第99話 弟弟子
師匠、か。
ひと目見ただけで分かるとは、さすがだな。
確かに、オレが使っている剣術の型は『弐天』ヤニク・イスナーの師匠の物だ。
この世界にある、魔法と併用した剣術の中から、オレがイメージしやすい物をアカシャにいくつか選んでもらって、決めたのがこれだ。
イメージだけは真似出来ないから、オリジナルだけどね。
ちらりとバビブ3兄弟達の動きを確認する。
スタン達がすぐに攻めて来ないなら、少し時間稼ぎをするか。
「驚きましたか? 師匠そっくりでしょう。オレはあなたの弟弟子ということです」
オレは『弐天』に笑いかける。
いつ攻撃されても完璧に対応できるよう切り札を使っているが、敵2人の身体情報を視る限り、今すぐ攻撃してくることはなさそうだ。
『ヤニク・イスナーは驚愕と困惑、スタン・バウティスタは警戒と困惑といったところでしょうか?』
『ああ。オレもそう思う』
アカシャが2人の身体情報から心理状態を推測した。
感情については自信がないからか、答え合わせがしたそうな口調だった。
たぶん、合ってると思う。表情的にもそんな感じだし。
「お前が、俺の弟弟子だと? ありえねぇだろ。師匠は、お前くらいの年齢のヤツが赤ん坊の頃に亡くなった」
『弐天』がいつもの飄々とした感じとは違った、険しい表情で言う。
そうだね。直接教わったことはない。
でも、動きをトレースさせてもらったから、師匠みたいなものだとは思っている。
「そうかもしれませんが、オレが師匠に剣を教わったことに変わりはないです」
そこまで言った時、スタンの身体情報に動きがあった。
心理状態はおそらく、覚悟。
直後、スタンの風纏にも変化が出る。
オレはその場でジャンプをした後、魔法で出していた足場を消し、"浮遊"に切り替える。
細かい動きをしたい時は浮遊の魔法の方が便利だ。
先程までオレの首があった位置を風の刃が通り過ぎる。
さらに追って放たれた3つの風の刃が襲って来たが、少しだけ位置を調整することで回避した。
アカシャのおかげで安全地帯は見えているからな。
「誰であろうと切る! そうだろう、ヤニク!」
一旦攻撃を止めたスタンが叫ぶ。
その声を聞いてだろう、『弐天』の身体情報が急激に変わった。
こちらもやはり、覚悟とか決意とかそういった心理状態に変わったに違いない。
『弐天』の持つ日本刀みたいな剣に水が結集していく。
構えからみると"一閃"。いや、溜めや筋肉の強張りが違うから"連閃"か。
「"連閃"」
『弐天』は"宣誓"と共に抜刀。
"一閃"ほど全力で振り切らないことで、その後返す刀で飛ぶ斬撃をいくつも生み出す。
刀を振り始める直前に身体情報から斬撃の軌道と規模を予測。
安全地帯に動き始める。
振り始めた瞬間に確定。予測通り。
回避完了。
次の斬撃の回避準備。
そうやって、全ての飛ぶ斬撃を最小限の動きで回避していく。
スタンも追撃に加わって風の刃を飛ばしてくるが、同じだ。
安全地帯がなくなるような場所に回避しないようにだけ、気をつけないとだな。
「くっ、これならどうだ!!」
焦れたスタンが、魔力の温存を諦めて面攻撃を仕掛けてきた。
横向きにした竜巻のような攻撃。
もし無防備な状態で直撃すればズタズタだっただろう。
でも、竜巻が発生した直後にはオレはすでに別の空域にいた。
再び透明な足場を空中に作り出し、それを蹴って大きく横に移動したからだ。
空中で急に高速移動したいときは、浮遊魔法よりこの方法の方が速い。
仕切り直すのか、移動した先に2人からの追撃はなかった。
「スタン様、すまねぇ。アイツの剣があんまりにも師匠そのまんまで面食らっちまった」
『弐天』がスタンに声をかけた。
弟子どうこうより、師匠と全く剣筋が同じだったことの方に動揺していたらしい。
「気にするな。しかし、どうする? 今ので分かったであろう。あれは魔力を温存しながら勝てる相手ではないぞ」
スタンは魔力の温存を止めるつもりのようだ。
いよいよ全力でくるのかな。
「そうだなぁ。『刹那』持ちと戦ってるみたいな感覚だ。後のことを気にするのは止めるしかねぇな」
『弐天』は溜め息を付きながら正眼に剣を構える。
彼の水纏から無数の水球が分離して空中に漂い、形を変えて無数の水の剣になっていく。
「オレを倒しても、魔力を温存できないなら戦争はスルトの勝ちだ。分かってるんでしょう? これが最後の忠告です。今すぐ撤退してください」
オレは、半ば答えが分かっている忠告をした。
「全力でお前を倒す。運良く魔力が残れば、ヘニルの勝ちも見えてくる」
『弐天』が答える。
「スタン…」
「くどい! 私の答えもヤニクと同じだ!」
スタンの方を見ると、聞くまでもなく即答された。
風纏の風がいっそう強く吹き荒れている。
『仕方ありませんね。情報が足りていないから、奇跡に縋ろうとするのです』
切り札で同化しているアカシャが、容赦のない感想を言う。
でもまぁ、そういうことだよな。
「そうか。仕方ない。来いよ、分かりやすく叩き潰してやる」
オレも炎纏の火力を上げ、2人に手招きする。
炎纏の炎の色が、不完全燃焼のオレンジから、完全燃焼の青に変わっていく。
情報を支配すれば、戦う前から勝っている。
それを結果で証明しよう。




