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異世界のヤツらに情報を制するものが世界を制するって教えてやんよ!  作者: 新開コウ
第2章 学園の支配者

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第98話 "穿突"

 私は進軍を始めたヘニル軍中央やや後方で、それを見ていた。



「くっ! ネリー・トンプソン、『赤鬼』の孫…。まさか、最初からこれを狙って?」



 周りに何人かいる、使い物にならなくなった熟練の魔法使い達を見て悪態をつく。


『赤鬼』ガエル・トンプソンの孫、ネリー・トンプソン。


 その存在は国際大会の際の鑑定によって分かっていた。


 しかし、なぜ今になって、当時戦争に参加していた者達がここまでおびえるのか。



「ああ、同じだ…。全てが…。あの時と!」



 父上よりも明らかに年上の貴族が、地面に膝をついてガチガチと歯を鳴らしながら震えている。


 同じ?


 あの戦争の時の『赤鬼』と似ているということか?



「落ち着け! あれは『赤鬼』ではない! よく見ろ、性別すら違うであろう!」


「ダメだ…。また私達は、あそこから一歩も先には進めないんだ…」


「同じだ、あの時と…」



 私は周りに向かって精一杯叫んだが、恐慌状態の貴族達は同じようなことを繰り返すだけで、聞く耳を持たない。


 全力で後ろに向かって逃亡を始めた者すらいる。



「ほっとけ、スタン坊っちゃん! あれを仕留めるぞ!」


きょは突かれたけれど、前に出てくるなら狙わせてもらうわよ」



 声の方向を見ると、『弐天にてん』ヤニク・イスナーと『肆天してん』カロリナ・アザレンカがトンプソンに向かって走りながら、ジャンプして射線を確保するところだった。


 2人ともすでに、それぞれ"水纏みずまとい"と"土纏つちまとい"を使っている。


 私は歴戦の2人に対して出遅れを感じながら、"風纏かぜまとい"を使うべく胸に手を当てた。


 トンプソンは何か大きな魔法を撃とうとしているようだ。


 驚くべきことにドラゴンを従えているようで、ドラゴンまで炎を纏っている。


 そのトンプソンに向け、ヤニクとカロリナは攻撃を放った。


 ヤニクの飛ぶ斬撃とカロリナの土魔法は、ヘニル兵の頭上を超えてトンプソンに迫ったが、あえなく防がれてしまう。



「ちっ。込める魔力が足りなかったぜ」


「仕方ないでしょう。こちらの攻撃が先に通るようにしなきゃいけなかったんだから」



 着地するや、再びトンプソンに向かって走り始めるヤニクにカロリナ。


 "風纏"を発動した私も、彼らに合流する。



「でかいのが来るぞ! 守りを固めねば!」


「防御は他に任せろ。俺達は突破するため以外に魔力を使う余裕はねぇ」



 私の言葉にヤニクがすぐさま反応する。


 それが正論であることに歯噛はがみした。


 私はただ、民を守りたいだけなのに…。



「「「防御態勢ー!!」」」



 我が軍の指揮官たちの必死な声が響いた。





 トンプソンの攻撃による土煙が晴れ始めた時、私達は前線まで位置を上げていた。


 そこら中に一般兵が倒れているが、どうやら死者は限りなく少ないようだった。

 倒れている者達は、魔道具での防御魔法で魔力を使い果たして、気絶したのだ。

 これが一般兵の役割。仕方あるまい。


 これで我々が、魔力を大きく減らしたであろうトンプソンと、共にいるズベレフと妖精ベイラを討てば勝利への道が拓けるかもしれぬ。


 しかし、あのセイ・ワトスンはどこに…?


 私がそう思った時、周りの喧騒けんそうに違和感を感じたのか、ふと上を見上げたヤニクが突然立ち止まった。



「おいおい。嘘だろう…? 『大賢者』は出てこないんじゃねぇのかい…」



 ヤニクがなか呆然ぼうぜんとしてつぶやいた言葉を聞いて、私とカロリナも弾かれるように空を見上げた。



「な!? いったい、いつの間に…?」



 カロリナが驚くように、空にはとても短時間で用意できるとは思えないほどの、無数の火球が展開されていた。


 はるか上空。

 おそらく、ギリギリ索敵の外側で。



「……セイッ、ワトスン…!!」



 強化した視力で、火球を展開している魔法使いを視認した私は驚愕した。

 あれは大賢者ではない。

 私の知っている、極めて危険な魔法使いだ。


 何となく、ヤツと目が合った気がした。



「ぼっ、ぼっ、防御態勢ーーー!!!」



 近くにいた指揮官の一人が、半狂乱になりながら叫ぶ。



「落ち着け!! この距離だ、絶対に防御魔法は間に合う!! できるだけまとまって、確実に受けきれる強度で展開しろ!」



 私はすぐに補足を叫んだ。


 まるでそれが合図だったかのように、炎の雨が降下を始める。


 ヤニクが無精髭面ぶしょうひげづらでニヤッと笑って、肩を組んできた。

 私は纏の風を弱める。しかし、私の肩は彼の水でビチャビチャだ。


 この時間がないときに、何をするのだこの男は。


 さすがに数が多すぎる。

 私達も防御魔法を使わざるを得ないだろう。


 私は防御魔法の詠唱を開始しながら、不満顔でヤニクを見た。



「いい判断だ、スタン様。この攻撃をやり過ごしたら、俺達は空にあがる。敵は判断を誤った。魔力を浪費したこのタイミングで、あの魔法使いを仕留める」



 ヤニクはそう語って、カロリナを見た。



「はいはい。私は『赤鬼の孫』達をやればいいんでしょ? 『鑑定』のデータ通りなら、私1人で十分よ」



 そう言ったカロリナを私も見る。


 茶色に近い長い金髪をたなびかせる、妖艶ようえんな美女だ。

 纏の土がよろいのように体をおおっているのだが、それでも妙な色気がある。


『鑑定』通りなら先程の攻撃はなかったはずだ、という言葉を私は飲み込んで、空に手をかざす。


 そんなことを『肆天してん』である彼女が分からないはずがないからだ。


 ヤニクとカロリナも空に手をかざし、防御魔法を使う。


 私達の周囲にわんを被せたように、防御魔法が多重に張られた。



「『肆』のやつも分かってるみてぇだが、空にいるガキはヤバい。この魔法、昔ちょっとだけ見た『大賢者』の魔法にそっくりだ」



 ヤニクの言葉と一緒に、炎の雨が降り始める。


 幸い、炎の玉1つあたりの威力は大したことはないらしい。


 これなら、直撃でもしない限りは問題ないだろう。



「ごあっ」



 そんな私の思いも裏腹に、遠くから不穏な叫び声が聞こえてくる。


 炎の雨が降り終えたとき、両の足で立つ者の数はおびただしく減っていた。


 少なくとも私達の周りでは、ほとんど死んだものがいないにも関わらずだ。


 まるでこれが狙いだったかのように、一般兵の多くが魔力切れで昏倒こんとうしている。


 トンプソンの攻撃で先に気絶していた一般兵達も無事だ。

 周りの者達に守られた者も多くいたが、大部分は()()()()()()()()()()()()()


 気持ち悪い。

 浮遊大陸での暗殺、今、おそらくイディさんでも、ヤツが関わったときに必ず感じるこの気持ち悪さはなんだ…。


 まるで、やろうと思えばいつでも……。



「行くぞ」



 組まれたままになっていた肩を力強く離されたことで、ハッと現実に戻ってくる。


 そうだ。推測をしても、今更やることは変わらない。


 私はヤニクに対してうなずき、"浮遊"を使った。



「お互い生きていたら、あの国境砦を落とす時に会いましょう」



 口角を上げたカロリナがクイッと首を動かして、トンプソン達のはるか後ろに立つ国境砦をした。


 まったく。

 本気なのだろうが、冗談のようだな。



「ふっ。修行に付き合ってくれたこと、感謝する。国境砦で会おう」


「ふふ。期待してるわ」


今生こんじょうの別れみたいな言い方すんじゃねぇよ。俺は相手が何だろうが切るつもりだぜ」



 私とカロリナの会話を聞きながら、ガシガシとボサボサの頭をいたヤニクも、ひとこと言って飛び上がる。


 私とヤニクはセイ・ワトスンに向かって飛び、カロリナはトンプソン達に向かってけていった。





「いいか、これはチャンスだ。ヤツがどんなに強くても、さっきの魔法で大量の魔力を使ってることは間違いない。魔力消費が低くて殺傷力の高い魔法で攻めろ」


「難しい注文をする!」



 ヤニクは剣を抜いて、弓を引き絞るような突きの構えを取りながら私に注文をつけてくる。


 基本的には、魔力を多く込めた方が威力が高まると言うのに。


 しかし、我々の勝利条件を考えるといたかたない。


 同じ風でも、吹き飛ばす風よりも切り裂く風の方が殺傷力は高い。

 やりようはあるということだ。


 腰に刺していた杖を取り出し、イメージする。


 ヤツを上から下へ、切り裂くような風のイメージ。

 さらにできる限り圧縮して威力を高める。

 新たに生み出すのではなく、纏った風を飛ばす。


 上空のセイ・ワトスンは近付いて来る私達を見て、背中から真っ赤に輝く剣を抜いた。

 弓を引き絞るように突きの構えを取って私達を待ち構えている。


 ヤニクの構えと同じ!?



「気にするな! やるぞ!」



 ヤニクはそう言ってさらに右手を引き絞って力を込めた。


 私も杖を持った右手をかかげる。



「"穿突せんとつ"!!」


「"風裂斬ふうれつざん"!!」



 ヤニクが剣を突き出し、私が杖を振り下ろして魔法を発動する。


 強烈な威力の水の槍と風の剣が、セイ・ワトスンめがけて空気を切り裂く音を鳴らしながら飛んでいった。


 セイ・ワトスンもヤニクと同じように、さらに右手を引き絞って力を込めている。


 嫌な予感しかしない。



「"()()穿突"!!」



 そう"宣誓"して放たれたセイ・ワトスンの神速の突きは、それだけとってもヤニクを明らかに上回っていた。


 凶悪な炎の槍が突き降ろされ、私達が放った魔法と正面から衝突する。


 ぶつかった魔法は大きな爆発を起こし、爆風が私の元までやってくる。



「やあ。久しぶり、スタン。それに、『弐天』ヤニク・イスナー。初めまして」



 余裕。


 ただそれしか感じられないような自然体な声。


 いつの間にか私達の元まで降りてきていたセイ・ワトスンは、まるで友達に会いに来たような気軽な挨拶をしてきた。


 言葉を返すことすらできずに冷や汗をかく私の横で、驚愕の

 表情をしたヤニクが口を開いた。



師匠ししょう…」



 ………師匠?


 ヤツが関わるといつもこうだ。


 意味が分からない。







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