第103話 スルトとフリズス
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ。ごほっ、ごほっ。ぜぇ…、ぜぇ…」
オリエンテーリングのゴール地点。
ノバクが大の字に地面に倒れている。
このゴール地点はスタート地点とは別の森の出入口に設けられているので、今も森を包んでいる闇のドームの影響下からは抜け出している状況だ。
もう1人で立つ力も残っていないノバクは、土で汚れることを考えることすらできないほどに消耗し切っているように見えた。
このオリエンテーリング、ノバクの役割はただ走って付いてくることだけだったが、昨日までのノバクならギリギリ付いてこれないくらいの設定をアカシャがしていた。
つまり、何とかオレ達にちぎられずにゴールできたということは、ノバクは自分の限界を超えた力を出したということだ。
オレの知っていた今までのノバクなら、途中で諦めていただろう。
こいつは、本当に変わったのかもしれないな。
「やるじゃん。ナイスファイト、ノバク」
オレはニヤリと笑ってノバクに声をかけた。
「正直、あの速度で付いてこれるとは思わなかったわ」
「そうだね」
ネリーとアレクも優しい言葉ってわけじゃないけど、ノバクを認めるようなことを言う。
「よく頑張られました、ノバク様。さぁ、手を…」
ミカエル、なんていいヤツなんだ。
1人では立つこともできないノバクに手を差し出してあげるなんて。
いくらノバクに理不尽な目に合わせられた経験がないとはいえ、今のノバクに以前と変わらない態度を取れるのは、もはや聖人だろ。
「ぜぇ、ぜぇ…。くそ…。化物どもめ、ほとんど汗すらかいていないではないか…。はぁ、はぁ」
ミカエルに助け起こされ、肩を貸してもらっているノバクが自分以外の4人にそんなことを言う。
「そういう割には、悔しさより達成感が上って顔してるぜ」
オレはいたずらっぽく笑って、ノバクをいじるように言う。
この時、観客席で生中継を見ていたノバクの姉のペトラが、音が鳴るほどに歯を食いしばったらしい。
後になって、アカシャが教えてくれた。
「そんなことより、セイ。そろそろ『晦冥』の効果を消さないと、この後のスケジュールが狂ってしまうよ」
オレの言葉に驚いて自分の顔を触り始めたノバクを放っておいて、アレクがオレに教えてくれる。
確かにそうだ。人によっては、『晦冥』の中では明かりとなる魔法すら出せないからな。いつまで経ってもゴールできないチームが出てくるかもしれない。
「おお、そうだな。サンキュー、アレク。…ほいっと」
魔法を解除すると、森にかかっていた黒いドームが消え失せる。
これで後続も普通にゴールを目指すことができるようになるだろう。
しばらくしてスタン達のスルト(ヘニル地方)が2位でゴールをして、スタンが散々オレに文句を言ってきた時、アカシャから報告があった。
『ご主人様。フリズス王が秘密裏にスルトと連絡を取ると申しております。連絡・接触手段はこちらに任せる模様』
なるほど。
他の大国を裏切ってこちらに付くつもりか?
確実に他に気取られずに連絡を取りたいってことだよな。
連絡を取るのは確定だろうけど、まずはミロシュ様とジョアンさんと相談するか。
オレはポケットの中に手を突っ込み、その中で空間収納の魔法を使って念話機を取り出し、ミロシュ様とジョアンさんに連絡を取った。
でも…。4大国は同盟の合意の際、その場で"契約"を交わしていた。
どうやってそこをすり抜けるつもりだ?
①4大国はスルトを打倒するまで敵対関係をとらない。
②4大国は互いに裏切ってはならない。
③4大国はスルトとの戦争の際、戦力を惜しむことを禁ずる。
おおまかに言えば、こんな"契約"だった。
最初から抜け道は残して契約してあるんだろうけど、裏切れないはず…。
いや。もし現時点で必ず裏切るって決めていれば、フリズス王はすでに死んでいるのか。
つまり、そうではないということ。
やっぱりオレだけじゃよく分からないな。
仲間達とよく話し合わないと。
すぐにオレ達はジョアンさん達と合流し、会議を始めた。
国際大会初日。
オリエンテーリング種目で全学年においてスルトが圧勝し、多くの中立国がスルトに付くことを決めた日の夜。
スルトとフリズスは、歴史的な秘密の会合を行った。




