第81話 生徒会長選挙
12月半ば、1週間後に後期中間試験を控えた今日、ついに生徒会長選挙が行われる。
選挙といっても、来年度に直系の王族が最終7学年に上がる年には、その王族が生徒会長を務めるというのがスルティア学園の伝統だ。
つまり、次の生徒会長はペトラ殿下で確定で、選挙とは名ばかりの就任式が行われる段取りとなる。
選挙は10時から式典の間で行われる。
生徒は教室からではなく、寮から直接向かうことになっているので、オレ達はいつもの3人+ベイラで9時半ごろに式典の間に入った。
入学式の時と変わらず、とても高いホールの天井からは燭台シャンデリアが吊るされ、部屋の壁にはステンドグラスが美しく並べられている。
燭台シャンデリアに灯るオレンジの光が適度な薄暗さを保ち、この部屋の幻想的とすら言える美しさを演出していた。
大きく変わったのは、今はスルティアがオレ達の仲間だということ。
『相変わらず綺麗だな。ここは』
オレは一緒にいる皆とスルティアに向けて念話をした。
当然、目の魔法陣が見えないように透明化の魔法も同時に使っている。
仲間も今は全員同じことができる。
サングラスなしでも気軽に魔法が使えるのは色々と便利だ。
『そうじゃろう、そうじゃろう。もっと褒めてもいいんじゃぞ』
スルティアがドヤ声をだす。
その声に合わせて、燭台シャンデリアとステンドグラスが色とりどりに変わっていった。
『周りの生徒達が驚いているよ、スルティア。遊ぶのも程々にね』
アレクがスルティアをたしなめる。
いつになく激しく起こる『色が変わる燭台シャンデリアとステンドグラス』に周りがざわついていた。
『はは。ちょっとくらいいいじゃろ。お主達と会って以来楽しくてのう。ところで、ネリーは朝から静か過ぎるが、体調でも悪いのか?』
スルティアは軽い調子で話しながらネリーを気遣う。
お前もうすうす気付いてんだろ…。体調とかじゃねーよ。
『……。しゃべると、べんきょう、忘れそうで…』
いつもの元気さが見る影もないネリーは、瞳のハイライトが消えた無惨な顔で、消え入るような声を出した。
『酷すぎてイジる気にもならないの…』
ネリーの頭の上に座るベイラが、どうしようもない人を見るような目をして言う。
肩をすくめながら両手を広げて首を振るジェスチャー付きだ。
試験まで残り1週間、ネリーは苦手の筆記を克服するため猛勉強中だ。
1軍への昇格のためには、筆記試験でもある程度の点数はとっておく必要がある。
実技は全員余裕なのだが、オレとアレクは筆記も余裕だ。
自分だけが2軍に取り残される可能性をネリーは何より恐れているらしく、鬼気迫るほど頑張って勉強している。
『アカシャ、この場でもネリーに勉強教えてやってくれ』
『かしこまりました』
オレはこの式の間もネリーが勉強できるよう、アカシャに頼んだ。
アカシャなら上手くやってくれるだろう。
オレも生まれてからしばらくはアカシャのスパルタ教育を受けたものだ…。
遠い目をしながら過去を思い出す。
『お、おてやわらかにお願いします…』
『無理です。あなたは手加減してどうにかなる相手ではありません。私の全力をもってお相手いたします』
『ひ、ひいぃぃ…』
ネリーが手加減する様子のないアカシャに怯える。
アカシャにあそこまで言わせるとは、ネリー恐るべし…。
『やはり勉強のせいじゃったか…。まぁ、元気そうでなによりじゃ。ん? セイ、ノバクの小僧が近づいて来とるぞ』
スルティアにはネリーが元気そうに見えたらしい。
オレがそのことに驚愕していると、スルティアがノバクがこちらに向かってきていることを教えてくれた。
アカシャはネリーの学力の向上に比べれば、ノバクの接近など些事だと思っているのか、報告がなかった。
オレも今はネリーが最優先だと思うから、いいんだけど。
「ワトスン、貴様が調子に乗っていられるのも今日までだ。姉上が生徒会長となった後は、貴族のみに居心地が良い学園が作られる」
ノバクがいつものようにパブロ・ペールとテイラー・デミノールを従えてやってきて、ニヤニヤしながらオレに言葉をかけてくる。
今日は機嫌がいいらしい。
わざわざこんなことを言いに来るなんて、1周回ってオレのこと好きなんじゃないかコイツは。
テイラー・デミノールのオレを見る目が、前のようにバカにしたようなものから憎いものを見るものに変わったように感じる。
父親のジョーダン・デミノールからスラムのことでも聞いたんだろうな。
そのこと自体はアカシャから聞いてはいないが、あの1件以来デミノール家の力がかなり下がっていることは聞いている。
「おはようございます、ノバク殿下。1つお聞きしたいのですが、あなた方は最終的にどうしたいのですか? 平民を皆殺しにでもするつもりでしょうか」
オレは少し皮肉を込めながら聞いた。
さすがに皆殺しは冗談だけど、これは前から気になっていたことだ。
コイツらが平民を排除したいことは知っているが、ゴールがどこにあるかは知らない。
なぜか誰とも、それについて話したことがないのだ。
ノバクの個人的な意見でいい。それを聞いてみたくなった。
「そんなことをするつもりはない。分をわきまえて生きよということだ。例えば、国の最高学府であるこのスルティア学園は、貴族だけの学園であるべきだ。平民がしゃしゃるな。平民は貴族の命だけこなしていれば良い」
ノバクは得意げに、自分が正しいと信じ切っている様子でそう語った。
なるほどなぁ。
母親から洗脳に近い教育を受け続けてきた結果、ノバクの中でこういう結論が出たってとこだろうか。
「なるほど。それが殿下のお考えですか。例えばですが、もし殿下が望まれるのであれば、私は殿下の下で尽力し、国をより発展させる一助となるよう努めます。それではいけないのでしょうか?」
オレはノバクに最後通牒のつもりで聞いてみた。
答えは想像できるけれど、できることなら揉めずに楽しく過ごしたい。
例えばノバクが、現スルト王でいうところの大賢者のようにオレを扱ってくれるのであれば、喜んでノバクの下で働く。
「平民が国政の手伝いなど、余計なことはしなくてよい。しゃしゃるなと言ったであろう」
ノバクは不快感を顔に出して答えた。
そうだろうな。
平民を重用するなど言語道断だと、生まれたときからずっとずっと刷り込まれて育ってきたんだ。
言葉自体はムカつくけど、少しだけ同情するよ。
「そうおっしゃると思っていました。残念です。どうやら、お父上からは何も聞かされていないようですね。今日以降に作られるのは、貴族のみに居心地が良い学園ではありません。強い学園です。生徒会長選挙、楽しみにしていて下さい」
オレはノバクに笑いかけながら喧嘩を売った。
ノバクが王から何も聞かされていないことは当然知ってたけど、あえて言った。
今日の生徒会長選挙、王と学園長と宰相と相談し、すでに段取りは決まっている。
知っているのは仲間達と、エレーナ先輩を始めとする他何人かだけだ。
ノバクとペトラ殿下の望みは、実現させない。




