。一応今後も採取できるよう種は残して採取したから定期的に採取できるなら是非したいところね」
偶然に花畑を発見してから一週間が経ち、食の改善のお陰で残りの道程は快適に進むことができた一向
ルルアが目前とあって馬車道も街道に入り地面も石灰で整えられており反対路線に幾つかの商隊と出くわす事も増え、すれ違いざまにコボルトは気軽に挨拶を交わし、その隣で彼女は小さく会釈する程度だが混乱せずに接する事が出来ているのを眺めてコボルトは安堵する。
「てっきり挙動不審になったり焦るかと思ったが問題無さそうだな」
「当たり前でしょ。対人恐怖症でも無ければ交流が疎い訳じゃないんだから」
「そりゃそうか、これから店構えようってんだから愛想の一つぐらいなきゃな」
(しっかし・・・魔獣や野獣どころか夜盗や追剥ぎの類も出くわさないってのはどうなってんだ? 出会った商隊の護衛振りからその手の連中が居る筈なんだが、俺っちらみたいな護衛も無い馬車なんて絶好の的だろうに)
コボルトが懸念してる間にもルルアの城壁が視界に映り、近づくに連れてその堅牢差を実感させる。
主要都市ではないと聞いていた2人は人口の多い村のようなものと想像していたが、10mはあろうかという高さの石造りの城壁は端が見えず、また経年劣化も見られない事から建造して間もないと思われ、完全に町を囲み込んでいるようで城壁都市そのものだった。
城壁の上には大勢の見張り兵が警邏しており見慣れない兵器も等間隔で設置されている。
城門前には馬車の列が出来ており一向もその列に並び互いに感想を述べる。
「ねぇ、なんか凄い壁があるけど町ってどこもこんなものなの?」
「いやぁ・・・俺っちも町を目にするのは初めてだが、こう、壁に囲われてる町は城塞都市? だったか? そんな感じで首都や主要都市ぐらいの筈なんだが。ここの城壁は最近造られたんじゃねぇか?」
コボルトの予測は当たりで城壁は建設するのに人材と資材、そして途方もない年月と資金が必要なので何処の国でも主要都市しか設置されていなかったのだが、一向がテンゲン大樹海で隠居生活してる間に情勢は大きく変化し、幻魔泣戦で無作為に侵攻を受けた事で主要都市以外の町村にも随時城壁を施工している。
周辺諸国でも抜きんでた大国のシャルマーユでは賢皇の善政により幻魔泣戦で流入した移民を均等に区分けして城壁の建設という仕事を与え世界でも最高水準の国防を発揮している。
2人がルルアについてあれこれ妄想を繰り広げていると帯剣した衛兵が話しかけてきたので妄想を掻き消して対応する
「見かけない顔だな。魔法師、いや、幻獣師か?」
ルルアの人の出入りは盛んで現在目下建築中の北門を除いてこの南門と西門が唯一の通行手段だが市場に直結したこの南門と違い西門は上流階級の屋敷が並んでおり殆どの場合はトラブルを避けるために此方の南門が利用されるので通行人の列は毎日行列ができており効率化の為に事前に並んでる馬車へ要件を訪ね回る。
そして衛兵が見慣れない一向に声を掛ける。
通行目的の内容次第では優先したり場合によっては検挙しなければならないので前もって要件を訪ねるのだが所見の一向に特に警戒する様子は無かった。
「ど、どうも。パラミスから来た錬金術師です、ルルアで工房を開きたくて引っ越してきました」
「あっしは見ての通り幻獣のコボルトで、こいつの姉と契約してるんですが今はこいつの世話してるんで一緒にいる訳でさぁ」
二人の口上を聞いて衛兵が改めて2人を観察するが女性のアイマスクが気になる以外おかしな点は無いので職務を全うする
「パラミスからか。荷台は―――ふむ。怪しい物は無いようだな、組合の身分証を見せてもらえるか?」
女性の恰好から魔法師と睨んでいた衛兵だが錬金術師と正され驚くもそれも僅かで直ぐに職務に戻り荷台を確認する。
兵器等の危険物や輸出入を禁止されてる品の確認目的だが一向の荷台に積まれているのは何かしらの素材と思われる植物と大量のポーションと原石が詰め込まれている袋に錬成物と思われる用途の不明な品ばかりだが禁制の品は無く、植物も麻薬の原料とは明らかに違う事を確認でき完全に警戒を解く。
「隠居生活で組合を知らないの。此処で組合に登録するつもりなのだけど、身分証無いと入れないの?」
「それなら一緒に錬金術師の組合に同行してもらい身分を証明してもらえばいい・・・のだがその前にマスクを外して素顔を見せてもらっても?」
他国から工房を開くほどの優秀な人材が流れてくるのは喜ばしい事で歓迎したい所だがどうしても女性のマスクが気になり職務には無い、個人的な興味で尋ねてしまう。
「外せるならそうしたいのだけどこれ呪いかなにかで外せないの」
女性がマスクを軽くこつきながら衛兵に顔を近づけさせる
実際に確認してもらうほうが確実と判断しての行動だが、念のためフードは目深に被りなおしている。
「ふむ、術具の類か。ちょっと失礼―――確かに外れないな。なら外国からの犯罪者の入国確認の為に体に刺青があるか確認もせねばならんのだが女性ということで組合で其方も確認してもらう」
「ありがと」
女性に促されてついアイマスクに手を向け外そうとするもびくともせず留め具や蔓も無い事から本当に外れない魔道具か術具の類と判断して身分証明は組合に完全に任せる事にした。
詰所には女性の衛兵もいるがどうせ組合へ行かなければならないので身体的証明も組合で行う事にして一向に列から出て先に進むよう促す。
コボルトが前に並んでる列があるのに先に言っていいのか確認するが衛兵は問題無いと一向の馬車と並行して検問所へ着く。
衛兵の一向への待遇は将来有望な人材の確保といった理由もあるが最もな理由は幻獣を連れているのが大きかった。
幻魔泣戦で人類側に立った召喚獣や幻獣は今でも英雄視されており其々の強弱に関係無く人類は召喚獣と幻獣に尊敬の念を抱いており、人々が自然と彼等に優遇するのは当然の事だった。
「商人でないなら積み荷に税は無いから町民以外の通行税に銀貨2枚を2人分必要だが支払いは現物か? パラミス硬貨でも構わんぞ」
「パラミスの硬貨で頼みまさ、それと手持ちのパラミス硬貨をシャルマーユ硬貨に換金したいんですが換金所は何処に有りますかね?」
「――確かに。個人商はこの時間ならもう閉めてるが組合へ向かう道中に公的換金所があるのでそこに案内しよう」
衛兵に先導されルルアに入った一向の最初に視界に入ったのは両脇に所狭しと広がる露店で、活気に溢れており初めて目の当たりにする人込みともうすぐ夕焼けで茜色が目立つ日暮れも合わさり幻想的な光景に言葉もでず女性とコボルトは馬車から右往左往眺めている。
パラミスとシャルマーユでは言語は大差無く僻地の訛り程度の誤差なので会話に支障は無いので市場のやり取りも其処等中から聞こえてくる。
建築物も2人の想像を超えており、木造式が一般だったのは今は昔で何処を見ても石造、大きな建物は煉瓦式で嵌め込み硝子もちらほらと伺え、一向が住んでいた大樹海の掘立小屋や麓の寒村の家と比べるのも烏滸がましい技術力だった。
市場を抜けたところで衛兵がこの先に公的換金所があると言うので換金はコボルトに任せて女性は衛兵と共に馬車で町の観察を続けていたが有ることに気づいて衛兵に話しかける。
「ねぇ、もしかして私の恰好ってそんなに変じゃないのかしら?」
「ん、そうですな。その恰好で魔法師じゃないというのは驚きだったが恰好自体は言っては何だが地味なほうですな、職によっては顔を隠す者も珍しくないので」
衛兵の返答がその通りと言わんばかりに先程から見掛ける人の恰好は男女関係無く奇抜な恰好が目立っており魔法師と見られる人物に至ってはローブはゴシック調に誂えられておりドレスかと見間違う様な服装ばかりだった。
これでは女性の何の変哲もない黒のローブといった恰好は古目立ちはするが十分街中に溶け込めて入るとも判断できる。
そしてコボルトが戻ってくるまで他愛のない会話を続けているとコボルトが店から出てきたので出発の準備に入る
「お待たせ、換金できたぜ。変動率は5%と聞いた通りで変わりなかったが手数料でパラミス銀貨5枚掛かったから、シャルマーユ金貨25枚と銀貨73枚に銅貨が520枚。これが俺っちらの資金だ」
「ご苦労様。後は積み荷が幾らで売れるかが問題ね」
「此処が錬金術師の組合だ、受付の者に事情を説明するからちょっと待っていてくれ」
そういって衛兵が入った建物は新築のようで煉瓦に汚れや傷みの無い綺麗な建築物でルルアに入って見てきた建築物の中でも一回りも二回りも大きい建物で看板には『錬金術教導組合ルルア支部』と記載されており錬金術のシンボルでもあるヘルメス・トリスメギストスのシンボルが色付き硝子で見事に彩られており芸術の一品として素直に凄いと女性は感心し、コボルトはあの硝子はさぞ売れるだろうと打算していた。
コボルトと幾つか感想を言い合ってる間にも数分もしないで衛兵は女性を連れて一向の元へ戻ってきた。
「初めまして。錬金術教導組合ルルア支部で受付員をしているリールー・エイシャと申します。此方の衛兵から事情は伺いました、まずは当組合へ加入とのことで詳しくは中でお話を伺ってもよろしいでしょうか?」
自分と年の差を感じられない程の妙齢な眼鏡を掛けた肩までの流れるような金色のショートカットを揺らしながら利発そうな物腰の落ち着いた女性でリールーと名乗った受付員は女性に手を差し伸べる。
その手を馬車から降りて交わす女性は自分も自己紹介を返す。
「こちらこそ初めまして。パラミスから引っ越してきた錬金術師のカレン・アシュリーよ、よろしくね」
こうして彼女ことカレン・アシュリーの錬金術師としての表舞台での第一歩は始まった。




