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異世界のヤツらに情報を制するものが世界を制するって教えてやんよ!  作者: 新開コウ
第2章 学園の支配者

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第80話 ペトラ殿下

「あー、疲れた…。限界ピッタリまで修行ちたの」



 ベイラがネリーの頭の上にダラっと寝そべりながら、疲れた声を出す。


 やはり真っ暗になる直前、森から寮に帰る途中のようだ。



「でも、全然足りない。セイに僕達が加われば、大賢者様にも勝てるというところまで強くならないと…」



 アレクは真面目だねぇ。

 確かにそれができれば、王はオレを始末することを諦めるだろうな。



「そうね! 早く強くなって私達がセイを守るわよ!」



 ネリーが元気よく威勢のいいことを言う。



「はぁ。仕方ないの。付き合ってやるの…」



 寝そべったまま、ベイラが言う。


 ベイラはなんだかんだ言いつつ、仲間への情が厚いからな。


 たぶんこの辺、実際にはスルティアとの念話もしてたんだろうけど、今回は念話の内容は拾っていないらしい。



「ん? あれは…」



 校舎付近まで戻ってきたところでアレクが、同じように校舎に戻ってくる集団を見つけて声を上げた。



「げっ。嫌なヤツがいるの。確かペトラとかいう王族なの」



 ネリーの頭の上に寝そべったベイラが、アレクの視線の先を見て嫌な顔をする。


 そういえば、ベイラはオレと一緒にペトラ殿下に会ったことがあったな。



「第1王女のペトラ殿下ね。向こうもこちらに気づいたみたいよ」



 ネリーもペトラ殿下達の方を見て言う。


 どうやらペトラ殿下はアレク達と接触することにしたようだ。

 王族を無視するわけにもいかない。

 みんなもペトラ殿下に挨拶をしに行くことを決めた。



「こんにちは、ペトラ殿下。このような時間帯に外にいらっしゃるのは珍しいですね」



 アレクが簡単に挨拶をする。

 ネリーも後に続いた。



「ごきげんよう、ズベレフ、トンプソン。私もたまには狩りをするのよ。あなた達こそ、あの元平民と一緒ではないのは珍しいわね」



 高圧的な口調。

 腰まで届く長く艶のある黒髪。ノバクとそっくりな、つり上がった緑の目。

 ノバクと同腹の姉、ペトラ殿下もアレクとネリーに挨拶した。


 ネリーは無視されるかと思ったけれど、家の爵位が上がったからか、ちゃんと挨拶をしてもらえたようだ。



「セイは今日は別行動です。途中までは一緒でしたけどね」



 いつもニコニコしている天使のアレクが、少し顔をしかめて返事をした。


 ベイラはネリーの頭の上で吐き気がするかのような顔をしている。



「そう。ちょうどいいわ。ズベレフ、これからは元平民とは縁を切りなさい。私の派閥で可愛がってあげる。家柄、実力、財力など、どれをとっても今のあなたなら相応ふさわしい。私の婿候補にしてあげてもいいわ」



 ペトラ殿下は自分の言葉に酔っているような調子で、饒舌じょうぜつに語る。


 おいおい。天使アレクはお前のようなヤツにはやらんぞ。

 この後アレクが喧嘩売ること知ってるからいいけど、そうでなければ戦争だ。



「光栄なことですが、お断りいたします。セイと縁を切るなど、有り得ません」



 アレクはわずかの逡巡しゅんじゅんもなく、笑みを浮かべて返事をした。


 王族に重用ちょうようしてやると言われて、それでもなお一切考えることもなかったアレクの言葉に胸が熱くなる。



「なっ!? ペトラ殿下の誘いを断るなど、不敬であろう!」



 ペトラ殿下の後ろに付き従っていた集団の中の1人が声を上げた。


 それに対してアレクは一切反応することなく、笑みを浮かべたまま無視を決め込んでいる。


 普段の天使スマイルの印象が強いだけに、ちょっと怖い。



「…っ。トンプソンはどうかしら。あなたもズベレフと一緒に私の派閥に入れてあげてもいいのよ」



 ペトラ殿下はアレクに対してすぐには次に続ける言葉が思い浮かばなかったのだろう。

 今度はネリーに声をかけた。



「申し訳ございません。私も、セイと縁を切らなければならないのでしたら、遠慮いたします」



 ネリーは申し訳無さそうに、でもハッキリと断った。

 ベイラが頭の上で、うんうんとうなずいている。


 大好きな友人達は、たとえ王族相手でもオレをかばってくれるんだな。

 少し目頭が熱くなるのを感じる。



「セイも重用していただけるのでしたら、改めて考えさせていただきます」



 アレクがそう付け加える。


 ペトラ殿下の顔が引きつった。



「…っっ。私より平民を選んだこと、後悔することになるわよ。もうすぐ私が生徒会長になる。そうしたら、あなた達の立場は地に落ちるわ」



 ペトラ殿下は怒りで叫びだしそうになるのをこらえたように一拍置いた後、冷静とは程遠い様子で、しかし静かに言った。



「生徒会は今でも掌握しているのでしょう? 今まで以上にできることがあるのですか?」



 アレクがニコニコしながら、喧嘩を売っているような言葉を放った。


『完全記憶』を持つアレクはオレが話したことのある情報は全て覚えている。

 入学のときのかたよったクラス分け、国際大会に1軍しか出られないルールなどに生徒会が一役ひとやく買っていたことを揶揄やゆしたのだろう。



「ちょっと強くなったくらいで、調子に乗るなよ! ズベレフ!!」



 ついに我慢できなくなったのか、ペトラ殿下は鬼のような形相ぎょうそうになり、荒い言葉遣いで叫んだ。


 ペトラ殿下の後ろにいた集団も、いつでも飛びかかると言わんばかりに身構える。


 だが、練度が違いすぎる。


 集団が身構えたときには、アレクもネリーもベイラも、おそらくスルティアも、いつ何が起こっても対応できる態勢になっていた。


 たかだか十数人、この程度のヤツらなら一瞬で制圧できるだろう。



「強さは関係ない。相手が誰であっても、いついかなる時でも、僕はセイの味方だ」



 アレク…。

 感情のこもった言葉を聞いて、オレは目がうるんだ。



「必ず、後悔させてやるわ。覚えていなさい」



 ペトラ殿下は憎しみにあふれた言葉を残し、集団を引き連れて去っていった。


 それを見送った後、アレクがネリー達に謝った。



「巻き込んじゃって、ごめん。我慢できなくて喧嘩売っちゃった」



 あまり申し訳無さそうではない。

 どちらかと言えば、テヘッやっちまったぜって感じに見える。



「いいわよ。アレクがやらなきゃ私がやってたわ」


「セイがいたら止められてたから、むしろよくやったの」



 ネリーとベイラも全く気にしていないらしい。



「君たちなら、そう言うと思ってたよ」



 アレクが天使スマイルを見せた。






『以上です。アレクは素晴らしい。わたくしはすでに5回見返しました』



 ノーリー研から自室に帰る途中。


 映像を見せてくれたアカシャが、珍しく興奮気味に念話をしてきた。

 アレクの言葉がよほど嬉しかったのだろう。



『分かる。オレも嬉しいよ』



 ペトラ殿下に喧嘩売ったといっても、理由が全部オレかよ。


 最初はなんでそうなったと思ったけど、ありがたすぎて怒る気には全くならないな。



『スルティア、今ちょっといいか? 話したいことがある』



 歩きながら、スルティアに念話をする。

 あいつには許可をとらないといけないからな。


 アレクがあそこまで言ってくれたんだ。

 オレも決断をすることにした。



『すでにお主の部屋におるよ。全員一緒にな。まだアカシャから聞いておらんかったのか』


『ああ。映像見てすぐ念話したから。分かった。オレももうすぐ着く』



 まさか、すでにオレの部屋に全員いるとは…。

 人のことは言えないけど、スルティアの能力の前では鍵とかプライベートとか関係ないな…。






「お前ら、やってくれたなー」



 部屋に入るなり、オレは笑いながらアレク達に声をかけた。



「つい、やってしまったよ。迷惑だったかい?」



 珍しくアレクがいたずらっ子のような顔をして聞いてくる。



「んなわけあるかよ! …ありがとな」



 オレのために怒ってくれたことが迷惑なわけがない。

 前半は冗談めかして言ったが、色んな感情がこみ上げてきて、後半はちょっと小声になってしまった。



「ぷっ。セイ、ちょっと赤くなってるの」



 とりあえずベイラはしめる。オレはそう決意した。




「で、どうするんじゃ? ワシに話があるということは、大体想像つくが」



 ベイラへの制裁が終わったころ、スルティアが話を本題に戻してくれた。

 オレはありがたくそれに乗っかることにする。


 ベッドの上に倒れ込んだベイラが、「スルティア、お前、もうちょっと早く言うの…」とか言ってるけど全員がスルーした。



「ノバク殿下とペトラ殿下とは完全に敵対した。ごめん。あいつらとは相容あいいれなかった」



 オレはスルティアに謝った。


 スルティアがずっと守り続けた王国、その王族たちとは、できれば良好な関係を築いていきたかった。

 フィリプの子孫に対して、スルティアが思い入れが無いわけがない。



「ずっと見ておったから、分かっておる。ヤツらが自分で選んだことじゃ。仕方あるまい。ワシもあいつら、嫌いじゃし」



 スルティアは少し残念そうに溜め息を吐いた。

 スルティアは学園内のことは全て把握できる。

 今までのオレとノバクやペトラのやり取りも全て見ていたようだ。

 ……ん?



「スルティア、あいつらのこと嫌いって言った?」


「聞き間違いではありません、ご主人様」



 あんまりにも想定してなかった言葉が出てきたから聞き返したら、アカシャが答えてくれた。

 聞き間違いではないらしい。



「うむ。フィリプだって元平民じゃぞ。あいつらのやっていることは、自分達の先祖をバカにしてることと変わらん。不愉快じゃ」



 スルティアは怒っているというよりは残念そうに話す。

 フィリプの子孫にあんなのがいて残念ってことなのかなぁ。

 感情を読むのは難しいな。


 まぁ、とにかく。スルティアがあいつらと敵対するのを気にしないのなら良かった。



「それで、どうするのよ?」



 ネリーが改めて聞いてくる。



「簡単に言うと、もうあの2人の好きにはさせないってことだけど…。そうだな、まずは学園内でのあいつらの影響力を下げようか」



 オレがそう言うと、皆は「いいんじゃないかな」というような顔で笑って頷いた。





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